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メディアグランプリ

目の見えない4人で世界をじっくり見た話

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大下歩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「わー、ほんとになんにもない!」
「大丈夫かな……」
「ここまで来たら行くっきゃないね」
ホームに降り立ったところで、私たちは顔を見合わせて口々に言い合った。興奮と不安がどっと押し寄せてくる。ここから目的地である三重県五桂池故郷村キャンプ場まで、グーグルマップによると徒歩でおよそ30分。田舎の道を、ひたすら歩くことになる。いや、今回ばかりはグーグルマップの情報をうのみにする訳にはいかない。倍の1時間見ておく必要がある。なにしろこれは、全く目の見えない仲良し4人組の旅なのだ。
私と友人夫婦、そして後輩の男の子。同じ盲学校出身のこのメンバーで、9月の連休にキャンプに行こうと思い立ったとき、「できるだけ駅から近いところがいいね」とまず話し合った。キャンプ場というのは当たり前だが豊かな自然を楽しむところだし、たいてい車で行くことが想定されているので、電車とバスを乗り継いで行く身には少々行きづらいことがある。あちこちのキャンプ場のサイトを覗いた中で、駅から徒歩30分というのは悪くなかった。きれいなキャビンやバーベキュー場にも心惹かれた。そこで晩ご飯のカレーの材料をリュックに詰めて、意気揚々と三重まで出かけてきたのだ。
だから決して、長時間歩くことが嫌だった訳ではない。ただ、実際に田圃に囲まれたかわいらしい田舎の最寄駅に降り立ったところで、「これは思っていた以上の冒険になるぞ」とにわかに身が引き締まった。
さわやかに晴れた秋の昼下がり、のどかな道に人通りはほとんどない。聞える音といえば、リズミカルなツクツクボウシの鳴き声と空気を切り裂くモズのさえずり、そしてときおりすれ違う耕運機のエンジン音ぐらい。そこを白い杖を持った若い男女4人組が、お互いのリュックに手を添えて1列になり、あえて道のど真ん中を選んで進んでいく。道の端に寄らないのは、パックリ口を開けた側溝に落ちないためだ。その様子はもしかしたら、ピッケルを手にパーティーを組んで雪山を登る登山者に少し似ていたかもしれない。
「100メートル先、右方向です」
先頭の男子のポケットから聞えてくるのは、グーグルマップの音声案内だ。地図そのものを見ることはない私たちだが、この音声機能はとても頼りにしている。たとえその場所を歩くのが初めてで、近くに道を訊ける人がいなくても、この案内に従って行けばたいていちゃんと目的地にたどり着けるからだ。
などと安心しきっていたのが悪かった。気づいたときには私たちは、道無き道に迷い込んでいた。草の絡んだ柵と石の塀とにはさまれた、人一人がやっと通れるような狭い隙間。
「こっち絶対違うよ!」
「でも地図がこっちだって言ってる」
「もうちょっと行ってみる?」
「やめた方がいいかも」
ああだこうだ言い合いながら、奥へと潜っていく。わけもなく胸が高鳴る。
そのとき、後ろから声がした。
「自分ら大丈夫か?どこ行くん?」
車が停まる音がして、おじいさんが1人降りてきた。私たちの目的地を聞いて、快くメインの通りまで案内してくれる。私たちが迷い込んだのは、おじいさんの家のガレージだった。帰ってみたら自分の家の前を白い杖の集団が占拠していたのだから、さぞ驚いたに違いない。申し訳ないと思いつつ、無事通りに戻れた安心感も手伝って、私たちはしばらく笑いが止まらなかった。
この後も、私たちは歩きながら些細なことで笑い転げた。通りすがりの車がものすごい音をたてて白線を踏んで行ったとか、4人のうちの誰か1人が偶然落ちていた空き缶を蹴っ飛ばしたとか、「ジー…」という機械音に、自動販売機かと思って近寄ったら人の家の室外機だったとか。4人でなんとか目的地までたどり着かなければというプレッシャーで、脳が興奮状態だったのかもしれない。高揚感と不安感が、常に五部五部のせめぎあいをしていた。
小学校の遠足を思い出していた。一見何もないように思える田舎の道が、驚きと発見に満ちあふれていた。速さや効率を度外視することで出会えるものがある。とてつもなく時間はかかるが、その分世界とじっくり対話しながら進んでいる感覚。見える人に案内されていたらきっと味わえなかった。
そして、秋とはいえかんかんと肌を刺す日差しに私たちの口数が次第に減ってきた頃ついに、
「目的地に到着しました」
グーグルマップが待ちわびたセリフを発した。何台もの車が吸い込まれていく先に、たくさんの人の気配がある。子どもたちの笑い声、お母さんたちのたしなめる声、スタッフさんたちの案内する声…。五桂池故郷村に到着だ!
「やったやった!着いたー!」
私たち4人は、手を取り合って喜んだ。ここまで、あの親切なおじいさん以外誰の力も借りずにたどり着いた自分たちが、本当に誇らしかった。  そしてあの道のりを共有したことで、私たち4人の絆は確実に強まっていた。
キャンプはまだ始まったばかり、これから火起こしと料理という大仕事が待っていたが、このメンバーでならなんだってできる、心からそう思えた。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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