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心と体の免疫をつけておこう


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記事:笠原 康夫(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ライトが点くと少し眩しくなりますよ。」
看護師さんの優しい声とともに、手術台がゆっくりと天井に向かって持ち上がっていく。
そして、仰向けに横たわった私の顔のあたりに眩しいライトが照らされた。
 
手術台の上で天井を眺めている私の頭の中には、よくある医療ドラマの手術シーンが思い浮かんでいた。
いままでテレビ画面の奥にいた患者役が、今は自分がその患者になっている。
 
手術というと大袈裟だが、目尻にできた1センチ大のイボの切除をすることになった。
イボの周りにメスを入れ、腫瘍を摘出する。
大きな手術を経験している人から見れば、些細な手術だろうが、50歳前にして手術初体験の私にとっては大きなイベントだった。
手術の経験がないため、今から起こることに対して不安でいっぱいだった。心理的な免疫がないのだ。
 
たかがイボだが、ウイルス性の腫瘍もあるため、油断はできないらしい。
昨今、ウイルスというキーワードに敏感になっており、恐怖心が膨らみ、早く自分の体から切り離したかった。
こうして、病院嫌いの私だったが、意を決して手術をすることにした。
 
30代前半と思われる形成外科の男性の先生は淡々と手術の準備を始めている。
おもむろにメスを入れる目尻の消毒作業が始まった。
先生は「チクっとしますよ」と無機質な声で囁いた。
とうとう麻酔注射が始まる。今まで注射など打ったこともない目尻に打つのだ。大の注射嫌いの私にとって最大の難関だ。
 
とは言っても、健康診断の採血注射と同じ程度の痛みだろうと思っていた。
先生は慣れた手つきで目の周りをまさぐりはじめた。針らしいものが目尻に触れた。
そして「チクっ」とした。ここまでは想定どおり。
ただし、今回の麻酔注射は続きがあった。
「チクっ」の後に、「にょきにょきっ」と針が体の中にめり込んでいく感触があった。
脱力していた手のひらが思わず、ピクっ、と条件反射した。
経験したことがない痛みがしばらく続いた。
ほんの10秒程度だったのだろう。でもこの10秒で私の心境は一変した。
 
手術前の気持ちのゆとりが一気に吹き飛んだ。
恐怖が突き上げてきた。
「無理して手術するんじゃなかった」と一瞬、頭の中が弱気な自分に支配された。
正直、逃げ出したかった。
病院慣れしていない私は、こうした痛みへの免疫がない。
 
私は、小さい頃から病院嫌いだった。
幸い体が丈夫だったおかげでほとんど通院したことはなかった。これが大人になっても病院嫌いの要因になっている。病院に対する免疫がないのだ。
 
麻酔注射が終わり、いよいよメスを入れる時がやってきた。
脇から汗がジワリとにじんで背中に滴り落ちていくのが分かった。
早く終わって欲しい一心だった。
メスが入り始めた。ここまで来るとようやく覚悟も決まり、気持ちを無にして先生に身を預けることにした。
私の怯えた気持ちとは裏腹に先生は粛々と手を動かしていった。
手術はほんの10分足らずで終わった。
身も心も解放され、病院を後にした。
こうして私の手術初体験は終わった。
 
□ □ □
 
私は小さい頃から病院嫌いだったが、40代後半を迎えた頃から少しずつ心境に変化が出てきた。
体の衰えを実感することが多くなり、このまま一生を医者知らずのまま過ごせることはないだろうと思い始めた。
健康なうちから、かかりつけ医を持つこと、病院との上手な付き合い方を知っておきたいと思うようになった。
 
近々、多くの人々が新型コロナのワクチン接種をしてウイルスへの免疫をつけることになりそうだ。
免疫というと、どちらかというと身体や病気に対して使われることが多い。
だが、身体だけでなく、精神面、心にも大いに当てはまることも多い。
身体的な免疫だけでなく、併せて心の免疫もつけておきたい。
手術の痛みに対し、耐えられる力をつけるのも免疫。ワクチンの副反応への恐れに対して気持ちを整える力も免疫のひとつかもしれない。
 
今回の手術もその小さい免疫のひとつにしたいとの思いがあった。
今回は小さい手術だったけれど、私にとって少しは心の免疫になっただろうか。
 
将来起こりうるあらゆる事態に少しでもゆとりをもって対応できるように、心の免疫もつけておきたい。
 
そういえば来週は健康診断がある。採血注射もあるし、胃カメラの麻酔注射もある。
こうして次々と実践の場がやってくる。
心の免疫をつけるための実践だと思えば少しは気持ちも楽になれそうな気がする。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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