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メディアグランプリ

やってみそ! 仕込んでみそ!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤 みー作(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
そのプロジェクトのゴールは彼女達が作っているお味噌をいかにして売っていくかだった。
 
彼女たちのお味噌の工場は信州味噌で有名な長野県にある。先代のパパさんは田村正和を彷彿とさせるようなイケメンで、お嬢さん達も美人さんだった。聞けば、長男にあたる末っ子の弟さんは別の進路を選んだこともあり、長女と次女で家業の醸造業を継ぐことにしたのだそうだ。
 
初めて、二人に会ったのはオンラインだった。本当は現地に赴いてお話を聞くはずだったが、コロナの影響で、カメラを通してお話を聞くことになった。ミーティング当日、「ここはどこでしょう?」現地の取材担当者が木の板で囲まれた部屋から手を振る。
 
私にはすぐに解った。木の板で囲まれた部屋が味噌樽であると。そして、懐かしさが込み上げて来た。
 
わたしの祖母の実家はお味噌と醤油をつくる醸造所である。愛知県の半田市にある工場を初めて訪ねたのは小学校の低学年だったと思う。この地域の味噌・醤油と言えば、かなり色が濃い。そのせいもあるのか知らないが、工場は特徴的な黒い壁で囲まれていた。黒い塀の中に入って行くと建物の中に巨大な木の樽がいくつも並んでいた。巨大な木の樽の間から白いステテコを履いた祖母の甥っ子のおじさんがニコニコ笑いながら出てきて、工場の中に招き入れてくれた。その時のステテコの印象が強すぎて、この親戚のおじさんは、その時以来我が家では「ステテコおじさん」と呼ばれるようになった。
 
ステテコおじさんに案内され、巨大な木樽を長い梯子で登った。巨大な木樽の上まで上ると、樽の上には何枚もの木の板が渡してあって、その一つをおじさんがめくると、強烈なお醤油の香りとどこまでも深いような、ちょっと恐ろしいくらい黒い液体、お醤油が見えた。
 
残念ながら、その工場も生産性の面から、何年か前におしまれつつも黒い塀の工場は無くなり、木の樽はステンレスのキレイな樽に生まれ変わったそうだ。
 
その後、祖母もステテコおじさんも亡くなり、巨大な木の樽とその中のなんとも言えない黒い液体のことも忘れかけていたころにこのプロジェクトに声がかかり、ただならぬお味噌への縁を感じ、参加の返事をした。
 
初対面こそ、オンラインだったが、その後、なんとか緊急事態宣言の合間で、姉妹の住む長野県に行くことができた。彼女達の工場は、小柄の彼女達に合わせたかのようなこじんまりとしたただ住まいで、あの黒い塀の工場の思い出がよみがえってきた。工場の中を見学させてもらうと、木の樽こそ使ってはいなかったが、工場はレトロ感満載だった。ボイラーはもはや日本では修理することができるのが数人しかいない年代ものだった。すすだらけのつなぎを着たエンジニア担当の次女は、ボイラーの設備が古すぎて、研修がある度に指導員の先生と頭を悩ませているとアイドル顔負けの笑顔で笑っていた。
 
ボイラーだけではなかった。彼女達の工場は近代的なオートメーション化された工場とは違い、製造過程はまだまだ人力に頼らざるを得ないところも多く、他にも従業員がいるとはいえ、今後の持続には多くの課題が垣間見えた。
 
それでも、そんな苦労とは裏腹に、彼女達が作っているお味噌はどこか、甘くて優しく軽快な味がした。彼女達のお味噌をもっと知りたいと思い、お味噌づくりを体験させてもらった。麹、大豆、塩。シンプルな材料にはそれぞれなるほどのこだわりがあったが、おそらく、同じようなこだわりを持った醸造所は他にもあるだろう。
 
仕込んだお味噌をお土産にもらい、「今どき、材料の素材にこだわるのは当たり前だから、この姉妹が造っていることを前面に打ち出したらいいかも」と帰りの電車の中でぼんやり考えていた。信州の小さな昔ながらの工場で若い美人姉妹の作る美味しいお味噌。なんとなく良さそう。でも、若い美人姉妹が作るから美味しいのではないことを表現したいもどかしさが残っていた。何よりも彼女達自身が若い美人姉妹推しを望んでいなかった。
 
お味噌にただならぬ縁がある私自身、ほぼ毎年、お味噌を自前で仕込んでいる。その楽しさの一つは、発酵するのを待つことである。麹と大豆と塩を混ぜ合わせたら、容器の中に固く押し詰めて、台所の床下収納に格納する。毎日見ても、変化などない。思い出した頃に取り出してみた時、肌色だった大豆の粘土の塊が茶色に変わっていたり、たまりがでてきたりしているのを発見すると嬉しくなる。ベタに思わず「美味しくなーれ」などと声をかけてしまったりする。そうして、だいたい半年以上待ったころにやっといただくお味噌汁が美味いのである。
 
ところが、彼女達の工場で仕込んだお味噌は違った。とても元気だったのである。冬に仕込んだにも関わらず、春を迎えるちょっと前には仕込んだビニールの袋は気づけばパンパンに膨らんでいて、発酵を抑える為、慌てて冷蔵庫にしまいこんだ。いつもだったら、少し「若いかな?」と思うぐらいで、お味噌汁デビューをさせてみた。
 
「このお味噌どこの?」私が仕込んだ味噌のお味噌汁を何度も飲んできた息子から初めて聞かれた。あわてて、私も一口飲んでみた。我が家のいつものお出汁となんとも言えなくぴったりと合って、旨味が効いていた。お味噌に「若さ」という旨味があることを初めて体験した。
 
これが彼女達が造るお味噌の良さではないかと思いつつ、この旨味を伝える言葉の熟成にはまだまだ時間がかかりそう……
 
 
 
 
***

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2021-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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