卒業しません、勝つまでは!
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記事:わかっぺ(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
電光掲示板をじっと見つめ、しばらくの沈黙の後、映し出された「1」の数字。その瞬間、私の優勝が決まったことが分かった。
大学1年生の4月、サークル勧誘の場にいたものの、私は決めていた。大学に入ったら、マリンスポーツをやるのだと。全くやったことのない何かをやってみたかったし、こんがり小麦色に焼けた肌の女子大生になるんだ、と不純な硬い決心があった。だから、色々なサークルからの勧誘をうけても、気持ちは揺るがなかった。私の小麦色の肌の女子大生像は、むくむくと膨らみあがっていた。
大学1年の5月、なぜか私は全くやったこともないスキーをしていた。スキー部に所属しているたまたま知り合いだった大学の先輩に、半ば強引に飲み会に連れて行かれ、あれよあれよと言う間に気づいたら、スキー部に勝手に入っていることになっていた。それも競技スキー部というタイムを競うスキーである。
スキーなんてやったことのないど素人の人間が、タイムを競う競技スキーなんて、無謀すぎる話で、リフトに乗ることすらできない。乗れても、リフトからうまく降りれないし、止まりたいところで止まれず、人にぶつかる……。
そんなことを繰り返した。果てしない道のりだった。けれど、負けず嫌いの自分は、繰り返し練習した。スキーなんかやるつもりなかったのに。
しかし、繰り返しているうちに、なんとか斜面の上から下まで自力で降りてこれるようにはなった。大学の部活、といっても、体育会レベルの部活ではなかったが、年に1度全国の同じ学部が集まって開催される大会があり、みんなそれを目指して練習し、競っていた。
そんなこんなで大学1年の1度目のスキー大会がやってきた。
結果。もちろん散々。というか、完全に蚊帳の外状態。
トップの人達は全くもって滑りが違かった。フェラーリと原付バイクくらいの違いがあった。
「こんなの絶対に無理だよ。どんなに頑張ったって、小さい頃からスキーしたことある人達に追いつけっこないじゃん」
けれども、この圧倒的な差を見せつけられたにも関わらず、なぜか自分の中で沸々と闘志が湧いてきた。
「絶対に優勝する。この人達に勝つんだ」と。
今考えても、どうしてそんな無謀な目標が持てたのか分からない。運動神経も大してよくない、というかむしろ悪い方の自分が、スキーをやったこともないのに、優勝という目標を掲げたのか。本当はマリンスポーツをやって小麦色の肌になる予定だったのに、どうしてこんなにもスキーにはまり、勝ちたい、と思ったのか。
そして、無謀にも関わらず、私は周囲にこう言った。
「卒業しません、勝つまでは」
そこからの自分はスキーが上達するために、ありとあらゆることを考えた。スキー場がオープンしている期間は、ほぼ毎日スキー場に通った。春になりスキー場の営業が終わると、今度は夏でもオープンしているスキー場を探して、どこまででも一人で行った。もちろん大学なんて行ってる暇はない。スキーはお金もかかるので、スキーに行かない日は、アルバイトを詰め込み、お金を貯めた。お金を貯めて、夏は南半球に長期間滞在してスキーの練習をした。狂っていた。1年間に100日以上はスキーをしていた。ゴーグルの跡がくっきり残る雪焼けの小麦色の肌になっていた。
それでも、運動神経の悪い私は、そう簡単には上達しなかった。確かにそれなりに滑れるようにはなったし、毎年、少しずつ大会の順位はあがった。ただ、優勝できるレベルではなかった。大会が終わるたびに、一人で大泣きしていた。けれども、あの時に決めた自分の決心は揺るがなかった。
「卒業しません、勝つまでは」
そして、大学に大して行っていなかったにも関わらず、なぜか学業生活は順調にきてしまい、ついに大学卒業、という年まできてしまった。
ついにきた大学最後のスキー大会。大会は、私がホームグランドとして毎日練習をしていたスキー場での開催であった。
「もうこれで、最後。『卒業しません、勝つまでは』と言ったけれど、勝てなくてももう大学は卒業なんだ。とにかくやるっきゃない」
ピ・ピ・ピ・ポーン
いよいよスタートした。皆の「ガンバ」という大きな声が後ろで大きく大きく響き、私を後押ししていた。
その時、不思議な感覚が自分を襲った。全ての感覚が一つになるような、いや無になるようなと言うべきか、自分以外の周りのものが何一つ入ってこないような、全く経験したことのない感覚だった。それは緊張というものとも違う、むしろ一切緊張していないような、そんな感覚の中、斜面を滑り降りた。自分でも驚くほど、今までで一番の滑りをしていた。
ゴールを切り、電光掲示板を見た。しばらくの沈黙。
「お願い」
掲示板に示された「1」の数字。
「勝った」
勝った、ついに勝った、優勝した。自分は勝ったんだ。
みんなが駆け寄ってきた。みんなに度上げされた。冷たい雪をかけられた。スキー場のスタッフも皆、私の滑りを応援しようとゴールで待っていて、泣いてくれていた。大学の仲間も皆泣いていた。これで悔いなく卒業できる。
全てをスキーに捧げた大学生活。有言実行ギリギリ間に合った。
「卒業しません、勝つまでは」
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