髪を引き算したら人生の本質が見えてきた話
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記事:いいだれいこ(ライティング・ゼミ平日コース)
「いやー、いいださん、ほんとうに髪が密ですよね」
いくら私の髪をすいてもなかなか減らないという。髪の毛が細いからぱっと見は分からないけれど、どうやら普通の人の2倍の量はある勢いらしい。
コロナ禍の3密をもじってこんなことを言ってきたのは、全幅の信頼を置く美容師ミウラさんだ。
まったく、笑わせてくれる人だ。
だが、そんな笑いとは対照的に、私は思春期の頃からとにかく髪に悩ませられていた。髪の毛の量が多い上にくせやうねりもある。そして、細いため傷みやすく常にパサついている。何もしないでいると、まるで扇子のように扇形に広がりまったくまとまらない。
おしゃれに目覚めた高校生になった頃からずっと、くせの強い所は縮毛矯正をかけるのは当たり前、毛先はやわらかい表現にしたくてデジタルパーマをあてたりもしている。広がりを抑えるためにヘアオイルやワックスなどは常用。自分の髪に合う整髪料を探し求める整髪料難民になった時もあった。
それが、今では髪に悩むことがあまりなくなったのだ。
縮毛矯正は外せないが、それ以外ほとんど手をかけていない。
自分史上最高の髪になっているからだ。
これまでは、足し算をするようにあの手この手で髪に整髪料や美容液を塗りまくり、手をかけていたのだが、効果は一時的で根本的な解決にはなっていなかった。足してばかりいるから、やたら時間がかかることにも大変うんざりしていた。
では、何をして悩みから解放されたのか。
実は「ほとんど手をかけていない」ことがポイントだ。
髪をお湯で洗うだけというシンプルなことを実践している。湯シャンとも言われている。
シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアオイルなどは極力使用しない、引き算する考えで髪のケアをする。
シャンプーを使わないとニオイや頭皮のべたつきが気になるかと思っていたが、湯シャン前と後で変わらなく、予想以上に快適なものだった。何となく髪がべとつくなあと気になったときだけシャンプーやコンディショナーをする程度。今は夏なので2、3日に1回の頻度で使用している。
そんなシンプルな湯シャンだが、効果は大きなものだった。
まず、頭皮のかゆみがなくなったのだ。夏場に汗で蒸れてちょっとムズムズかゆい…… ということがなくなったのだ。私の肌は敏感で乾燥気味のためヘアトニックだけは毎日使っているが、以前より髪が落ち着くようになりパサつきも気にならなくなってきた。
そして、思いがけず顔のかさつきも改善されたのだ。お風呂上り直後のかさつきがだいぶ改善されている。湯シャンにしたことで頭皮の皮脂を必要以上に取らなくなったからだろうか。結果、顔へも良い効果があったのだ。これはラッキー!
まさに、棚からぼた餅である。
こうして、足し算してもダメだった私の髪は、引き算してみたらとても心地良よくなったのだった。
シンプルにしただけなのに。なんてこった! 今までの悩みは何だったのか。
悩んだ事は無駄ではなかったと自分に言い聞かせながらも、引き算するという考えがいかに大切で素晴らしいことかを知る機会となったのだ。
そして振り返れば、この引き算するという考えが様々な場面で活用できていることにも気づいた。
例えば、相手に何かを話すとき。起きた事を最初から最後まで時系列で話していたら、相手は「はて? 私に何を聞いてほしいのかしら」と思ってしまうだろう。まずは、何を聞いてほしいのか引き算をするように考える。そして、要点やポイントを最初に話すことで、相手も理解しやすくなるものだ。
文章を書くときだってそうだ。仕事で製品マニュアルを作成していた頃は、わかりやすくシンプルな文章を書くことを求められた。あれもこれもと書きたいところだが、仕様について正しく伝わるように引き算して「一文一意」を徹底する。2通りの意味にとれるようなあいまいな文章や、同じようなことが重複されたまわりくどい文章は誤解を招く要因になるからだ。
この先、人生の様々な場面で迷いが生じることもあるだろう。逆に思いが強くなり考えすぎているなと感じることもあるだろう。そんな時は、考えや行動の引き算をしてみよう。答えは案外シンプルだったりするのかもしれない。
美容師ミウラさんに毛量を引き算してもらった私の髪はとてもシンプルになり、さらに扱いやすくなった。
髪で気づいた人生を引き算するという考え。次は何を引き算するのだろうか。
自分史上最高の髪を触りながら、何だかワクワクしている自分がいる。
***
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