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京都ひとり旅リベンジマッチ


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記事:山口 幸美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
仕事を辞めた。ひとり、旅に出た。行き先は京都だ。
 
私が京都をひとりで旅するのは、これが初めてではない。
10年前。人生で初めてのひとり旅で訪れたのが京都だった。
しかし、その旅にはあまり良い思い出がない。どうしてひとり旅なんかしてしまったのだろうと後悔したほどだ。
そんな苦い思い出を払拭し、ひとり旅を楽しめる大人の女性になるため、私は再び京都へと旅立つことを決めた。
 
これは私の京都ひとり旅リベンジマッチだ。
 
リベンジを果たすべく、まずは前回の旅の敗因を振り返る。
初めてのひとり旅で必要以上に気合が入っていた私は、とにかく予定を詰め込んだ。
清水寺、金閣寺、二条城などの有名どころを片っ端から回れるよう綿密に計画を立てていた。
食事にしてもご当地グルメを堪能するべく、数々の有名店を予定に組み込んだ。
しかし京都に到着し、実際に自分の組んだ予定通りに回ってみると、かなりのハードスケジュールになった。1か所に滞在した時間もわずかだったため、どの名所もあまり印象に残っていない。
さらに、あんなに楽しみにしていた食事でさえ「全然お腹すいてないな……。あー今はこれ食べる気分じゃないんだけどな……」と感じながらも、予定が狂ってしまうことを恐れ、無理やり口に押し込んだ。
皮肉にも自分が立てた予定に振り回され、終わってみれば疲れ切った体と味の薄い思い出だけが残っていた。
 
そのことを踏まえ、私は今回のリベンジマッチに3つのルールを設けた。
1.旅のテーマを決めること
2.事前のリサーチは綿密におこなうこと
3.予定は立てず、とにかくその時の気分で動くこと
 
まずは旅のテーマだ。
何をもってこの戦いの勝利といえるのかを決める必要がある。
私が今回の旅に求めているのは「癒し」だ。
仕事を辞めたばかりの私の心は疲れていた。刺激など一切必要ない。ただただ癒されたいのだ。
この旅を終えたとき「最高に癒された!」そう感じていれば、私の勝利だ。
 
次にリサーチをおこなう。
行ってみたい寺社仏閣の場所、所要時間、歴史。各地域のランチ、ディナー、軽食、スイーツまで、予定は組まないが当日どこに行きたくなっても対応できるよう、リサーチは綿密におこなった。
 
事前準備をすませ、ついに2泊3日のリベンジマッチのゴングが鳴った。
 
博多を出発して新幹線で2時間44分。京都に到着したのは昼過ぎだった。
ホテルのチェックインまでには時間があるため、駅のロッカーに荷物を預け昼食をとることにした。
自分自身に問いかける。
「さあ、お前は今何が食べたいんだ?」
「……鴨鍋だ!」
私は事前にリサーチしていた鴨鍋のお店に向かった。京都駅からは少し離れていたが、このあとの予定は未定だ。何の問題もない。
鴨川を眺めながら食べる鴨鍋は最高だった。昼間からビールも飲んだ。平日だったこともあり、私は今、日本で一番自由な人間ではないかと錯覚するほどだった。
 
ほろ酔いで店を出ると、近くの八坂神社まで歩いた。
平日とはいえ八坂神社は人気スポットのため、観光客であふれかえっていた。
「よし……やめよう!」
今回の旅のテーマは「癒し」だ。人ごみに行って疲れるようなことはしたくない。
私は来た道を引き返した。花見小路というお茶屋の家並みが続く情緒あふれる小路を抜けて京都駅に戻り、早々にホテルにチェックインした。
少しだけ仮眠をとると、お腹がすいてきた。再度自分に問いかける。
「さあ、次は何が食べたい?」
「……鴨だ!」
私は昼に食べた鴨鍋で、すっかり鴨のとりこになっていた。私はその後、鴨南蛮そば、鴨のたたき、鴨ロースト、鴨ステーキと旅の食事のほとんどを鴨に捧げることになる。
こんな自分勝手な食事ができるのも、ひとり旅の醍醐味だ。
 
2日目の朝。目が覚めた私は思った。
「そうだ貴船、行こう」
貴船神社は、京都の中心部から電車とバスを乗り継ぎ1時間半ほどのところにある。華やかさはないものの、自然に囲まれていて「癒し」というテーマにぴったりのスポットだ。
朝早かったこともあり、境内には人がまばらで静かにお参りすることができた。
貴船神社の横を流れる貴船川では、川床と呼ばれる清流の上に設置された座敷で飲食を楽しむことができる。ザーッと流れる清流の音を聞きながら抹茶ラテを飲む。何時間でもここにいたいと思えるほど、最高の癒しスポットだった。
貴船をあとにした私は、瑠璃光院、下鴨神社をたっぷりと時間をかけて巡った。お腹がすけば、食べたいものを、食べたいときに、食べたいだけ食べた。何にも縛られることなく、気の向くままに京都の町を堪能することができた。
 
そして最終日。
私は京都駅近くのマッサージ店にいた。
慣れない土地での移動や、枕が変わって熟睡できていなかったこともあり、私は疲れていた。以前の私であれば、疲労困憊の体にむち打って残りの観光スポットを巡っただろう。
しかし、今回は違う。
目が覚めて疲れを感じた私は、即座にマッサージの予約をした。疲れた体を甘やかす。そして昼食には、とどめの鴨を叩き込む。最高だ。
 
新幹線の出発時刻までは、京都駅から徒歩で行ける東本願寺にいた。お堂に座り、そこから見える京都タワーをぼんやりと眺めながら、今回の旅を振り返っていた。
巡った観光スポットは、たった4か所。味わった名物は、ほぼ鴨。人から見れば、とんでもなくもったいない旅かもしれない。しかし私の心は満たされていた。
「あー最高に癒された!」
私はこのリベンジマッチに完全勝利した。
 
コロナが終息し他県への往来が自由にできるようになったら、またひとり旅を楽しみたいと思う。ただひたすらに、わがままに。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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