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教壇で爆睡した英語教師が忘れられない。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Shota Hitomi(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あいつどうしてるのかな」
と、これまでの人生で出会った「忘れられない人」に思いを巡らせることが時折ある。
三十路手前にもなると学生時代を思い返すことが多くなり、最近では「忘れられない先生」について思い返すことがあった。
 
あなたにはいるだろうか、忘れられない先生が。
僕にはいる。高校時代の非常勤の英語教師がその一人である。
 
なんて言ったってその先生、授業中にイビキをかいて爆睡したのだから。
 

 
その男の名は「タヒラ」。50歳代くらいで、ややメタボ体系のおじさん先生だ。
聞くところによると、かの有名なジーニアス英和辞典の編纂者の1人として界隈ではそれなりに著名とのこと。京都在住の彼が毎回新幹線を使って岡山にある僕の高校まで出勤していたのは、その実力を買われたからなのだろう。
 
そんなタヒラ先生の授業スタイルはかなりアクが強かった。
例えば授業の冒頭。教室に入るや否や「In speed reading, there are several points to keep in mind……」と、速読の達人でも30秒くらいかかる英文を「呪文」のように唱え始める。
自分が言い終わると、次は僕たち生徒に同じ英文を3~5回繰り返し唱えさせる。
呪文が終われば、単語の暗記。「swallow、ツバメをゴックン! swallow、ツバメをゴックン!」(swallow=燕、飲み込む)と語呂合わせ的な暗記法でこれまた繰り返し唱えさせる。
 
生徒に考えさせる時間や質疑応答など、双方向なやりとりは一切ない。始めから終わりまでノンストップ、それがタヒラ流だった。
 
しかし、ひたすら英文を聞かされ、淡々と呪文のように唱えるのは、とてつもない眠気に襲われる。一方通行な授業も相まってか、毎回半数近くの生徒が寝ながら授業を受けていた。
 
その様子を見かね、タヒラ先生の怒りはある時沸点に達した。
「お前ら寝すぎや!!」
言われて当然である。
だが、次に放った一言は当然ではなかった。
 
「そんなに眠たいなら、俺が本当の寝方を教えてやる!!」
何が起こっているんだ、これは?
 
授業は一時中断。タヒラの快眠教室が始まった。
 
いわくタヒラ流では、このようにして眠るらしい。
・まず下を向く
・目を瞑る
・手をダランとさせる
・「ブラブラブラ~」と口に出しながら手を揺らし全身の力を抜く
 
「普段から実践しているのだろうか?」と思うほど流暢に説明された。
そして時間をかけることなくタヒラ先生は動かなくなった。
 
目を瞑り、口を開いたまま静かに立ち尽くす英語教師。
 
未だかつて見たことのない光景を前に「いくら何でも冗談だろ……」「さすがに立ったままは寝れねぇって……」と、生徒たちは動揺を隠せなかった。
 
そんな中、ある1人の男子生徒が閃いた。
「カメラの撮影音を聞けばさすがに反応するんじゃないか?」
そう言い、カバンから取り出した携帯電話の写真機能でその真偽を確かめた。
 
パシャッ!
 
タヒラ先生はピクリとも動かない。
それならば、と多くの生徒が一斉に携帯で写真を撮り始めた。
 
パシャパシャパシャパシャ!!
 
しかしながら、依然としてタヒラ先生は動かない。
それどころか、信じられないことに「コォォォォォ」とイビキをかき始めたのだ。
 
教壇で人が寝ている。立ったまま。それも先生が。
おそらく本当に寝ている。いや、ここまで来るとそんなことはどうでも良かった。
「教壇に立ったままイビキをかいて寝る先生」という、ただただ異質な状況を生徒たちは受け入れ、大いに盛り上がった。
 
それから10数分後だっただろうか、ようやくタヒラ先生は目を覚ました。「あぁ、よく寝たぁ」と言う彼の顔からは、良質な睡眠を伺い知ることができ、再開された授業はいつもと違って別物と言えるくらい静かで落ち着いた時間が流れていった。
 

 
真面目な生徒。活発な生徒。ちょっとヤンチャな生徒。
クラスには色んな生徒がいる。
 
「手のかかった生徒ほど、時が経っても印象深かったりするんだよなぁ」こんな風に話す学校の先生をテレビだったか、リアルだったか、これまで何度か見たことがあるのだが、自分の思い通りにいかない生徒ほど考える時間が多くなるだろうし、そうやって心に刻んだ時間だけ思い入れも強くなるのかもしれない。
 
それはきっと僕たち生徒にとっても同じだ。
「なんだコイツ」「めんどうくさいな~」と、なんやかんや心を動かされた先生ほど、大人になっても思い起こされることが多い。
他ならぬタヒラ先生もその一人。独特な授業スタイルと常軌を逸した行動で衝撃を与えたタヒラは、高校時代の思い出として僕の記憶に激しく焼き付いている。
 
何の偶然か、最近動画サイトにアップされたタヒラ先生の授業風景を見ることがあった。おそらく生徒が投稿したのだろう。その様子からは相変わらずの奇行っぷりが伺え、見ていて懐かしさとほっとする気持ちがこみ上げた。
 
きっとこれからもたくさんの高校生たちに英語を教えていくだろう。
彼らにとっての「忘れられない先生」となるよう、変わらず元気でいてもらえたら僕は何より嬉しく思う。
 
 
 
 
***

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2021-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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