唾が飛んだら恋された話
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記事：はるあや（ライティング・ゼミ日曜コース）
「話してるとき、よく唾が飛んできてた」
これが夫と出会った当初、夫から見た私の印象らしい。
淡いエピソードを期待して、出会った当初の私の印象を聞いてみたら、全く思っていた答えと違い衝撃を受ける。
え？ 唾が飛んでた？ うそ？ 印象最悪じゃない？
そう思ったが、なんとこの出来事が、後の結婚へと繋がる出来事となっていたのである。
唾をかけた（らしい）のは2回目のデートの時である。
まだコロナ禍でもなく、マスクが不要だった数年前の出来事だ。
ドライブデートだった。行き先は車で1時間程にある有名な神社だ。
まだ知り合ったばかりだった彼のいろんなことがきっと知りたくて、
車の中では運転してくれている彼の方を時折向きながら、いろいろと質問したり、逆に答えたり、お互いをもっと知ろうとたくさん話した。
めちゃくちゃ唾を飛ばしながら話していることにも気づかず……。
そう、この時私は夢中になるあまり、話している最中に彼に唾が飛んでいたというのだ。
完全に無意識である。今思うときっと他の人に対しても唾が飛んでいることがあったと思うとぞっとする。穴があったら入りたい。
ただ、ここで1つ断っておきたい。
それまでの恋愛での私は、唾をかけるような失態はなるべくしないよう、極めて「良い女」であることを目指していた。
正確に言えば、目指していただけで実際には、ただただ周りの目を気にし、人からどう思われるかを気にしていたという方が正しいだろう……。
ある時、付き合っている彼の連絡の頻度が少なく、とても寂しいと思うことがあった。
徐々に怒りさえ感じてきた。
それでも私は、その寂しさや怒りをなかなか上手く表現できずに
「相手も忙しいだろうし、もっと連絡してほしいって伝えると嫌がられるだろうな」
「面倒な女だと思われるかな」
と、相手の気持ちを想像しては、正直な気持ちを押し殺していた。
相手のことが好きなあまり「嫌われたくない」「相手に好かれたい」と思う気持ちがとても強かったのだ。
一方で不安ばかりが募る。
それが溜まりに溜まって、コップから水が溢れるように、気持ちが抑えられなくなるが、正直な気持ちを表現することに慣れていないが故に、急にひねくれた調子で
「私のことなんてどうせ本気で好きじゃないんでしょ」と屈折した言葉で不安や不満を漏らしてしまう。
こうなると、相手にとっても本当に可愛げがなかっただろう。
こうなるくらいであれば、まだその都度、不安や不満や自分の気持ちを、ちゃんとストレートに伝えていた方が相手からしても受け取りやすかったと思う。
そんな恋愛の仕方は、最初は上手くいっても長く続かないことばかりだった。
そしてとうとう疲れてしまい、相手の顔色ばかり伺ってしまうそんな自分を変えたい！と願うようになった。
ましてや「結婚したい」と考えると、私は「ありのままの自分」で安心して愛されたいんだと強く考えるようになった。
そもそも「ありのままの私」を100％表現できるのは家族といる時だけだった。
家ではわがまま娘で、感情表現は超ストレート。
短気で自己中心的で怒ったときは怒りモード全開、嬉しい時はずっとそのことを話しているくらい上機嫌。
悲しい時はわんわん泣いて、面白いことがあるとしばらく笑いが止まらないような、そんな喜怒哀楽が激しい性格が本来の自分だった。
短気で自己中心的な自分はダメだなと思っていたが、それも受け入れるしかないなと思った。もちろん親しき中にも礼儀ありという言葉があるように、限度というものはあるが、それでも喜怒哀楽は抑えずちゃんと表現しようと思った。
それで嫌われたら、結婚なんてできないと考えると吹っ切れた。
そうして吹っ切れた後に、出会ったのが夫だったのだ。
出会った当初、唾を飛ばしながら喋っている私が嫌じゃなかったのか夫に聞くと
「めっちゃ唾飛んでくるなーと思ったけど、その時肩の力が抜けて、自分も自然体でいいんだ、完璧じゃなくていいんだと思った。それくらい自然体でいれる人の方がいいなと思った」というのだ。
驚きである。
「自然体」「ありのままの自分」「感情を素直に出す」というのを意識していたが思わぬ形でそれが表現されたようだ。
もちろん唾を飛ばしてもいいやとまでは思っていなかったが……。
それからすぐにお付き合いがはじまり、喧嘩することもしょっちゅうあったが、嫌われることが怖くて不安になることはとても少なくなった。
ありのままの自分でいられる安心感の方が強く、結果的に結婚へと繋がった。
振り返ってみると、「嫌われたくない」という思いで感情が出せていない頃は、テンプレートの優等生のようで面白味がなかったのかもしれない。
わがままを言っても、感情を出した方が、その人らしさが表れ唯一無二の相手になれたのだろう。
そして「その人らしさ」のどこが相手に気に入られるか、嫌われるかは、自分の想像通りになるとは限らない。
唾が飛んだことが、プラスに働くことがあるくらいなのだから。
＊＊＊
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