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私が出会った人々のこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
 
記事:鈴木 道(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「子どもはいつかお母さんはいらなくなるんだから、あなたも自分の仕事を見つけておいたほうが良いわよ」
上の子が小学校高学年の頃、保護者会の行事で出かけたバスの中で、先輩ママに言われた言葉だ。
彼女は、自宅で雑誌の編集の仕事をしていると聞いていた。子育ても、結構大変な保護者会の役員もバランスよくこなしているように見えた。その頃私は4人の子育て真最中で、あまり現実的には感じられなかった。だが、
「いつかそんな日がくるのかなぁ」
と、その言葉は私の胸の内にずっととどまっていた。
 
しかし、なかなか“いつか”はやってこず、子どものお尻を追いかけておむつを替え、ご飯を用意して食べさせ、上の子どもたちの宿題をチェックし、四番目に哺乳瓶をくわえさせておいて、三番目に絵本を読み聞かせて寝かす。そんなことが毎日毎日繰り返された。
 
だが、“いつか”はやってくるものだ。あの言葉があったおかげか、すこし見切り発車ではあったが、一番下の息子が小学校6年生になった頃、私は就職を果たした。
 
スペシャリストといわれる仕事に憧れを感じてはいたが、20年も子育てをしていたものだから、仕事といっても自分に何ができるか分からなかった。言ってみれば、一番長くやってきたことは子どもにかかわることだ。子育ての社会化にかかわることをしたいと思い、下の子が小学生になった頃から、通信教育で社会福祉の勉強を始めた。無事卒業を果たし、国家試験も合格をすることができた。すぐにはしっかり働く環境は整わず、しばらく後、いろいろなめぐりあわせで就職したのは医療の領域だった。
医療ソーシャルワーカーとして働くことになったのだ。
 
医療(メディカル)ソーシャルワーカー(以下MSWとする)は、大きな病院には配置されていることの多い職種だ。医療現場の中で福祉職として働いている。病気や怪我の治療には医師などの医療職が対応するが、MSWは治療に伴う患者さんの困りごとにかかわる。
 
MSWの仕事は、足を骨折した時に使う松葉杖のようなものだ。普段松葉杖の存在など意識することはないが、万が一、骨折したときには役に立つ。折れた足で歩くことを松葉杖が助けてくれる。治るまでは松葉杖に助けられるが、治ってしまえばその助けは必要がなくなるわけだ。
 
病院の特徴にもよるが、がんの治療と仕事の両立の相談、脳卒中治療後のリハビリ病院への転院の支援、医療費の支払いの相談。病気や怪我でそれまでの生活と大きく状況が変わるような時、その後の生活のために療養の環境を整える手伝いなどなど、幅の広い業務だ。病気や怪我はない方が良いが、万が一、困ったときにはMSWにぜひ相談してみてほしい。
 
さて、私自身は在宅医療の領域で働いた。在宅医療は、医療が必要だが、通院できず自宅で療養をしている患者さんの家に医師などが訪問して医療を提供する仕組みだ。昔の往診の進化系といえるだろう。
 
当時多くはなかった在宅医療の現場で働くMSWの仕事は、病院で働くMSWと根っこの倫理観など考え方は同じだが、具体的には異なる面も多かった。
スペシャリストにあこがれていたが、私に求められたのは幅広い相談内容に応じるジェネラリストとしての対応だった。主婦、母親としてやってきたことは役にたった。今とは求められる役割は変わっていると思うが、当時、仕事を通じて、多くの方と出会い、その方々の人生のほんの一部だが時間を共有させていただいた。
 
かわいがっていた猫が亡くなったことを何度伝えても忘れてしまうお母さん。手を焼いていた娘さんの隣に座って、「チコちゃん、大往生だったんですって」と一緒に愛猫を偲びましたね。
 
生活保護費のやりとりで大いにトラブった時、型通りの説明をする担当者と怒り出すあなたとにそれぞれの言い分を説明して解決策を相談しました。理解をするとあなたは「ああ、そういうことね」とお金を返納することを納得され、返納の計画を一緒にたてましたね。
 
年を重ね、病状が悪化して入院したあなたは、「どうしても家に帰りたい」と信念を曲げることはありませんでした。ケアマネジャーと相談し、病院のMSWと連携し、1週間自宅で生活してみて、支援体制が続けられないようなら入院する覚悟で自宅へ退院。一人暮らしのあなたをケアのスタッフが心を合わせて手伝ってくれました。あなたは「最期まで家で過ごしたい」というぶれない生き方を全うされました。
その半年ほど前、何かと気遣いをしてくれた妹さんとずっと連絡が取れず、体調が悪いらしいと知って、お見舞いに行きたいと言いました。再会をはたし、多くは語らなかった妹さんとそれでも近況を伝えあって。「恥ずかしいけど私はおむつなんか使ってるのよ」とあなた。すかさず妹さんが「私もよ」と返され小さな笑いがおきました。姉妹の心の交流の時をもちましたね。
 
傷んだ自宅の床を修理するつもりが、次々修理を勧められ、詐欺だと気が付いた息子さん。何とかしたい、とお母さんの介護の合間をぬって、消費者センターに一緒に出向き、対策を相談しました。その後の息子さんの頑張りには目を見張りました。
 
徐々に体の動きが悪くなる難病のあなたに医師は2階から1階への転居を強く勧めました。あなたに代わって部屋探しをする私に、あなたは不動産屋さんでバイトした経験を活かして、借りる家の希望を細かく明示してくれました。不動産屋さんと協力して、条件にあう部屋に住み替えたときはお互い達成感がありましたね。
 
いろいろな出来事が思い出される。
その後、訳あって職場を離れることになったが、出会った人々と私は貴重な体験をさせていただいた。そしてそれが少しでもお役に立てていたのならうれしいことだ。今は、現場から一歩離れた立ち位置で医療と介護の相談業務についているが、あの頃と同じマインドで働いている。先輩ママの一言のおかげで、私の世界は広がったと思っている。
 
 
 
 
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2021-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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