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スパイスにはまった夫の変化


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記事:KUMI(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ごはんにしようか」
結婚して一緒に暮らし始めた頃のことだ。
 
私が食事の支度にとりかかるための第一声がそれだった。
まだ慣れない夫婦の暮らし。
役割分担のようなルールも特に決めていなかった。
 
夫は一人暮らしが長く、自立した人だった。いや、そう思っていた。
 
夫は私のかけ声に
「はーい」
と言って、食卓テーブルにやってきて、椅子にちょこんと座った。
ちょこん、と。
 
「ん? 何? まだできてないよ」と私。
 
「うん」とにっこり夫。
 
なんと夫は、そこに座ってご飯ができるまで待っているつもりだ。
これには驚いた。
そうか、これが世間でよく聞く価値観の違いってやつか。早くも来たか。
 
普通、それじゃ手伝おうか、とか、食器を並べようか、とか、思わないのか?
それに、ヒマじゃないのか?
 
私が言った、まだできてないの意味は、想像力のある男性なら
「手伝うってことかな」
「何かしようかと声をかけようかな」とか、何かしら思いつくはずだ、と私は思い込んでいた。しかし、思い込みが思い込みだったとわかった。
 
それは、一人暮らしを長くしてきた男性像だ。
私の中で思い浮かぶ像は、大人の男性は自炊する。家で洗濯する。という、自分のことを自分でデキル人だった。もちろん夫は自分のことを自分でする人で、きれい好きのようだった。それは偽りないことだった。
ただ、食事作りをしてこなかっただけなのだった。
 
それでも私は、想像した。
この人は、お母さんにご飯を作ってもらう間もこうしてちょこんと座って待ってたのかなあと。
息子なら可愛いだろうなあ、とも。
 
しかし私はお母さんじゃないぞ。
今から彼のお母さんにはなりたくない。
心の中でそうつぶやいていた。
 
10年経って今は笑い話だが、あの時はまあまあ衝撃だった。この人は、こうして
ずっと座って待つのかなと。
あとで聞いてみると、食事はほぼ、お惣菜を買っていたそうだ。
なるほどだ。
 
でも、私が作る食事をどれも「美味しい、美味しい」と大喜びで食べてくれるのだ。
そう言われたら嬉しいのも正直な気持ちである。
お母さんにはなりたくないけど、一応母性があるので、この人のために作る喜びを
もらえた気がする。
 
実は私は家事が苦手だった。食事作りもけして得意ではなく、作る人がいないから作るような感じだった。食べることと飲むことは大好きなのだが、思い起こせば一人で作ることが少々苦痛だったのかもしれない。
だから、手伝ってほしかったのだろう。洗剤の宣伝みたいに、台所に並んだりして楽しい新婚生活を妄想していたのかもしれない。
 
そんな夫が、今スパイスにはまっている。その原因は私だ。
インドの伝統料理を少し教えてもらったことがあり、その中で、面倒くさがりの私が続けられたのが、白湯(さゆ)にスパイスを入れて飲むということだった。スパイスには素晴らしい薬効があると知り、感動したことがきっかけだ。
 
たとえばお料理にもよく使われる有名なクミンは、消化能力を高めたり、老廃物を取り除いてくれる。胃腸にも良い上に、体脂肪の減少、ダイエットにもなるのだという。リラックス、抗酸化の作用があるなど、書ききれないほどだ。
 
ターメリックもよく聞く名前であろう。日本ではウコンだ。なんと、成分には鉄、カルシウム、マグネシウム、ポリフェノール類も含まれている。皆がよくご存じのように、肝機能、コレステロール値にも良く、美肌や、脳の活性化にもいいという。イライラまで落ち着かせるというから、万能だ。
 
私が毎日飲む白湯には、クミンやターメリックも入れていた。味はというと、とてもまろやかで美味しいのだ。
直接身体に入るものなので、有機のものを使用していることは記しておく。
 
ある日、夫も飲んでみたいと言うので試してもらったら、気に入ったようで、
「コーヒーの代わりになるなあ」
と言った。これも驚いた。
なぜなら夫は珈琲マニアで、毎朝珈琲を選ぶことが最近の趣味だったからだ。
 
たまには珈琲の代わりにいいかもしれないと二人とも同時に思った瞬間だった。
 
夫はすぐに行動に出た。
スパイスを買いに行こう、と二人でオーガニックショップへお買い物に。
ずらりと並んでいるその棚の前で、嬉しそうにスパイスを選ぶ夫の姿はまるでシェフのよう。別人を見ているようだった。
 
それからというものの、夫は台所に立つようになった。
料理に凝り始め、大好きなカレーをスパイスだけで作ると言い始めた。そして、カレーの本を買った。
そうだ、夫は、凝り性なのだ。
 
今や、毎日スパイスを香らせて腕を振るっている。
人は変わる、と知った。
 
「今日は、トマトキーマカレーだよ」
うーん、たまらない。私もカレーが好きで、毎日でも食べられるわと言い合っていたくらいだ。
「いい趣味持ったね!」と心から言いたい。
 
今は夫の料理を食べるため、食卓テーブルに来て椅子に座ってニコニコして待っている私。
いい香りが漂う中、いい気分で、いい風景なのだ。
なるほど。
夫の気持ちがわかったような気がする。
 
夫は私のお母さんでもお父さんでもない、何も変わらない。
私たちは夫婦のままだった。
 
 
 
 
***
 
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