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フラれたのは出来ないからじゃなかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「やっぱり好きじゃなかった」
 
その言葉で、私は彼女にフラれた。
訳が分からなかった。なんでこのタイミング。
まるで、事故に遭ったような気分だった。
 
まだ、これからじゃない。まだ始まったばかりじゃん。
考えれば考えるほど混乱してくる。
 
言葉を発しようとするが、パニックになって上手く吐き出せない。
まるで、走馬灯のように過去のことが思い出されてきた。
 
 
大学3年生の頃のこと。
彼女と出会ったのは、当時所属していた学科とは別の授業をとったことがきっかけだった。
 
私が通っていた大学は、学部は一学部ながら、文系、理系、芸術系と色々な学科が揃っていた。
だから、授業も多種多様。
当時の私は、卒業するために必要な授業を既に大半受けていたので、時間に比較的余裕があった。
そんな時、同じサークルの友人から「せっかく、時間に余裕があるんだったら、他の学科の授業を受けてみない」と誘われたのだ。
友人と相談の上、選んだのは、音楽系学科の授業である「和太鼓演習」。
これまで、よくゲームセンターで太鼓をたたくアーケードゲームで遊んでいたので、和太鼓には興味はあったのだ。
 
それに、身体を動かしたいとも思ったのも選んだ理由だ。
所属していた学科が歴史系ということもあり、大学2年生までは文章を読んだり、ゼミで討論するなど頭を使うことが多かったからだ。
そして、一回目の授業がやってきた。
期待と不安が混ざった気持ちで教室に行くと、そこには異世界が広がっていた。
 
授業を受けている約20人のうち、私と友人以外の全員が音楽系学科の学生だったのだ。
これまでも、受けてきた授業で他学科とかぶっていることはあったが、今まで音楽系学科の人と接することがほとんどなかったのだ。
 
そのため、強烈なアウェイ感を覚えた。
「この授業やっていけるかな」
そんな不安を抱いたのを今でもよく覚えている。
 
しかし、授業を受けているうちに、それは取り越し苦労だったことが分かった。
音楽系学科の人達全員、学科が違う私たち二人に、分け隔てなく接してくれたのだ。
そして、なにより身体を動かす授業はとても新鮮だった。
学科の授業で疲れた頭を癒やしてくれた。
「この授業を取って良かったな」
たしか、一緒に取った友人とそんな言葉を交わしたっけ。
 
それからは、和太鼓の練習にいそしんだり、授業に参加していたメンバーと楽しく談笑したり、穏やかな時間を過ごすことが出来た。
「和太鼓演習」の授業の時間は私にとって、まさにオアシスと言える場所だった。
 
状況が変化したのは、それから半年も経った頃のことだった。
「おー、西片くんじゃない」
いつものように、学科の授業を受けていたら、後ろから話しかけられたのだ。
声の主は、「和太鼓演習」を一緒に受けているメンバーの女性。
ざっくばらんな性格で、誰とでもフレンドリーに話が出来る人だった。
 
聞くと、その子も私と同様、他学科の授業を受けたくなったらしい。
「なるほど、俺もそうだったから分かるよ」と言った私。
その後、彼女と数分間たわいもない話をして、授業に戻った。
 
授業が終わり、彼女からの意外な言葉にびっくりさせられた。
「せっかくだし、次の授業から隣で受けていい?」
え、なんで? 正直、戸惑った。
 
たしかに、和太鼓の授業でも話すことはあったし、今回も会話こそした。
しかし、それはあくまでも世間話。そこまで盛りあがったとは思わなかったのだ。
 
そこまで仲良くなかったじゃん。
そんな言葉が一瞬、頭をよぎった。
しかし、気付いたらこんな言葉を発していた。「おっ、お・・・・・・、いいよ!」
 
戸惑いよりも、下心が勝ったのだ。
すっかり舞い上がってしまっていたのだ。
「やったー! よく分からないけど、女性と話せるなんて嬉しい!」
そんなことしか、考えていなかったのだ。
いやはや、今考えてみると恥ずかしい限りだ。
 
それから、その子は言葉どおり毎回、私の隣に座って授業を受けた。
はじめこそ、お互い普通に授業を受けていたが、その子の行動が変化してきたのだ。
私との身体の距離が近くなって来たのだ。
肩に触れてきたり、手を触ってきたり、スキンシップが多くなってきたのだ。
もともと、その子には特に好意を持ってはいなかったが、だんだん気持ちが変わってくるのが分かった。
「もしかして、俺のこと好きなんじゃないかな」
「もしかして、俺もこの子のこと好きかも」
そんな気持ちが浮かぶ様になってきたのだ。
ウブでかつ、とても現金なやつだった。
 
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、その子は私に言った。
「せっかくだから、どこか遊びに行かない?」
「一緒に都心の美術館に行きたいな」
 
舞い上がり度合いは、最高潮に達した。
「ばんざーい!! デートの誘いだ!」
「これはもう付き合ったも同然だろう」
そんな気持ちだった。
 
そこからの私の動きは、スイッチが入ったように速かった。
それまで興味がなかった美術館のことを調べた。
行ったことがほとんどない都心の飲食店を調べた。
 
そして、迎えた当日。
しっかり準備をしたこともあり、デートは滞りなく進んだ。
デートの間、その子はとても上機嫌。
しかも、美術館の時なんか、私の手を握ってくるではないか。
もう心臓はドキドキだった。
美術館には申し訳ないけど、もう美術作品なんてそっちのけだった。
「今日、俺はこの子に告白する」
そんなことしか、頭に浮かんでいなかった。
 
不安がなかったかと言ったら、嘘になる。
それに、私はまだその子のことをよく知らなかった。
しかし、そんなことはどうでも良かった。
 
あれだけ、私にスキンシップしてくるんだ。
自分を慕ってくれているんだ。その子の気持ちに応えたい。
そんな気持ちが私を突き動かしたのだ。
それに、勝算もあった。
何より、今日のデートはとても楽しそうだったのは見ていて明らかだったからだ。
 
夕食をつつきながら、私はその子に思いをぶつけた。
「俺と付き合ってください」
 
しかし、彼女の反応は意外なものだった。
「え・・・・・・。ちょっと考えさせて」
耳を疑った。
どうして?
あれだけ、私に好意を寄せてくれたじゃないか。
これは誰がどう見ても、付き合える流れでしょ。
ここまで、来たらもう付き合おうよ。
 
その一心で、私は彼女を説得した。
時間にして、およそ1時間ぐらいだっただろうか。
ついに、その子は私の「彼女」になった。
 
想定外の事態でヒヤヒヤしたが、結果オーライ。
きっと、急な告白に戸惑っただけ。
結局、付き合えることになったのだから、それでいいじゃない。
そう思うことにした。
 
しかし、振り返るとそれが悲劇の始まりだった。
 
こうして、私の「彼氏」としての日々が始まった。
彼女とは毎日、連絡を取り合い、二日に一回は私の家にやってきた。
大の大人が一つの部屋にいるのだから、やることは決まっている。
 
慣れないながらも、彼女に喜んでもらいたい一心で、頑張った。
しかし、なかなか上手く行かない。
彼女のことが好きなはずなのに、なぜ?
どうしちゃったの、俺?
 
気持ちが焦るばかりで、身体が全然追いついてこない。
「大丈夫。次があるから」
はじめこそ、彼女はそんな私を励ましてくれた。
しかし、そんなことが二回、三回も続くと様子が変わってきた。
彼女の表情に暗雲が立ち込めているのが分かったのだ。
あれだけ高かった声のトーン、テンションが坂道を下るように、どんどん落ちていった。
 
そして、付き合って約二週間が経ったある日。
彼女の口から、非情な言葉が告げられたのだ。
「やっぱり好きじゃなかった」
「別れてください」
まるで、氷水を浴びせられているような気分だった。
 
表情は、鉄仮面。
発した声のトーンは、今までの彼女とは別人のようだった。
 
訳が分からなかった。
確かに、カラダの関係は上手くいっていない。
しかし、それ以外は何の問題もなかったはず。
彼女に行きたい場所があると言われたら、一緒に出かけたし、会いたいと言われたら、すぐに駆け付けた。
 
「え、どういうこと?」
「いくらなんでも判断が早すぎるんじゃないの?」
「もう一度、考え直してよ」
自分でもびっくりするくらい食い下がったことは、今でも忘れられない。
 
そう言っても、彼女が「別れてください」の一点張り。
私に好意を寄せてくれた振る舞いも、笑顔も、テンションの高い声も、そこにはもうなかった。
 
 
 
こうして、私は彼女にフラれた。
その日、どうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
それくらい、ショックだった。
 
あれだけ、愛想を振りまいてきたのに。
あれだけ、時間を費やしたのに。
あれだけ、努力したのに。
 
全ては水の泡になった。
彼女にとって、私はいったい何だったのか?
結局、振り回されただけなのではないか?
悲しみにも、怒りにも似た気持ちがしばらく続いた。
 
「おい、どうした? よかったら話聞くぞ」
そんな私の姿を見かねて、「和太鼓演習」に一緒に参加したサークルの友人が声をかけてくれた。
彼には、私の思いを全てぶちまけた。
ぼろぼろにフラれたこと。
彼女に振り回された自分は被害者だということを。
 
しばらく黙って聞いていた友人が、口を開いた。
「たしかに、お前の言っていることも分かる」
「端から見ていても、頑張っていたと思う」
「でも、彼女だけ攻めるのは良くないよ。お前もちょっと舞い上がりすぎだったと思うぞ」
 
その言葉にハッとした。
私は今まで思い違いをしていたのだ。
彼女にフラれた原因はずっとカラダの関係が上手くいかないからだと思っていた。
しかし、それは間違いだった。
 
「彼氏」という肩書きに、私はこだわりすぎていたのが原因だったのだ。
 
たしかに、自分でいうのもなんだか私はできる限りのことをした。
しかし、彼女は私にすぐ愛想を尽かした。
今考えても、彼女に怒りたくなる気持ちは分かる。
 
しかし、私はどうだったのか。
彼女の意見にしっかり耳を傾けようとしたのか。
出来ていなかった。自分の気持ちばかり振りかざしていた。
そもそも自分の気持ちにすら向き合っていなかった。
「彼女」と付き合っていたのではなく、「彼女」という存在がいる自分に酔っていただけではないのか。
 
恋愛は短距離走ではない。
付き合ってゴールなわけじゃないんだ。
二人で作る共同作品なんだ。心と身体のぶつかり合いなんだ。
 
そのことに気付かされたのだ。
 
あれから、約15年。
大学を卒業し、社会人になった。
その間、色々な人のことを好きになり、何人かと付き合い、そして結婚した。
これからも、時に意見が対立し、喧嘩することもあるだろう。
たしかに、意見がぶつかることも、喧嘩することも楽じゃない。
しかし、それから逃げていたら何も始まらない。
相手はどう思っているのか、そして自分自身はどう思っているのか。
そこと向き合わなければ、自慰行為と同じだ。
ぶつかったらぶつかった分だけ、一人じゃ得られなかった風景や楽しさをつかめる。
 
あの時、フラれたのは無駄じゃなかった。
そう思えるように、これからも過ごしていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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