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母の日が嫌いだった


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記事:伊藤瞳子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
11年前にひとり目の子供を産んだ。
私は母になった。
 
毎年、母の日が近づいてくると、義理の母と自分の母に、カーネーションやアジサイなどの鉢植えを送る手配をする。
当日はなんとなく私もそわそわする。
私も母になったから。
 
子供の頃、母の日には父が必ずメッセージカードを買ってきて、それに家族で一言ずつ書いて、お花と一緒にプレゼントしていたのを思い出す。無口でそれほど家族想い、という印象のない父だったが、なぜかメッセージカードだけは必ず書いていた。父はもう亡くなったが、今思えばそういうところはマメで、いいところ。子供の時そのように過ごしてきたので、母の日ってそういう風に過ごすものだ、と思っていた。
 
しかし私の初めての母の日には、なにも起こらなかった。
カーネーションも、手紙ももらうことなんてなかった。
まあ、そうだろう。
旦那にとって私は母ではないのだから。
 
翌年も、その翌年も母の日のお祝いはなかった。
父の日は準備をしたが、なんだかイライラだけが募る。
自分の母についに
「今年も母の日祝ってもらえなかった」とメールしていた。
 
別にお祝いなんてしてもらえなくたっていいのに。
なんだか、無償に悲しくなってきてしまったのだ。
母の日って母としての通信簿みたい。。
世の中のお母さんたちはみな家族に合格をもらっているのに、自分だけもらえなかったような気分になって。
母としてうまくやれていない自分が、母親として失格だ、遠回しにそう言われているような。
そんな気にさえなってしまう、母の日が嫌いになった。
 
母の日も、父の日も、過ぎさった7月は私の誕生日だった。
今年で40歳になる。
「今年で40かあ」なんて、誕生日が近づくにつれ、つい言ってしまう。
 
誕生日、義理の母から大きなケーキが届き、夕ご飯のあとに家族で食べることにした。
「さあ、ケーキ食べよう」
ろうそくも立てずに、ケーキを切って、簡単にすませようとすると、2年生の娘が窓に何か貼りだした。折り紙をじゃばらに折ってリボンの形にした飾りを窓に2つくっつけた。
そしてお絵描き用のB5の白い紙を5枚、セロハンテープで貼ってつなげた長い紙に、色鉛筆で色とりどりに「おたんじょうびおめでとう♡」
と書いたものを貼ってくれたのだ。
息子が、「はい」と私に差し出す。
ピンクと薄水色の2枚のフェルトを縫い合わせて作った小物入れだった。
黄色のボタンで蓋を閉じるようになっている。
ピンクのフェルトの端には水色の糸で縫い目がかかっていた。
 
息子は、小学校の授業で、最近お裁縫を始めたのだ。
先日息子に玉結びや、玉止めのやり方を教えた。
将来、このお裁縫セットを使って、大人になった息子がボタン付けをするかもしれない。
ちゃんと教えておこう。
息子は結構楽しいらしく、嫌がらずに素直に教わってくれた。
玉止めの玉を作るのが難しい、と言っていたが、もらった小物入れの裏をみると、どデカい渾身の玉止めがついていた。
息子の手作りだ。
初めての子供たちからのプレゼントだった。
 
本格的な反抗期でない息子は、まだ素直なので、純粋な気持ちで作ってくれたのだろうなと思うと感動してしまった。
母の日は祝ってもらえなくても、子供たちにこんな風に誕生日を祝ってもらえる日が来るなんて、思ってなかったな。
いつか反抗期になったら、こんなこと、またしてもらえなくなるのだろうけれど、こういう時があったというのは私の大切な思い出になるだろうと思った。
 
「僕、お風呂に入ってくるから、パパにその間にここ縫っておいてと頼んだの」
3辺縫ってある、一番長い辺を指して言った。
そこは短い2辺に比べると少し細かく縫ってあった。
息子と旦那の合作だった。
意外だった。
旦那はお裁縫が苦手なので、ボタン付けはいつも私に頼むのに。
 
うれしかった。
 
ボタンホールが大きいためにすぐ蓋が空いてしまって、中に入れたボールペンがバッグの底に落っこちてしまっているけれど、見るたびに元気がでるお守りになった。
母の日なんか祝ってもらえなくても、私は母親としてなんとかやっているんだな、と思えた。
 
初めて母の日を迎える新米のお母さんたちも、最初はこのような思いをするのだろうか。
自分は母としてちゃんとやれているだろうか、認められているのだろうか。
不安な気持ちを抱えつつ、なんとなく母の日を通信簿のように感じてしまうお母さんがいないだろうか。
逆に父の日も同じだろうか。
 
そういうお父さん、お母さんがいたら、伝えたい。
子供たちがある程度大きくなったら、子供たちがきっと答えてくれますよと。
それまで待っていて。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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