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お客様の容貌は私の容貌

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大東亜 綾乃(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「できれば他の店員さんの意見も聴きたいんだけど……」
控え目ではあったが、そのお客様は確かに別の店員に接客を変わってほしいと訴えていた。
 
新卒で入社した家具・インテリア販売の会社で、最初は店舗に配属された。私は他の新卒と同じく、日々懸命に商品について学び、接客に活かそうと取組んだ。
分厚いカタログと睨めっこして、エンドレスにスクロールできそうなマニュアルとも向き合い、研修でも講師の話を一言一句丁寧に聴いた。しかし、その努力は接客の成果には結びつかなかった。
何がダメなのかがわからず途方に暮れる私に、ベテランのパートナーさん達(母親世代の主婦さんが多かった)は優しい言葉をかけてくれた。
 
「相性が合わない人もいるよ」
「若いとそれだけで知識が少ないと判断する方もいるからね」
「今でも最初に比べてすごく成長したと思うよ」
「頑張ってる姿勢は十分伝わってくるよ」
 
どれも私のことを思いやってくれている優しい言葉なのに、それらを聞くたびに自分が惨めに感じられた。
きっと負けず嫌いな私の心が地団駄を踏んでいたのだろう。
 
そんな時、頭の切れる辛口評論家のような店長と接客カウンターで隣に立つ機会があった。
店長は唐突に私にこんな言葉を投げかけた。
「接客の時の自分の顔見たことある?」
?? 勿論ないです……。心の中ではそう返答したが、声には出さなかった。
何が言いたいのかさっぱり分からなかった。
でも上手く聞き返えす言葉も見つからなかった。
 
数日後、またこの瞬間が訪れた。
お客様から私の知識が浅い分野の商品について質問された。
あ、その答え曖昧かも……。
そう思った瞬間にお客様の顔も曇った。
あ、またこのパターンだ……。
お客様の信頼が私の手から落ちていきそうになった時、ハッとした。
確かに私が不安な気持ちになる前のお客様は笑顔だったのだ。
でも私が一瞬不安だと感じた瞬間にお客様の表情も曇った。
店長が伝えようとしていたことはこの事かもしれない……。
その後の接客は、不安そうなお客様の目と付き合いながら、何とか切り抜けた。
 
そして私は、この気づきを機に心持を変えた。
どれだけカタログやマニュアルを読んでも、ベテランのパートナーさんに質問しても、お客様からは想定外の質問をいただくときがある。
そうなったら、知識がない自分を責めるのではなく、その場で知らないことを認めて調べることにした。
無理にできる人を演じて口から出まかせを伝えるのではなく、おどおどして不安な気持ちを表情に出してしまうのでもなく、正直にその時点での自分のレベルを認めて、その場でとれる最善の行動を取ろうと心に決めた。
私はそれまで、自分は未熟だと自分自身に暗示をかけていたのかもしれない。
 
昔みたTEDの動画で今でも印象に残っている一説がある。
(※TEDとは、短めのプレゼンテーションや動画で世界中の価値あるアイデアを共有する媒体である)
とても優秀なハーバードの女性生徒が、周りの反応を恐れてクラスルームでの発言を躊躇っていた時に教授がかけた言葉だ。
「Fake it until you make it.」
その時の文脈に合わせて意訳すると、あなたが自信を持てるようになるまで、さも自信満々かのように振る舞いなさい、というメッセージだった。
初めての体験をするとき、人はどれだけ準備をしても緊張するものだし、自分の到達レベルに不安を感じるものだと思う。
でももし自分がその時点での精一杯の努力をしたのであれば、その後は自信を持って演じたら良いのではないだろうか。
初めての経験でも、できる人を演じて一度経験してしまえば、あなたも晴れて経験者の仲間入りを果たす。きっと人はこうして成長していくのだと感じた。
 
この気持ちの転換をしてからは、心のプレッシャーも減り、自分が的確な答えを持ち合わせていないときは、正直にそのことをお客様へ伝え、その場で調べることにした。
ベテラン店員にも分からないことはある!
この姿勢でお客様と接するとお客様からも嬉しいお言葉をかけていただけるようになった。
「ありがとう。あなたの接客で、いい生活のスタートが切れそうだわ。」
その言葉を初めて頂いたときは、どう返していいのか分からず、しどろもどろしてしまった。
ただ、心の中で店長に感謝し、自分にも前より自身が持てるようになった。
 
もしあなたも私のように接客に苦戦しているのであれば、一度自分の表情を意識してみてほしい。
勿論、お客様が満足する接客を行う為にはそれなりの知識も、それを得るための努力も必要になる。一方で、答えられない質問に出会うことはどれだけ勉強しても一定数はあると思う。その確率に怯えるのではなく、出会ったときは正直に分からないと伝え、その場で調べてお客様の要望に応えることもできる。
何よりお客様を不安にさせるのは、店員が一生懸命調べている姿ではなく、即答できないときに見せるその不安そうな表情であることを忘れないでほしい。
自分がその時までにできる限りの準備をした後は、自分に自信を持って笑顔で売場に立ってほしい。
 
きっと大丈夫。
売場では素敵な出会いがあなたを待っているはずです!
 
 
 
 
***
 
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2021-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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