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運動会でカメラがとらえてくれたのは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:坂東 愛(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「顔が恐いので印刷したものか、ご相談です」
 
子どもの学校の保護者会役員さんから届いたメールには、こう書いてあった。
 
添付の画像を開いた私は、思わず吹き出してしまった。
 
この顔はどこかで、絶対に見たことがある。
私の好奇心が、Googleに向かわせた。
とっさに浮かんだキーワードが検索の窓の中に並ぶ。
 
なぜ、こんな顔でがんばってしまったのか。
いつもはもっと笑顔で過ごしている。
この日はたまたまこんな顔になってしまっただけだ。
いや、日頃からなにかに集中しているときは、怖い顔だった気もするような?
 
パソコンで表示された検索結果をスクロールしながら、
「本人だって好きでこんな顔してるわけじゃないのに」という言葉が浮かんだ。
「だって一生懸命だったんだもん!」と主張する子どもの姿も想像できた。
わざわざ確かめなくても、子どもの答えは「印刷はダメ!」に決まっている。
 
ほどなくして、お目当ての画像が、見つかった。
 
不動明王。
 
悪しきものを退散させ、人々の煩悩や因縁を断ち切るとされている仏様だ。
 
まさに画像の子どもは、前方を行く走者を退けようとしていた。
いつもなら「疲れた」を連発し、宿題をするのが嫌だと床に転がるような人だ。
何かを我慢して耐えてやりきることなんて、できない人なのに。
 
自分の限界と過去に負けた悔しさを断ち切ろうとしているのか。
にらみをきかせ、歯をむき出しにして、走っていた。
 
だから、この画像をボツにはしないで、印刷してもらいたいと直感では思った。
 
でも、ちょっと待って。
 
もうひとりの自分の声が、はっきりと聞こえた。
 
この写真、かわいくはないよ?
とりあえず、他の人の意見も聞いてみたら?
 
少しだけ冷静になった。
 
そうだね、おばあちゃんにも聞いてみよう。
 
私は母に意見を聞いてみた。
別の角度から私が撮った、そのときの動画も確認してみた。
運動会当日、家に帰って見たはずの動画を、もう一度再生してみた。
 
こんな顔になったのは、子どもが3着で受け取ったバトンのせい。
私がバトンを受け取ったその背中を見送った直後、写真は撮られていた。
 
前とは相当差が開いているのに、子どもにはあきらめる選択なんて、なかった。
あの険しい形相は、絶対に追いつこうという覚悟だった。
 
「こんないい写真はなかなか撮れないよね」
 
母に背中を押され、私はこの写真を印刷してもらうことにした。
 
数日後、写真はA3サイズに印刷され、学校経由で我が家に届いた。
 
子どもは予想通りいやがったけれど、私は自分の仕事机の前に飾った。
 
そして、写真を撮影、印刷してくれた保護者会役員さんにお礼のメールをした。
 
返信にはこう書かれていた。
 
「本気モード、褒めてやってください。
言われてみれば、過去の運動会では、ここまでのものはなかったですね」
 
もう一度、私は動画を再生して、集中して見た。
 
「がんばったのに〜!」
なんとか宿題をやり終え、私に答えが間違っていると指摘されたとき。
子どもが叫ぶ、いつものセリフが脳内にこだました。
 
「がんばっても、まちがっていたら意味ないでしょ!」と返すのが常だけど。
 
そうじゃなかった。
私は、子どもが限界ぎりぎりでがんばっていることを認めるべきだったんだ。
 
目の前の画面、子どもが3位のまま、差を詰めて第3コーナーを曲がっている。
 
今度、子どもが何かをやりきれたなら。
まずは、がんばったことを認めてみよう。
 
幼い頃の子どもの姿も脳裏に浮かんだ。
児童館で一斉にする体操をいやがっていたこと。
幼稚園の運動会やお遊戯会の前後は、必ず体調を崩していたこと。
本当は「よくがんばったね」とほめられたかったはず。
 
私は、気づいてはいた。
でも、ずっと他の子と比べてしまい、もっとちゃんとしてほしいと願っていた。
 
気がつくと、私の頬を、涙が伝っていた。
私だって子どもの頃、がんばりを認められず、さびしかったはずなのに。
 
子どもは、第4コーナーを曲がるとき、一気にアウトコースに出た。
そして、混戦模様で迎えたバトンパス、1位で次の走者に渡していた。
 
きっと、走っていた瞬間、本人は1位でバトン渡せた自覚さえなかっただろう。
1位で走り出した次の走者の背中を見送り、ほっとした顔で動画は止まった。
 
最後まであきらめなかった子どもを見て、成長したなと感じた。
 
さて、私はどうだろうか。
ゴール目前で勝ち目がないとわかっていて、最後までがんばれるだろうか。
わき目もふらずにがんばったこと、大人になってからあるだろうか。
 
もう一度、まるで不動明王のような子どもの写真を眺めてみた。
 
もしかすると、まだ何か自分にできることがあるかもしれない。
 
いつも子どもの勉強でため息をついていた自分は、どこかに消えていた。
子どもにちゃんとがんばれる力があるとわかったから。
 
もう誰かと比べて、一喜一憂する必要はない。
「今日もよくがんばったね」
 
(どんなあなたでも、ずっと大好きだよ)
と、ハグする以外に、子どもに必要な声かけはない。
 
子どもが帰ってきたら、一緒に夕ごはん食べながら、聞いてみよう。
「今日はどんなことをがんばったの?」と。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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