メディアグランプリ

銀色の裏地


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤 みー作(ライティング・ゼミ超通信講座)
 
 
またまた今年も誕生日を迎えた。
誰もが1年に1回年齢を重ねるわけだから、別に焦る必要もないと思うのだけれども、40歳の後半を迎えるあたりから、妙な焦りを感じてしまう。
 
40歳と言えば、いわゆる「不惑の年」と言われるが、いざ、自分がなってみると、迷うことばかりで、「ま、言っても、それは孔子のような優秀な人の場合であって、私みたいな未熟ものはまだまだ迷うことも多いのはあたりまえだよね。」と自分を慰めてみたりしていた。
 
そして、40歳の半ばを超え、いよいよ来年は50歳の大台を迎える誕生日ともなると、いやでも自分の来た道を振り返ってしまう。
同世代の友人・知人とついつい比べてしまう。
「周りに、社会に何か役に立てているのだろうか?」と。
 
彼女と出会ったのは、前に勤めていた会社だった。
当時、私はベンチャー企業の新入社員の採用を担当していて、その会社でインターンをしていた男子学生から「自分の彼女が優秀なのに就職に苦戦している。絶対にウチの会社で活躍すると思うから会ってみて欲しい。」という相談を受けた。
自分の彼女を推薦してくるというのは初めての申し出に戸惑ったが、履歴書を見る限り問題ないようなので、とりあえず面接をしてみることにした。
東京大学を卒業して、大学院に進み、卒業間近だった彼女は、会ってみると、感じも良く、聡明だった上に美人でスタイルも良く、「神は二物を与えず」というのはウソだな、と思ったほどであり、なぜ、就職に失敗しているのか謎であった。
 
当時、その会社で募集していたターゲットの人材ではあったが、少しオーバースペックなような気もしたし、彼女のような優秀な人材がベンチャー企業でまだまだ不安定な会社に就職してくれるのか不安だった。
おそるおそる「ウチで働いてみないか?」と打診してみたら、快諾してくれた。
 
入社した彼女は、期待通り以上の活躍をしてくれた。人材採用の立場としては、優秀な人材とはどういう人材なのかを改めて確認できたし、翌年からは優秀な人材を採用すると芋づる式に優秀な人材を採用できるという経験もできた。
 
仕事で思う存分能力を発揮して活躍していた彼女は、同時にいつか母親になり、子供を持ち幸せな家庭を築くという将来設計をしていた。
いつの間にか、彼女とは仲良くなり、プライベートな相談にも乗るようになっていた。
彼女を紹介してくれた件の男子学生とは就職が決まって入社して早々お別れしてしまっていた。
その後、お付き合いしていた男性はいわゆる「だめんず」で、お別れすることをお勧めするくらいであった。
その後もいくつか、痛みを伴う恋愛を経験していた。
 
そんなある日、「東大に入ることの方が、結婚して子供をもつことよりずっと簡単なんですよ!」彼女にそうぶちまけられた時、正直驚いてしまった。
当時、何年か彼女の前を歩き、子育てと仕事の両立に四苦八苦していた私は、優秀な上に、美人でスタイルも良く、非の打ちようのないような彼女がそんな悩みを持っているなどと夢にも思わなかった。
 
その時、どんな風に彼女をなぐさめたのか、覚えていなかった。
 
あれから10年以上経った今年、私は自分の誕生日にSNSの投稿を上げた。どんよりとした灰色の曇り空の中に、雲の隙間できそこから太陽がのぞいて、一筋の光が地上につながっている写真をなんとなく添えた。誕生日の数日前に偶然目にした不思議な空の景色に思わずカメラを向けて撮影したものだった。
 
その投稿を見た彼女から、私の投稿にコメントがついた。
「この写真、前にもらった本に書いてあった『すべての雲には銀色の裏地があるんやで』って言葉を思い出しました」と。
 
彼女に本をプレゼントしたことさえすっかり忘れていた私はすぐに彼女に返信した。
「そんな、素敵な言葉が載っている本をプレゼントしたことあったっけ?」
 
彼女曰く、結婚できない悩みを打ち明けた後に、私がプレゼントした本に書いてあったのだという。
しかも、その本は別に自己啓発や恋愛や婚活の悩みに関するものでもなんでもなく、英会話の実用書の本で「国際人になるための常識が英語と共に身につく」という副題がついていたそうだ。
私からプレントしてもらった当時、「なんでこの本をプレゼントされたのだろう?」と彼女は不思議に思ったのだそうだ。
それでも読んでみたら、彼女は、その本の中に“Every cloud has a silver lining.”という言葉を見つけ、「すべての雲には銀色の裏地があるんやで」という翻訳がつけられていて、「どんなことにも良い面がある」という意味があることを知り、励まされ、前向きになれたのだと言う。
 
それを聞き、「なんでそんな本をプレゼントしたのか? しかも翻訳が関西弁の英会話の本を選んだのはなぜ?」と自問自答をしたが、全く思い出せなかった。
 
兎にも角にも、彼女はその本がプレゼントされた後、お友達の結婚式で出会った6歳年下のイケメン男性にモーレツなアプローチを受けた。当時は珍しかった彼女達の組み合わせに、反対する声も少なくなかったが、目出度くゴールインした。
その後、可愛らしいお嬢さんにも恵まれ幸せに暮らしている彼女の今を思うと、数年前の自分を褒めてあげたい。
 
不惑を終えようとしているにも関わらず「周りに、社会に何か役に立てているのだろうか?」と自問自答する毎日だが、自分が忘れてしまったり、気付いていないだけで、私がしてきたことにも意外とちゃんと銀色の裏地がついているようである。
 
 
 
 
***

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2021-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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