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私の苦い経験はもう終わりにしなければならない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鶴崎ゆうこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「君はね、今とても大事な時期だから子供なんて作らないようにね」
 
病院からの帰り道、そんな上司の言葉を思い出した。働き始めて15年。ちょうど昇格するタイミングが来ていたのだ。
私が働き始めたころは、まだ女性の総合職が出始めて間もないころだった。私の選んだ会社は建設系だったので、技術職の女性の数はまだまだ少なく、周りも女性になれていないし、私も相当気を使った。そんな中でも仕事を楽しいと思っていた私は、性別を超えて自分のやり方も取得しながら頑張っていたつもりだった。
 
そんな私が結婚したのは32歳の時だった。決して早いほうではなかったけど、まだまだ若かったので、子供なんて自然にできると思っていた。しかし35歳を超えた時、私の中に小さな危機感を感じたのだ。女性の身体は高齢出産が増えたとはいえ、やっぱり年齢が上がるほど子供ができる確率は下がってしまう。そんなあせりともいえる気持ちを感じ、婦人科に通い始めたころだった。
 
「おめでとうございます。赤ちゃんができましたよ」
 
待ちわびた言葉だった。本当にうれしくて、すぐに夫に連絡を入れた。そんな時に先日面接のときに言われた上司の言葉を思い出したのだった。
 
子供をとるか、昇格をとるか…そんな分かれ道に来ていることに改めて気づいた36歳の秋だった。そもそもまずは会社に子供ができたことを報告しなければならない。当時はまだ技術職の女性の出産に関する会社の体制が甘く、出産休暇や育児休暇は事務職の女性に向けたものしかなかった。
 
「これからが大変かもしれないな」
 
そんなことを考えながら帰宅し、自宅に着いたときはすでにうれしい気持ちも小さくなってしまい、不安な気持ちでいっぱいだった。
 
女性にとって、仕事をとるか、子供をとるかの選択は、いつもシビアだ。私のように会社勤めの女性は、きちんとした会社のフォロー体制が整っていないと、自分が抜けることで仕事仲間に迷惑をかけることになるので、とても辛い思いをする。もちろん自営業の女性はもっと大変だ。自分が動けないとお金は入ってこない。どんなに男性が育児に協力的になったとしても、産むためには絶対的に2,3か月の休暇が必要だからだ。
 
ちょっと想像してみてほしい。君は11人しかいないサッカー部の部員だ。
毎日仲間と一生懸命練習をし、半年後の大切な試合に向けて努力をしていたとしよう。
そんな時に、急に親の都合で3か月間海外に行かなくてはいけなくなった。半年後の大切な試合も出席できない。そんな時、仲間の部員に自分がいなくなることを告げることは、相当勇気がいることだと思うのだ。
 
当時、職場で子供ができたことを告げるのは、そのくらいの辛さを伴った。
自分が抜けることを告げた時、みんなのがっかり感が手に取るように伝わってくるのだ。代わりの人員を探さなくてはいけないし、見つかっても経験が浅い人だと結局は周りの人の仕事に影響を与える。
 
先ほどのサッカー部の話に戻るけど、頑張ってきた甲斐があって、部の中で自分のなりたかったセンターフォワードに、もう少しでなれそうだったとする。だけど3か月抜けることにより、大切な試合でのそのポジションはあきらめなくてはならなくなる。そして……たとえ戻ってきたとしても、大切な試合に出られなかった人に、センターフォワードを任せようと思うだろうか。
 
子供を産むというのは、昇格をあきらめなくてはいけないことも意味していた。戻ってきても結局育児があるので、今までどおりは働けない。時間のやりくりをして必死に食らいついても、子供の体調により急遽休まなくてはいけないこともある。
 
こんなストレスを感じるくらいなら、子供なんていらない……などと考える人だっていたに違いない。女ばかり損をする……と考えてしまう人だっていたと思うのだ。
 
そして私は子供を産むことを選択した。そのことで周りに迷惑もかけたし、昇格も失った。
 
これは、13年ほど前の私の経験だ。今年私の娘は中学生になった。二年ほど前から、国は「すべての女性が輝く社会づくり」を推進している。だけど、私が見る限り、あまり変わっていない気がする。保育園の数は増えたのかもしれない。しかし本当に働く女性が私生活も含め、輝くことができているのだろうか。
 
3年前に当時昇格するはずだった役職に、10年遅れて昇格した。私はそれでも子供を産み育てることができてよかったと思う。
子供を育てるということは本当に素晴らしかった。人を一人育てるという行為から、自分の自由にならないことがたくさんあることを教えてくれた。それは仕事では得られない経験と喜びだった。
だけど仕事をあきらめなくてもよければ、もっと幸せだったと思う。それは間違いなく自分の本当の気持ちだ。
 
自分のやりたい仕事を犠牲にすることなく、子供ができたことを社会全体から喜んでもらえる……そんな日本の社会にしていかなくてはいけないと感じている。
そうだ。そのためには、今度は私たちの年代が若い人たちに輝いてもらえるよう改革をする番だ。そして多くの女性たちが、生き生きと何もあきらめずに輝ける、そんな社会を作るのだ。私は娘の顔を見てながら決意を新たにしたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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