愛媛の覚悟にドン引きした日
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記事:久慈桃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「愛媛県は恐ろしいところだ……」
柑橘の香りも清々しいみかんビールを飲みながら、私は思わずそう口走っていた。実際のところ、ドン引きしていた。
8月のとても暑い日。坂の上には雲もなく、快晴であった。
愛媛県といえば「みかん」だとSEX MACHINEGUNSも歌っているが、私は「まぁよくあるご当地自慢の一つだろう」と思っていた。我が岡山県にだって白桃という有名な特産品があるし、果物としてみかんはさして珍しいものでもない。
しかし、私の愛媛県への認識は、10年前に贈答品でもらった愛媛産の「せとか」という柑橘を食べたときにガラッと変わった。
「こんなみかんがあっていいの!?」とびっくりするくらい美味しかったのだ。
あまりの美味しさに贈り主にお礼の電話をすると、愛媛県出身の彼に「せとか」はみかんではなく清見タンゴールとアンコールとマーコットの交配品種だと説明された。
……よく分からないがとりあえずみかんと「せとか」は別物なのだなということだけは理解した。多分あれだ、広島焼きとお好み焼きは別物という理論と同じやつだ。
近隣のスーパーで売られている柑橘類は、広島産・愛媛産・熊本産がほぼ当分で売り場を占めていたが、「せとか」の衝撃を受けてから私はなんとなく愛媛産の柑橘を手に取ることが増えていった。
そして実際、愛媛の柑橘は「せとか」以外の品種も抜群に美味しかった。一度うっかり他県産の不知火を買った時は味の薄さにがっかりし、改めて「愛媛の柑橘は美味しい」という認識を新たにするほどだった。
そうして徐々に愛媛の柑橘のファンになっていった私が、満を持して愛媛県に上陸したときの衝撃と言ったら。
まず松山市内を走る路面電車・路線バス・私鉄の車体がことごとく鮮やかなオレンジ色をしていることにびっくりした。よくよく聞いたらオレンジ色がコーポレートカラーである「伊予鉄グループ」の1社独占状態だったのもちょっと引いた。
そして土産物の多くは当然のように柑橘を使った製品で、ジュースやゼリーはもちろん、「みかんごはん」や「みかんコロッケ」さらには「みかん鯛」なる養殖魚まで存在する。スイーツはともかくご飯系にみかんって……とさらに引いた。
しかもゆるキャラはみかんと犬をかけ合わせた「みきゃん」という生き物。もちろん、観光物産館にはみかんジュースの出る蛇口が完備されている。「蛇口からポンジュース」の都市伝説を現実にしちゃってるんだ……もっと引いた。
愛媛県、どんだけみかんに全振りしているのか。
それもそのはず、愛媛県の柑橘類生産量は昭和49年以降44年連続日本一なのだという。しかも、温州みかん以外に伊予柑や不知火などの柑橘類を40品目以上も栽培している。
統計資料を見れば愛媛県農林水産部みずから「全国と比較すると、米の比重が少なく、果実の比重が特に大きい」と述べるほど、愛媛は県をあげて柑橘生産に勤しんでいるのだ。
これはもう、覚悟が違う。
愛媛の柑橘専門店「10ファクトリー」に足を踏み入れた時、私はひしひしとそれを感じた。
まず柑橘加工品オンリーでショップを開業できるのがすごいし、松山の中心地だけでなく東京のGINZA SIXにまで出店しているのだから恐れ入る。
そしてジュース1本、ゼリー1つごとに、混合果汁ではなく単品種の100%ストレート果汁を使っているこだわりが、膨大なオレンジ色のグラデーションの圧となって観光客を圧倒してくる。愛媛なにこれ。マジで引く。柑橘だけで店が作れるのは愛媛くらいだ。
商品棚に並べられている柑橘の種類は、温州みかん・伊予柑・清見・甘平・せとか・紅まどんな……いったいいくつあるというのか。しかも収穫時期によって商品ラインナップは変化しているという。全種類コンプリートするには通うしかない。
ちなみにこの店で特にオススメなのは3種類の柑橘ジュースを飲み比べできるセットメニューだ。
柑橘にさして思い入れのない観光客に対しても、同じような色合いのジュースなのにここまで味・香りが違うのかと衝撃を与えてくる絶妙な商品設計に唸ってしまった。この3種類の柑橘も季節によって入れ替わりがある。心憎いばかりである。
観光物産館でみきゃんグッズを買い、蛇口からポンジュースを飲み、10ファクトリーで柑橘ジェラートを食べ、みかんビールを飲むころには、私はすっかり愛媛の柑橘への情熱にやられていた。決してみかんビールが気に入って飲みすぎたせいではない。
ここまでくればもう愛媛の柑橘の虜。どこそこの店で「みかん鯛」が食べられると耳打ちされれば、わくわくしながら商店街に繰り出すしかない。
そんなこんなで初めて「みかん鯛」を食べ、私は「愛媛は柑橘と一蓮托生を決め込んでるんだな」と悟った。
というのも、愛媛県は養殖鯛でも日本一の生産量を誇り、国内の鯛生産量の50%以上が愛媛産という独走ぶり。
何もせずとも2位の熊本県をぶっちぎりで引き離している愛媛の鯛に、わざわざみかん配合の餌を食べさせるというチャレンジ、なかなかに攻めていると言えるのではなかろうか。
ちなみに私は味の違いが分かるほど鯛を常食していないので、ノーマル鯛とみかん鯛に違いがあるのかはよく分からなかったというのが正直な感想だ。
これはもう、柑橘ジュース飲み比べセットのように、2種類の刺し身を並べて食べ比べる必要があるんじゃなかろうか。
コロナが治まり旅に出るなら、愛媛の覚悟にもう一度ドン引きしたい。
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