99.9%の「教科書に載らない人々」の影響力
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記事:佐々木保奈美(ライティング・ゼミ日曜コース)
2020年8月6日の朝、ひとつのツイートが目に飛び込んできた。
「【1945年8月6日】ものすごい光 地響き、家が揺れて 電気の傘やガラスがふきとんで」
誰かがリツイートした、「ひろしまタイムライン」と「もし75年前にSNSがあったら」というハッシュタグがついたツイートだった。
NHK広島の企画で、75年前の原発を体験した広島の人々の日記をもとに、日付を合わせてツイートされているものだ。専用のTwitterアカウントは3人分あったが、私が見つけたのは当時妊娠中の主婦「やすこさん」のものだった。
Twitterがタイムマシーンになった瞬間だった。
ちょうど今、日本のどこかで大地震が起きたという知らせを聞いたような、平和すぎる日常からたたき起こされたような冷静な恐怖感と、ほとんどできることはないはずなのに今すぐ状況を知りたい気持ちが、75年前に起こった出来事にもかかわらずたしかにあったのだ。8月6日の朝、「ひろしまタイムライン」を追っている人はそんな気持ちになったと思う。私たちはあの瞬間、75年前を生きているかのような感覚だった。
とはいえこれまでだって、Twitterはどこでもドアだった。先ほどの地震の話ではないが、まるで自分が本当に「それ」を見ているかのように心を痛め、時には怒りを覚え、これ以上ひどくならないように祈る。行ったことのないベイルートの大爆発も、会ったことのない誰かの闘病も、規模の大小や自分との距離感に関係なくあらゆるものが対象になる。子どもの頃はテレビのニュースや本で知ったようなことが、ネットの力でほぼ時間差なく伝わり、良くも悪くも、空間を超えて自分事のように共感する。それがついに、空間だけでなく時代をも超えたのだ。現代人は本当に心が忙しいと思う。
恥ずかしながら、「ひろしまタイムライン」がなければ戦争への興味は半分以下だったのではないかと思う。75年前は近いようで遠い。自分の親が生きていないくらい遠い出来事はどうしても「概念」になりがちだ。ましてや、学校の教科書で学んだ歴史は鉛筆で線を引く前の点つなぎだ。8月6日と9日、そして15日の「出来事」のみがピックアップされて記憶している。
ひろしまタイムラインを追うごとに、原発を生き残った人々が見た広島の惨状、それでも流れる毎日の生活、人々の勝利への執着、そして戦争への違和感との葛藤。それらが知識としてではなく、ともに生きる人々の発信としてタイムラインに流れてくる。「戦争はいけない」「原発はいけない」がどこかテンプレートされた常識だったところから、心の底からの、私個人の意思に変わった。でも、これは2020年の今だからスムーズに行き着いた結論だ。当時を生きていた人々は勝つためなら戦うといった価値観を持っていて、原発を落とされたあとも、終戦してからもすぐに「戦争はいけない」と思えていないことが感じられた。同じ感覚を味わった気になっていても、やはり私は2020年を生きていることを思い知らされる。
ふと思った。
同じように、2020年を生きる私は未来行きのタイムマシーンに乗れる可能性はないのだろうか。
もちろん、未来人のツイートを見ることはできない。Twitterはどこでもドアでありタイムマシーンと書いたが、ここは三次元だ。ドラえもんが生きている四次元の世界ではない。時間は未来へしか進まない。
何が言いたいかというと、75年前の広島の人々が日記を残してくれたように、私たちが書き残した文章が、遠い未来の誰かに影響を与える可能性はないのだろうかということだ。
現代だったら、文章だけではなく動画や音声も残るかもしれない。SNSはさすがにシステム自体がなくなってしまったら残らないかもしれないけれど。
私が戦争や原発を初めて自分事に感じられたのは、実際にそこにいた人々の声を聞いたからだ。出来事のみを綺麗にコーティングした教科書では適わなかった。
どの時代でもどの場所でも、ほとんどの人は教科書に載らない、歴史に名が残らない人だ。そういう人達の声のおかげで、私は認識を変えることができた。そして、現代を生きる99.9%以上の人は教科書に名前が載らないからこそ、未来で私にとっての「やすこさん」になる可能性がある。
これは、いま名が残らないから未来で知って欲しいとか、そういう承認欲求の塊みたいな話ではない。もう一度言うが、現代人は心が忙しい。毎日のように自分のことではない誰かについて、悲しんだり心配したり、怒りの感情を持っている。だけど、そんなにも心を削ってしまうとしたら、受け取ってばかりなのも原因のひとつであると思う。どう考えてもバランスが悪すぎる。
私のこの毎日が令和2年を生きたひとりの人間として未来のなにかに繋がっていると思うと、自分の人生を馬鹿にできないような気持ちになってくる。私たちの人生そのものが、誰かに影響を与える側になりうるのだ。
***
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