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憧れない、プラスマイナスゼロの青春

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記事:田中真美子(リーディング倶楽部)
 
 
子供の頃、私はとにかく外に憧れていた。
こんなところから抜け出したい、そんな気持ちでいつもいっぱいだった。
 
私の生まれ故郷は富山県の小さな港町で、周りには何もない、海しか無い田舎町だった。
海といっても、皆が真っ先にイメージするような、サーファーが集まる湘南の海岸のような海では無い。
テトラポットに荒波が寄せては返す、そんな日本海の海だ。
集まるのはサーファーじゃなくて漁師だ。
 
そんな小さな港町で育った私は、どうしても近くのセーラー服が制服の高校には行きたくなくて、わざわざ学区の違う、ブレザーが制服の公立高校を受験した。
幸い成績は良かったので、無事合格。
中学のセーラー服を脱ぎ捨て憧れのブレザーに袖を通し、高校に通い始めたのであった。
 
ところが。
通学に片道1時間半ほどかけて通うその高校は、梨畑に囲まれた牧歌的な風景の中に存在した。
まあ、受験の時に行って知ってはいたのだけど。
 
学区の違う高校を選んでしまい、学校に通うための路線バスが行きと帰りで1日4本くらいしかないという割とハードな通学、放課後部活動してると家に帰れなさそうなので必然的に帰宅部を選択した私のハイスクールライフは平々凡々。
思い返しても特筆すべきようなキラキラした青春時代のエピソードは皆無だった。
 
結局、港町から3年間梨畑に通ってただけの私。
それはそれで楽しかったのは事実だけれど、ドラマやマンガ、映画なんかでキラキラした高校生活を送るストーリーを見るたびに心がモヤモヤしてしょうがなかった。
自分はそんなキラキラした青春時代を送れなかったし、もう2度とやってこない青春時代という手に入らないものを見せつけられることにどうにも嫉妬を感じずにはいられなかった。
 
そんな行き場のないジェラシーを抱えた中年の私でも、若竹七海氏の「プラスマイナスゼロ」は全くモヤモヤせずに読むことができる、数少ない良質の青春ミステリである。
 
舞台は神奈川県にあるという架空の都市、葉崎市。
おそらくモデルは逗子市葉山であろう。
葉山といえば東京から近いおしゃれな海辺のリゾート地、御用邸もあるくらいだから高級なイメージがあると思うが、本作の葉崎市はコンビニやファミレス、ファストフード店も無い田舎という設定だ。
 
主人公は葉崎山の上にある葉崎山高校に通う、テンコ、ユーリ、ミサキの女子高生3人組。
頭脳明晰で美人、お嬢様と完璧なプロフィールなんだけど抜群の不運の持ち主であるテンコ、乱暴な言葉遣い、全身真っ赤な奇抜なファッションの不良娘、だけど義理人情に厚く憎めないキャラのユーリ。
そして成績、運動神経、容姿、身長体重、靴のサイズ、ありとあらゆる面で全国平均値の「歩く全国平均値」のミサキ。
 
全くといって共通点のなさそうなデコボコの3人組が葉崎山高校や、葉崎市で起こる奇妙な事件に巻き込まれ、それを解決していく(時には解決しない)、ユーモラスな短編が集まった青春ミステリだ。
 
女子高生3人組が主人公で、彼女たちの友情が描かれたストーリー展開と、若竹七海氏のユーモラスで洒落の効いた、軽快な文章の読みやすさについうっかり騙されそうになるが、本作には死体がゴロゴロ登場するし、事件の背景は欲にまみれた醜い人間の姿が透けて見えたり、結構ブラックな作品でもある。
 
持ち前の不運さで事件に遭遇するきっかけを作るテンコ、事件に直面し、抜群の行動力とパワーで場を乱すユーリ、そして全国平均値女子でありながら、推理力は平均値をずば抜けて上回るミサキが事件の謎を解いていく。
よくあるミステリのように、「犯人はお前だ! 」と探偵がズバッと指摘して、スラスラ謎を解き明かしていくような話とは違って、本作では謎が解けても誰も喜ばない話も多い。
それだけにくすりとされられるような皮肉が効いている。
 
タイトルのプラスマイナスゼロは、3人組をそれぞれプラス=テンコ、マイナス=ユーリ、ゼロ=ミサキを表しているのかなとも思ったが、3人ともプラスのところもあるし、マイナスのところもある。それが相殺しあってみんなゼロなのかも、とも思える。
私にとっては、葉崎市で繰り広げられる女子高生の友情と青春の物語という面はプラスだけれど、ブラックな事件が起きるところはマイナス、結果的に3人娘の青春には憧れないのでプラスマイナスゼロ、かな。
 
彼女たちの青春にはあまり憧れないけど、物語の面白さ、ミステリとしての素晴らしさは間違いないので、おすすめの一作である。
 
また、若竹七海氏の作品には他にも葉崎市を舞台にした作品がいっぱいあるので、本作を読んで面白いと思われた方は是非他の作品も読んでみることをおすすめする。
良質の毒を心地良く味わうことができるだろう。
 
 
 
 
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2021-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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