新しい国造りに「言葉」が果たす役割
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:いわし(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
「この村の小学校に通う子供たちの8割が、両親以外の人に育てられています。」
私は「えっ、どうゆうこと?」と聞き返した。
昨年の1月、私は、勤める会社がユニセフと一緒に行っている「ミャンマー語を教えることのできるミャンマー人の先生を育てるプログラム」の視察のためミャンマーのカイン州に行く機会をもらった。カイン州はタイ国境を接する地域だ。カイン州では今でも民族間の争いがあるため、立ち入りには政府の許可が必要だ。
ミャンマーという国は、先日、イオンが出店を決めるなど、これから急速に経済発展が見込まれるアジアの最後の国と言われている。ちなみに、私はイオンが出店するかどうかで、その国の経済発展度合いが図れると考えている。イオンが出店するということは、GDPが増加し都市部での消費中間層が増えてきているということだからだ。中国でイオン第一号店がオープンしたのは1996年、ベトナム、カンボジアは2014年、ミャンマーでの開業は2023年だ。
ただミャンマーには課題が残されている。
2015年に、アウンサン・スー・チーが率いる政党LNDが政権を取るまで、国は軍政下におかれていた。民主的な国づくりが始まったのは2015年からだ。教育・行政システムを含め国造りは途上だ。
ミャンマーの人口は約5200万人だが、大小135の民族が存在している。ミャンマーという国は135の民族の寄せ集めなのだ。そうすると、私たちが思う「日本人の〇〇さん」のような「ミャンマー人の〇〇さん」は存在しない。存在するのは「ミャンマーに住む〇〇民族の〇〇さん」だ。
ミャンマーでは民族対立が今もなお起こっている。
民族対立が起こる原因はいろいろあるだろう。対立の原因が水の配分なら、話し合って、解決の着地点を見つけ出せばよさそうなものだ。色々な利害関係が絡んでいるのだろうが、要はコミュニケーションよく、対話すればいいと思ってしまう。だが、違う民族の間では、その「コミュニケーションよく」が難しい。ミャンマーでは同じカイン州に暮らす人でも、パオ・カイン族とポー・カイン族で話す言葉が違うのだ。
想像してみよう。あなたは、隣の家に引っ越してきたフランス人と、庭の枝が敷地内に入り込んだことで揉めている。あなたはフランス語が話せない。隣のフランス人は日本語が話せない。当然、自分の主張を伝えるには、間に、日本語とフランス語が分かる通訳が必要になる。トラブっているのに通訳を挟んで、お互いの主張を言うのはまどろっこしい。そもそも、自分が主張していることが、隣のフランス人に正しく伝えられているかすらわからない。そんな状況では、問題の解決に非常に時間と労力がかかる。
こんな時、あなたも隣のフランス人も、流暢に英語が話せたら通訳はいらない。『共通言語』である英語でお互いの主張を伝えればいい。
ミャンマーが抱えている問題は、お互いに言葉が通じない、あなたと隣のフランス人の間の問題と同じだ。
ミャンマーにも「ミャンマー語」という公用語はある。しかし、「ミャンマー語」はミャンマーでは『共通言語』ではない。
今、小学生の子供を持つお父さん・お母さんの世代であっても、未だに自分の民族の言語しか話せない人も多い。実際、私が視察している際に、小学校のPTAの委員との会話で起こっていたのはこんな具合だ。
私が日本語で質問をする、私の日本語の質問を日本語検定1級を持つ会社のミャンマー人のスタッフが「ミャンマー語」に訳す、「ミャンマー語」の質問を現地の「民族語」を話せるユニセフの職員が「民族語」に訳して、やっとPTAの委員の人に私の質問が伝わる。そして逆のプロセスで私に回答が返ってくる。普通の会話の3倍は時間がかかるし、伝わる情報量も少なくなってしまう。これでは庭の枝の問題を和解するまでに、3日はかかりそうだ。
ミャンマーの田舎はまだ農業が産業の中心で現金収入の大きい仕事が少ない。しばらく前までは自給自足、物々交換で生活で来ていたのだろう。だが今は現金がないとモノが買えないので生活できない。だから出稼ぎで現金を稼ぐ必要がある。そのために両親はタイに出稼ぎに行く。両親が出稼ぎに出ている間、子供たちの面倒をみるのは、祖父母、親戚、村の人たちだ。冒頭の「この小学校に通う子供たちの8割が、両親以外の人に育てられている」とはこういうことなのだ。
両親がタイまで出稼ぎに行くのは、タイの方が現金収入を得られる仕事があるからだ。それは理解できる。
ただ理由はそれだけではない。ミャンマー国内の都市部に行っても言葉が通じないのだ。同じように言葉が通じないのであれば、国境を越えたタイの都市もミャンマーの大都市のヤンゴンも、彼らにとっては同じ「外国」なのだ。
小学校の先生は、一応「ミャンマー語」と「民族語」のバイリンガルだ。だが生活で使うのは、はやり「民族語」だ。日本人向けの小学校なのに子供たちは家では「英語」しか話しておらず、「日本語」が苦手な先生が子供たちに「日本語」を教えるようなものだ。
だから「ミャンマー語を教えることのできる先生を育てる」ことが必要になる。
話す言葉はその人のアイデンティティに強い影響を与える。そして『共通語』を話せることは、その国において、平等に教育を受ける権利と、自由に仕事を選べる権利、を行使する大前提だ「民族語」しか話せないカイン州の高校生は、どんなに優秀でも、公用語である「ミャンマー語」で授業がされてる国立ヤンゴン大学には入れないだろう。また、その高校生は、「ミャンマー語」で募集要項が書かれた国家公務員募集も受けられないだろう。
ミャンマー政府は、新しい民主的な国造りを進めていくなかで、この『共通語』を持つことの重要性に気が付いた。だから、これからのミャンマーの未来を担う子供たちに、民族に関係なく公用語である「ミャンマー語」を教えることを政策の重点課題に掲げているのだ。
ミャンマーに生まれて暮らす全ての人が、『共通語』であるミャンマー語を話すようになって、初めて「ミャンマー人」が生まれ、「ミャンマー」という国が成り立つのだ。
ちなみに子供たちにとって、「ミャンマー語」を学ぶもの「英語」を学ぶのも、一から学ぶ点では同じなので、小学校1年から国際『共通語』の「英語」も教えられている。この子たちが高校を卒業するころには「ミャンマー語」「英語」「民族語」のトリリンガルになっているだろう。国も豊かになり、国際的にも活躍する優秀な人材が多く輩出されているに違いない。
将来、国が豊かになって「ミャンマー人」向けのライティング講座が開講されているかもしれない。ただし、その時使う言葉は、記事としてニーズが高い、国際共通語となっている「英語」かもしれないが。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325
■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984