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あきらめる・akirameru


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:須山裕香(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「諦めるというのは、give up ではないんですよ。物事を明らかにして、正しく判断するということなんですよ」
最初にこの言葉をオンライン坐禅講座の僧侶から聞いたときは衝撃であった。コロナ禍の2020年、私の心に一番残った言葉。
 
一年くらい前から、私は世間に流行っているポジティブ思考に疲れを感じていた。
「目標を持って……」「一歩ずつ前進」「夢は叶う」「あせらず、あわてず、あきらめず」そんな言葉が毎日、目に、耳に入ってくる。
高校教員として長年勤めてきた私は、毎日がルーティーンの繰り返しに感じられていた。朝、ホームルームに行く。3コマか4コマの授業を行う。帰りのホームルームに行く。会議に出る。部活に出る。提出物の添削をする。行事の計画を立てる。次の日の授業プリントを作る……。コロナ禍のステイホームでは、それすら通常のようにできなくなったのだが、何を目標にどう進めばいいのか、ますますわからなくなった。
受け持ちのクラスの生徒には「夢を持ってそれに向かって進みなさい」と言うけれど、果たして自分が夢を実現しるのか? 物を書いて認められたいという、小さな夢はあったのだが。
そうは言ってもね……。全員の願いが叶ってハッピーなんてありえないでしょう。
 
2020年5月初旬、ひとりでいる時間を持て余していらいらし、これは精神状態危ないぞ、とfacebookで見つけたオンライン坐禅会をクリックした。宗教に惹かれたわけではなく、今、流行りの「瞑想」ってどんなもの?という興味からだった。主催は京都の寺の僧侶だと言う。
 
「おはようございます。では、始めましょう。椅子でも結構ですよ。生活スタイルに合わせて、背筋がまっすぐになる座り方をしてください」
 
「坐禅は、本当は半眼と言って、半分だけ目を閉じるんですけどね。慣れないうちは目を閉じてください。呼吸に意識を持って行って……。瞑想というのは観察なんです。禅僧は言うなれば科学者と同じで、実験、観察を繰り返していくんです。」
 
土曜の朝、言葉に合わせて私は自分の六畳間に座り、15分から20分、ガイドする言葉に合わせて「瞑想」した。
 
「次はお腹に意識を持って行ってください。それから、足はどうでしょう? 観察してみてください」
足が痛い。痺れてきた。腰も痛い。ちょっとストレッチしたいな。あーあ、私は雑念ばかりじゃないか。まあ、いいか。外でガーガー音がしてるけど、何かの工事中なんだ。
 
「次は軟酥(なんそ)の法というのを「やりましょう。これは、白隠(はくいん)禅師という人が始めたんですけど、自分を癒していく瞑想です。まずいい香りのする、バターみたいな油の塊が頭の上にあると思って、それが呼吸とともに溶けて体の上を流れてくると想像してください」
 
大好きなラベンダーの香りをイメージすると、不思議な心地よさだった。香りの印象は、しっかり私の体に残っている。胸が軽くなる。
何かを悟ったとか、そんなことはまるでなかったけれど、ただそこにいること、スクリーンを通じて誰かが同じ時間そこにいる感覚に落ち着いた。
 
こうして、私の「時々瞑想する」生活が始まった。よかったことは……、「自分はこんなもんだ、まあ、いいか」と思えたこと。そして秋が深まった頃、「あきらめる」について前述の発言があった。諦めてもいいとは、衝撃!
 
その頃私が一番諦められなかったのは、SNSを通じて知り合った男性との関係。「飲みに行きましょう」と言われて、感染防止のステッカーがある店に飲みに行く。マスクして、電車で房総半島を縦断するデートをする。しかし……。
「自分は男子校出身でね」
「あ、そうなんですね、私は女子高出身です」
「電車は昔から大好きなんですよ」
「あ、私も、よく鉄道で旅します。詳しくはないけど」
それ以上に、温厚だがちょっと神経質そうな彼とは話が弾まなかった。学歴も仕事もしっかりしている人だったから、「ここでやめてしまったら、次にほかの人と出会う可能性はないかも」「もったいない」という焦り。迷っているうちに連絡が来なくなった。私は混乱した。「ごめんね」とメッセージしたほうがいいのかな? 私が悪いことした気はしないけど。
あきらめても……いいかな?
彼のイメージを心から遠ざける。「高級志向についていけなくて、しんどかったんだよね」とか「私が年上だから相手は気にしてたかも」とか、無理に自分を正当化せず、起こった事実だけを見て、ただ遠ざける。
 
僧侶が言っていたのは、そんな小さなレベルのことではないだろう。会社や自営業の経営であったり、自分の進路であったり、もっと大きな人間関係であったり……。しかし、何が本当に自分にふさわしいかを考えて、「あきらめる」ことが最初から選択肢に入っていれば、気持ちの焦りが減る。
私は、周りを犠牲にして事業を大きくしたい友人、横暴な彼氏をつなぎ留めたくて必死になっている友人に、「あきらめてもいいんだよ」と教えてあげたくなった。怒鳴り返されてしまうかな? 私がまず「あきらめる」ことに成功しないとね。
 
「私は、あきらめる、をAkirameru にして世界の人の価値観として広めたいんです。もったいない、がMottainai になったみたいに」
「上昇する」「よくなる」ことだけを目的にしなければ、世界は変わるかもしれない。ほほ笑みながら語る僧侶に、私も頷いた。
 
 
 
 
***

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2021-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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