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リングフィットアドベンチャーが可能にする、できない人でも傷つかない運動


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ebikawa(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
運動が苦手であり、嫌いでもある。
 
学生時代の体育の時間では、マラソン大会でビリ、プールで1人だけ居残り練習、運動会での失態など、これでもかというほど嫌な記憶がある。
また、大人になってからも、登山で途中ギブアップして仲間に迷惑をかけたり、数十人いるヨガ体験教室で1人だけ居残りで厳しく指導されたりと、運動にまつわる辛い思い出は増えていく一方だ。
 
運動音痴であるがゆえに、私にとって「運動」とは身体を動かすというより、他人に迷惑をかけて、周囲の目に怯えながら、自尊心をボロボロにされる行為である。そんなもの、誰だって避けて通りたいだろう。
 
しかし、健康のためには体を動かすことが必要だというのも、重々理解している。
これまでは、運動を趣味にしていなくても「通勤で歩いてます」という言い訳ができたが、昨今リモートワークになったことを機に、身体を動かす機会がなくなってしまった。
歩くのは、たまにスーパーとコンビニを往復するくらいだ。さすがに人間としてこれじゃダメだ、筋肉が衰えてきっと将来弊害が出る、という焦りがじわじわと生まれてきた。
 
手始めにウォーキングでもしようと思ったが、「今日は暑い」「寒い」「雨だ」などと、なんだかんだ天候を理由に先延ばししてしまう。そもそも日本の四季では、暑くも寒くもない晴れた日なんて年間でほとんど存在しない。
それならば室内でYouTubeの動画を見て、エクササイズやヨガでもするかと思ったが、どうにも楽しめず、3日と続けられない。
 
そこで、藁にもすがる思いで、任天堂が出しているフィットネスアドベンチャーゲーム「リングフィットアドベンチャー」を購入してみた。普段運動をしない人にも評判がいいようだし、私はゲームが好きなので、ゲームなら続くかもしれないという一縷の望みだ。
 
このゲームは、リング状の特別なコントローラーと、腿に巻き付けるベルトを装着して行う。そして、ゲーム中に指示されるスクワットなどの様々なエクササイズをすると、コントローラーが動きを感知して、戦闘力に変換する。その力でモンスターを倒し、ステージを進めていくというシステムだ。
 
ゲームのオープニングは、プレイヤーである「私」が森の中で偶然リングコントローラーを拾い、誤ってその封印を解いてしまい、中に封じ込められていた魔王が解き放たれる場面から始まる。
それから、魔王を封印していた、リングコントローラーに宿る精霊である、その名も「リング」が話しかけてくる。魔王を倒すのに力を貸してほしい、とのことだ。わかりやすい導入である。
そして、リングはキラキラした期待のまなざしで私を見て「君、なかなか素質がありそうだよ」と言ってきた。
素質。お前の目は節穴か、と思った。
私は見るからに筋肉ゼロな脆弱モヤシ野郎なので、高尾山に登っているおじいさんおばあさんとかをスカウトしてきた方が、私より足腰が丈夫で適任だと思うんだが……。
もちろん、ゲームのキャラクターなので、誰にでも素質があると言っているのだけれど。これまで誰からも運動ができないと言われてきた自分に素質を見出されたことが、なんとなくしっくりこないながらも、私と相棒リングの魔王を倒す旅が始まった。
 
根っからの運動嫌いな私のことである。
せっかく買っても3日と続かなかったらどうしよう、と心配していたが、購入から1か月、これまでなんと毎日プレイして、毎日汗だくになっている。自分でもこの状況に驚きを隠せない。
 
もちろんエクササイズ自体はきついのだが、私が運動に対して苦痛に感じていた点が、このゲームではすべてクリアされているのだ。
 
まず、自分のペースでできるし、相手はゲームなので、すぐに疲れてしまって音を上げても、誰にも迷惑をかけないところが良い。
加えて、室内でひとりでやるので、どんなにダサいポーズになっても、どんなにヨロヨロになって息が上がっていても、怒られたり笑われたりすることがないのも有難い。
 
さらに、自尊心を傷つけられるどころか、このゲームでは一挙手一投足をめちゃくちゃ褒められる。スクワット1回するたびに、相棒リングからは「やったね!」「すごい!」「その調子!」「汗が輝いてるよ!」と豊富な語彙が次々と飛んでくるのだ。ひとりで動画を見るだけでは続かなかった動きも、この応援が入ると、不思議とやる気が出てくる。
 
また、こんな印象的な出来事もあった。
始めてから数日経った頃、両手を上に伸ばしてリングを押し込むミニゲームをクリアしないと、先に進めない箇所に行き当たった。やってみたところ、腕の筋肉がないのか、自分でもびっくりするくらいできない。先に進むのに1500点必要なところ、何度本気でやっても50点しか取れないのだ。
 
まずい、これは「詰む」んじゃないか。こんなとこで終わるのか。自分の心の中に「焦り」「つらさ」や「どうしてもできない思い出」がじわじわと滲み出してきた。そういえば、学生時代に握力の計測で、どうしても異様に低い数字しか出なくて「まじめにやれ」って先生に注意されたなぁ……まじめにやったって、できないものはできないんだけど……。
 
その時であった。
ミニゲーム担当であるロボットのキャラクターが、「オキャクサン、ヒョットシテ、コノゲーム苦手デスカネ……」と尋ねてきたのだ。苦手なことが、まんまと見透かされている。
 
「デハ、50支払エバ特別ニ通シテアゲマス。コノコトハ忘レテクダサイネ……」
 
ロボットにゲーム内通貨をこっそり手渡すと、先に進む道が開いた。
なんと、できないミニゲームが、ワイロですんなり通れてしまったのだ。しかもできなくて怒られるどころか、「ロボットがワイロ要求するの?」とクスッと笑える展開で。
 
このゲームは本当に「できない」ひとのことを理解している。そして、できない人が、できないことの辛さで傷ついたり苦しんだりしないで、楽しめるようにあらゆる工夫をしている。それを、心から感じた瞬間であった。
 
こうして、今までのような嫌な気持ちを持つことなく、何とか楽しく運動を続けられているのが、自分にとっては信じがたいくらいだ。生まれて初めてプロテインなんかも買ってしまったし。
 
まだまだ冒険の旅は長くなりそうだが、どうにかこのまま続けていって、いつか頑張って魔王を倒したいと思っている。そして、最初に私に素質があると言ってくれた相棒リングの目も、節穴ではなかったのだ、と証明したいのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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