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どうして漫画の実写映画化は敬遠されて、舞台化ばかり盛んになっていくのか


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記事:過客(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「累計2000万部突破の人気ファンタジー漫画が実写映画化!」という宣伝文句を見た時、そしてその漫画があなたがよく知るものだった時、何を思うだろうか?
嬉しい、楽しみといったポジティブな感情より先に、おそらく「不安」の二文字がよぎると思う。
ストーリーが原作の面白さを損なうほど改変されていたら? 俳優が棒読みだったら? そして何より、ファンタジー漫画なのに、いかにも作り物っぽい、ハリボテな演出とキャラクターになってしまったら?
思い当たる映画がある人もいるかもしれない。それほど漫画、それもファンタジー漫画の実写化は難しく、成功例も少ない。
 
ところが、同じ実写化なのにファンにも歓迎され、今や一大市場となったコンテンツがある。
漫画の舞台化だ。
テレビや雑誌などではあまり取り上げられない(広告を打たない)ので知らない人も多いかもしれないが、漫画原作の舞台化は実写映画化・ドラマ化より遥かに数が多く、今や人気漫画といえばアニメ化と舞台化がセットになることがほとんどだ。その中にはもちろん、ファンタジー漫画の舞台化も盛んに行われている。
いわゆる2.5次元舞台(漫画は二次元の世界、実写は三次元の世界なので、その間という意味で2.5次元と呼ばれる)と呼ばれる演劇ジャンルは、2019年で200億円を超える市場規模になっている。
 
実写映画化よりもファンに歓迎され、人気を博している舞台化。全く知らない人は、さぞクオリティ高く仕上がっているだろう、と思うかもしれない。
特に実写化の醍醐味かつ、下手を打つと白けてしまう「漫画の奇抜なキャラクターや独特の世界観をどう現実に落とし込んでいるのか」については、どんな技術が使われているか気になってくるだろう。
 
ここでよければ、自分の好きな任意のファンタジー漫画の舞台版がないか調べてみてほしい。アニメ化している漫画だったら、高確率で舞台化もしている。
きっと、メインビジュアルとキャラクターを見て驚くだろう。
俳優たちが扮するキャラクターは『漫画のような』な髪の色をしておまけに奇抜な髪型、鮮やかなカラーコンタクト、そして漫画そっくりそのまま同じ服装だ。
 
そう、実写映画化で何よりも忌諱される「作り物っぽい」感じが、全く拭えていないのである。
 
しかしこの作り物っぽさに、ファンが不満を言うことは少ない。なぜか。
それは舞台化には、「作り物であること」「偽物であることが許される」という前提があるからである。例えるなら、漫画原作の舞台は「レストランの食品サンプル」なのだ。
 
レストランの店先に置いてある食品サンプルを見て、まさか「こんなプラスチック製のものを出されても食べられない」なんて思う人はいないだろう。食品サンプルはあくまで模造品、本物の料理を想像させるためにある。食品サンプルという時点で、見る人はそれを「本物ではない」と知っているので、それが多少作り物っぽくても大した問題にはならない。
重要なのは、例えばトンカツ定食の食品サンプルを見て、大きなトンカツだからお腹いっぱいになりそう、こっちの定食は野菜もあって美味しそう、などと想像することにある。食品サンプルが本物の料理を雄弁に語る時、見る人は食品サンプルに本物を見出すのである。
 
漫画の舞台化も同じだ。演劇の最大の特徴は、観客と役者が同じ時間に、同じ空間に存在することになる。舞台上にいる人間は、明らかに自分と同じ人間だ。同じ人間なのに、別の人間になり切って語り、叫び、そして時には死ぬことさえある。もし街中で誰かが同じようなことをしているのを見かけたら、きっと引いてしまうだろう。
しかし舞台上ではそれが許される。なぜなら見ている人は、それを「本物ではない」と知っているからだ。目の前で動き回る人間は自分と同じ人間で、電車だって乗るし、スマホも使う現代人だ。しかし舞台上で演技をしている間は、そんな現代人を、西洋の中世の頃の騎士を、未来社会のアンドロイドを、異世界の魔術師だとみなす。役者を通して、架空の世界や人間を想像しているのだ。
 
ファンタジーではないが、分かりやすい例として挙げられるのは、スポーツ漫画の舞台化だろう。
自転車競技の漫画が舞台化された時、舞台上の役者達は本物の自転車には乗らなかった。代わりに自転車のハンドルだけを握り締め、舞台上を駆け抜けたのだ。
そこだけ切り取ってみれば、なんとも奇妙な光景だ。しかし自転車がなくても、観客はそこに自転車を見出し、競技にかけるキャラクター達の思いに感動し、共感し、心を大きく動かされた。本物ではないことを知っているから、舞台上から提示される『偽物』に想像を膨らませることができたのだ。食品サンプルという偽物を見て、本物の料理を想像するのと同じだ。
 
これが実写映画化だとそうはいかない。映画を見る時、観客がいる時空と、スクリーンの向こう側で繰り広げられる世界の時空は全く異なっている。だからこそ、映像作品は「完璧な本物」が求められてしまう。
映画を見ている時、自転車のハンドルだけ握った人間が走っていたら「この世界の人間は気でも狂っているのか?」と思うだろう。現実ではありえない色をした髪なんて、いかにもカツラっぽくてチープに見えてしまう。先ほどのレストランの例を引き合いに出すなら、メニューに掲載された料理の写真までもが食品サンプルのようなものだ。そこは「限りなく本物に近いもの」でないといけないのである。
 
漫画の舞台化は作り物っぽくても受け入れられる。むしろ作り物に振りきって、漫画のキャラクターの奇抜な外見をそのまま再現した方が、キャラクターが記号化されるので観客は想像を膨らませやすい。そして「偽物でもいい」という前提が、フィクションの世界、ファンタジーな漫画世界を実写化する上で障壁を取り払ってくれる。本物と見紛う世界を作り出すCG合成の技術なんて不要だ。役者が手のひらをかざし、敵がのけ反ったのなら、魔法の攻撃が放たれたのだと観客は理解できるからだ。
 
実写映画化は敬遠され、実写舞台化は一大市場になっているのに、この「舞台には非現実の世界を受け入れる準備が整っている」というのが大きな要素の一つとしてあるだろう。だから漫画の舞台化は盛んになり、200億円の市場規模になった。コロナウイルスの影響で、演劇業界は大打撃を受けているが、役者と観客が、同じ時間と空間を共有し、双方の想像力を駆使して虚構の世界を見出す楽しさは、他の何物にも代えがたい。
気になる漫画が舞台化されたら、ぜひ劇場に足を運んでみて欲しい。スマホでアニメを見るのとはまた違う、わくわくするような体験を通じて、その漫画の新しい魅力を必ず見つけられるはずだ。
 
 
 
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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