音大生は音楽家にならないといけないのか?
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記事:増山佳菜(ライティング・ゼミ平日コース)
「法学部の学生が全員法律の専門家になるわけじゃないのに、なんで音大生は音楽を仕事にしなかったら白い目で見られなきゃいけないんだ」
大学4年の春、私は怒っていた。
音高、音大と進んできた私とって、進路を考えるタイミングでいつも考え、そうでない時もずっと頭の片隅にあった、「音楽を仕事にする」ということ。
音大生の卒業後の進路に関して、最近では本が出ていたり、音大卒を生かして就活しよう!みたい風潮があったりもする。
けれども、実際音大にいる学生が就活をするということは、それなりに肩身の狭い思いをすることになると思う。(少なくとも私の場合はそうだった)
「音大に入ったら、音楽家を目指さなければいけない」
「音大に入ったからには、なんとしても音楽で食っていかなくてはならぬ」みたいな。
学生内には、そんな空気があったと思うし、そう思わなきゃいけないっていう雰囲気があった。
大学4年の春、3月にマイナビやリクナビのサイトがオープンすることを前日に知った私はとりあえず登録。
就活はしたくないな、でも楽器でフリーランスにはなりたくないな、じゃあ仕方ないから就活するか、そんな感じでなんとなく就活を始めた。
私が実際何回か面接で聞かれたのが、「音大なのに音楽の仕事じゃなくていいんですか?」だ。
始めの頃はこの質問が本当に心に刺さりまくっていた。
「そんなの私が1番思ってるって」と思ったし、「じゃあ法学部の学生はみんな弁護士になるんですか?」ってキレしたりもした。
純粋に聞いてくる人も、意地悪い気持ちで聞いてくる人もいた。
もちろん、音楽という軸を持って必死にやってきたことを評価してもらえることもたくさんあった。というかそういう場合の方が圧倒的に多かった。
しかし就活中の自分は、「私は演奏でやっていけるレベルになれなかったんだ、だから今就活をしているんだ」と頭のどこかで考えて、完全に自信を失っていた。
質問されるたびに傷口をえぐられている気分だった。
それでもなんとか内定をもらって、嫌で嫌で仕方なかった就活を終えることができた。
しかし次に襲ってきたのは、「私本当に働くんだ」という実感だった。
内定者研修で同期と顔を合わす度に、大学での出来事が最後〇〇になっていく度に、周りの同級生と春からどうするかの話をするたびに、私はこれでいいかという思いに駆られて、悩んだ。
転機になったのは友達に相談してたときの言葉だった。
音大に入ってしばらくすると必ず話題に上る、「卒業したら楽器を続けるか、続けないか」という会話。お互いの腹の探り合いみたいな会話。
私は全く覚えていなかったのだが、その子ともその話をしていて、「卒業したら楽器を続けるか、続けないか」という質問に当時の私は
「なんで辞めるの?みんながなんで辞めるのかわからない。私は好きだから辞めないよ」
と言った。らしい。
その時の私には、「そんなこと言ったの?」という初めて聞いた時のような新鮮な驚きと、「あぁ私そういう奴だったな」という諦めのような、誇らしい気持ちだった。
音楽を仕事にしない自分を責め、悩んでいた私にとって、かつての私の言葉はそれでいいじゃんと思える、晴々とした明るさと力を持っていた。
その後もう一度就活をして、結局楽器が続けられる会社を選んだ。
当時のことを最近になって振り返ると、私はあの時、音大に入ったら音楽を仕事にしなくてはならぬ、仕事にならなかった奴はダメだった奴だ、という思い込みと、目に見えない世間の圧力に違和感を感じつつ、苦しんでいたのだと思う。
続けてきた音楽はついに実らず、全く関係のない仕事をしようとしていることを自分でも認められずにいたんだと思う。
法学部の学生が全員法律の専門家になるわけないし、同じように音大生が音楽以外で食っていくことが間違っているわけがない。
仕事をして、たまに楽器の仕事をして、
売れっ子ではないけど、楽しい人たちと楽器を吹いて、少しお金もらったりして、いい音楽を聴きたいとコンサートに行って、やりたい曲もやりたいこともあって、社会人4年目の私の毎日はそれなりに充実している。
周りを見ていてわかるのは、みんなそんな白黒はっきりした仕事をしてるわけじゃないってことだ。
あの時は、「100%音楽で食える自分」を目標にしていた気がするけど、実際はもっと曖昧な人がたくさんいて、収入の10%しか音楽の仕事をしていなくても音楽家だって名乗っていいって思う。
そういう世の中になっていったらいいなって思う。
かつての私に言いたい。
音楽を仕事にできなくてもあなたの価値は失われないし、仕事にできなかったからってどんな形で楽器続けててもいいよ、と。
***
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