魔性の魅力、フカヒレせんべい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事: 熊元 啓一郎(ライティング・ゼミ平日コース)
「ん? これってえびせんじゃない?」
それが、フカヒレせんべいの一口目を食べた時に発した僕の言葉だった。
先日横浜に遊びに行った大学院の助手さんのお土産だ。横浜中華街で買ってきたらしい。
直径7cmくらいの丸くて薄いせんべい。少し塩味が効いていてパリッとした歯ごたえで、サクサク食べられる。まるで海老煎餅だ。
パッケージには、フカヒレの奥深い味わいと書いてある。
食べれば食べるほど深まる疑問。
僕はフカヒレの味を追いかけるように一口、また一口と食べていく。
最後の一口を食べ終わった時、僕の頭の中に根本的な疑問が浮かび上がった。
そもそも、フカヒレってどんな味だっけ?
フカヒレ。
サメの尾びれや背びれを乾燥させた中華食材で誰もが知る高級食材だ。
フカヒレを使った有名な料理といえばスープ。
学生の頃、大叔母に連れられて横浜の中華街に食べに行ったことを思い出す。
「美味しい! トロトロで口の中を溶けていくみたい」
初めて食べるフカヒレ。その美味しさに僕は感動していた。
「そんなに美味しいんだったら、私の分も食べるかい?」
僕があまりにも感激したためか、大叔母が自分の分まで僕によそってくれた。
「おばちゃん、ありがとう!」
僕はすぐに新たに注がれたスープを口にする。
一口食べると口の中に芳醇な味わいが広がっていって、少し熱めの温度とともに喉の奥を通り越すあの感覚は本当に素晴らしいものだった。
あの鳥や椎茸など旨味を凝縮したような濃厚な味がなんとも……って、あれ? 鳥? 椎茸?
もしかして、あの味ってフカヒレの味じゃない?
僕は記憶を思い返しながら考える。
そんな時だった。
「そもそもフカヒレって味は無いよね」
隣でフカヒレせんべいを食べていた教室の先輩がびっくりするようなことを口にする。
「そ、そうなんですか?」
フカヒレの知識が全くない僕は、先輩に聞き返す。
「そうだよ、フカヒレスープだって鳥や椎茸、海鮮から取れた出汁で味付けされているんだから」
博識な田口先輩はさらに続ける。
「そもそも、フカヒレって食感重視なんだよ。味って言うよりも、トロッとしたなめらかな食感を楽しむ感じ」
どうしてそんなものを煎餅にしたんだろうね、という疑問を付け加え田口先輩は不思議そうにお菓子のパッケージを見ていた。
僕は騙された感じだった。
大叔母と食べたフカヒレ、あれは思い出の味だった。
旨味の詰まった濃厚な味わい、それを煎餅で味わうことができるのでは無いかと僕は期待していた。
しかし、僕はフカヒレを知らなさすぎた。
フカヒレは味を楽しむものではなくあのトロトロの食感を楽しむものであり、鳥や椎茸、海鮮の出汁が食感と調和してあの濃厚な味わいを引き出すのだ。
あの思い出の味わいは、味と食感の調和が作り出したものだろう。
せんべいになった以上、カリッやサクッといった食感しかない。味も少し塩気の効いた味しかしない。そんなものが、フカヒレの味になるはずがない。
なんて看板倒れなお菓子なんだ。
フカヒレの深い味わいってなんだったんだろう?
落胆しながら僕は一口食べる。
また、一口、さらに一口……。
落胆しながらも口が進む。
あれ?
知らず知らずに僕は3枚目に手を伸ばしていた。
結構美味しいぞ、これ。
1枚目、2枚目を食べた時には気がつかなかったが、煎餅を噛み砕いたあとに徐々に口の中にコクのある味が広がっていく。僕は口の中に広がる味わいを追いかけていく。様々な具材が濃縮されたような味。
あっ、これは!
そう、これは横浜で食べたフカヒレスープの味みたいだ!
もちろん食感が全く異なるので同じ味なわけはでは無いが、このせんべいの中には、奥深い味わいがあって、食べれば食べるほど確かにその味わいが深く口の中に広がっていく。その味わいは、せんべいの食感も加わってなかなか病みつきになる美味しさなのだ。
これが、フカヒレせんべいの奥深い味わいなのか。
僕は嬉しくなってついつい何枚も食べてしまった。
そしておそらく、僕以外の人もこのせんべいの魅力に気がついたからだろう。
20枚近くあったフカヒレせんべいはその日のうちに無くなってしまった。
フカヒレせんべいは魔性の魅力を持っている。
それはフカヒレ本来とは全く異なる食感であるにも関わらず、フカヒレスープのような濃厚な味わいを楽しむことができるからだ。そして、せんべいの食感もあって病みつきにさせてしまうのである。
実際のフカヒレよりも安価なフカヒレせんべい。
横浜に行かれた方は是非ご賞味してはいかがだろうか。
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