わたしと母とガーベラと。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:永澤 彩香(ライティング・ゼミ平日コース)
母の日といえばカーネーションが当たり前になっている花業界の中で、こどもの頃、お母さんにカーネーションを贈った人も多いはず。
そんな中、私はカーネーションを買うことに違和感を感じていた。
母に感謝をしていなかったわけではない。
どうしても、カーネーションを買う気が起きなかった。
カーネーションに魅力が無かったわけじゃない。
花屋には色とりどりのカーネーションがあって、どれも素敵だった。
むしろ、花を買うことは好きだし、花を贈ったり、貰ったりするのは大好きな方だった。
それなのに、母の日になるとブロックがかかる。
母は、本当にカーネーションが欲しいのか?
母は、カーネーションをもらったら本当に嬉しいのか?
母は、カーネーションをもらう事で感謝さたいと思っているのか?
カーネーション=『ありがとう』なんで馬鹿げてる!
なんてことを一人モンモンと考えながら母の日が来るたび、カーネーションを見るたび、私は母の日を見て見ぬふりをする日々を過ごし始めていた。
ある時、母の日に贈る花がカーネーションになったきっかけを知った。
アメリカに住んでいた女性の尊敬する母が亡くなった時、母が好きだった花である白いカーネーションを少女が贈ったのがきっかけだそうだ。
母の日とカーネーションの由来を知ると、またグルグルしだして、企業の用意された思惑に乗せられたくないような、乗りたいような……。
少し私の母の話をしよう。
母は、19歳より正社員として働き続けた人だ。
母自身「会社にしがみつく思いで通勤している」と、必死に家族を支えてくれていたのは確かだ。
仕事に関しても、家事、育児に関しても、「~しなきゃいけない」が多く、「私は家政婦じゃない!」と追い詰められていた姿を幼いながらに感じ取っていた私は、「母の迷惑にならないように過ごすこと」が無意識のうちに目標のようになっていた。
そうして、無意識の目標を達成出来たり、出来なかったりする日々の中で、家の中での私は「笑うこと」を忘れていた。思い出させてくれるのは、漫画やテレビの類いだけ。
成人してからは、家族との会話も少なく、息がうまく吸えない家からの脱出を計画していた。目標や希望を叶えたいと「夢」を振りかざしながら、本心では自分を守る行動だった。
計画は順調だった。夢の一歩も踏み出し、苦戦しながらも、心は満足していた。仲間と語り合う時間が増えることは、家族と語り合う時間の減少になることも分かっていた。
でも、私にはその重要性も分かっていなかった。
母が私をショッピングモールへ行こう誘ってくれた。何気なく、OKを出し、車に乗り2時間程の道のりの中、びっくりしたことがあった。会話が途切れない。
話しても話しても話したりないぐらいお互いが考えていること、思っていること、思っていたことを2時間も話していた。2時間も話せば喉もカラカラだ。
会話の中で、母がガーベラが好きだと判明した。
ここであることに気づいた。
私は母の「好きなもの」を知らない娘であることに。これはかなりの衝撃を受けた。
誰かの好きなものを、必要以上に覚えていた私だったにもかかわらず、一番身近な母の好きな花さえも興味を向けていなかった。
これまで、「母の日」は「カーネーション」という定義が世間では一般だったけれど、私の母に関しては、「母の日」は「ガーベラ」という初めて定義が生まれた。
私はそれ以来、ガーベラを贈っている。
私は「母の日」に花を贈りたくなかったわけではない。
むしろ逆で、花を贈りたいのに、贈りたい花は「カーネーション」ではなかっただけだった。
ガーベラを見つめる母の横顔を見ながら、1つの感情が湧き上がってきた。
「温かさ」だった。なぜ、そう思ったのか。
不思議な感覚だった。
思い出したのは祖母との記憶。祖母の背中の記憶だった。
幼いころに父親を事故で亡くしてから母子家庭だった母は、私の想像の付かない苦労と暮らしを共にした祖母をとても尊敬していたという。
母方の祖母は、私が2歳の時に亡くなった。突然の病の告知を受けるまで、働く母の代わりに私は祖母に育ててもらっていた。
私が、覚えている一番古い記憶が「祖母の背中で、うたた寝をしている私」である。
ねんねこ半纏に包まれた温かい背中で揺られる居心地の良さは最高だったと思う。
その記憶が過ぎった母の横顔は、祖母の温かさを纏っているかのようだった。
母がガーベラを好きな理由もその1つかもしれない。
祖母が家で大切に育てていたそうだ。
娘である母が嫁ぎ、初孫である私が生まれた。
これから、穏やかで温かな生活が送れそうな矢先の病気には、母の落胆する姿がまぶたに浮かぶようで、胸がキューと締められる。
母に対するギスギスした氷のように冷たくなった心にも、温度が戻ってきた気がする。
今では、私も娘がいる。
子育てに追われながらも、忘れない、忘れられない記憶を御守りにしている。
祖母が母と私を想ってくれた日々を想いながら、私は今年もガーベラを贈るのかもしれない。
***
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