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老婆心ながら、おばちゃんが伝えたいもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:今村真緒(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「はい。分かりました」
素直な返事は、とても良い感じだ。元々、真面目な子のようだ。アルバイトもだいぶ慣れてきたかなと、娘を見るような目で思わず微笑んでしまう。
 
私は、ベーカリーでパートとして働いている。個人経営のお店ということもあって、社員やパート、アルバイトも仲がいい。みんな、仕事中もきびきびと働く。次から次へと自分がやるべき仕事をこなし、手が空けば率先して他の人の仕事を手伝っていくというバトンリレーができている。
 
そんな中、4月から新たに大学生のアルバイトが数名入ってきた。聞けば、みんな大学1年生。私の娘と同い年だ。うわー、娘が入ってきたらこんな感じなのか。何だか、こちらがドキドキした。私は、彼女たちからすれば年の差は30歳以上のリアルお母さん世代だ。フレッシュな仲間が増え賑やかになったものの、早く仕事を覚えてもらわなければならない。業務が増えたこともあり、即戦力の育成は急務だった。
 
勢い、パートのお母さんたちが、大学生のアルバイトを教育する立場になる。アルバイトをするのが初めてという人もおり、お客さんへの挨拶や声かけなど初歩的なことから始めていく。「いらっしゃいませ」と言うのも恥ずかしい人や、一つの仕事に没頭するとお客さんの存在を忘れてしまう人もいる。自分の仕事をこなしながらも、新人さんたちの仕事ぶりをチェックし、こうした方がいいのではというアドバイスをしたり、お客さんがいない時間には新しい業務を教えたりする。
 
同時スタートの新人さんが何人もいると、それぞれの個性が見えて面白い。スタートは同じはずなのに、業務の得手不得手はもちろん、指示の捉え方や効率の図り方にそれぞれの性格が見えてくる。
 
要領のよい人、丁寧な人、並行して仕事ができる人、一つのことに熱中してしまう人。決して人員が十分とは言えないこの店で、最も欲しいのはオールラウンダーだ。販売だけではなく、キッチン業務や職人の補助もできる人は、より有り難い。
 
パートのお母さんたちは、忙しさの中で家庭を切り盛りしてきた効率化のプロたちが多い。次に何をやるべきか自然と体が動き、優先順位と作業効率を天秤にかけながら作業をすることに長けている。そういう点においては、どうしてもアルバイトの人たちの動きに、物足りなさを感じてしまうのは仕方のないことかも知れない。しかし、それは自然なことだ。お母さんたちは人生の先輩だから、経験も倍どころか2.5倍ほど重ねてきている。多くの失敗から学んで、活かしてきたことも多い筈だ。
 
アルバイトでは、その仕事の段階において昇っていく階段があると思っている。例えば、「A段階」では一通りのやるべき仕事を覚え、「B段階」で作業の組み合わせの効率を工夫し始める。そしてラストは、「C段階」だ。店全体のことを考えながら、どうしたらお客さんにまた来ていただけるかということを常に考える姿勢を持ちながら仕事に向き合っていく。これはアルバイトだけでなく、いろんな仕事についても当てはまるのではないだろうか。段階を昇っていくごとに、仕事に対する意識も変化していく。
アルバイトの彼女たちの現時点は、「A段階」のようだ。
 
私も、学生の頃は様々なアルバイトを経験した。奨学金をもらっていたこともあって、アルバイトはプラスアルファで必須だった。一番思い出に残っているのは、メキシコ料理のお店でアルバイトをしたときのことだ。何しろメキシコ料理がどんなものであるかも知らずに飛び込んだので、初めは香辛料の名前や珍しい名前の料理を覚えるのも一苦労だった。
 
このお店では、接客や厨房の補助も私の仕事だった。不器用な私は、大量の玉ねぎやピーマンのみじん切りにとても苦労した。サルサソースという、タコスなどにつけて食べるピリ辛ソースの材料だった。家では見たことのない超特大のボウルと、いくら刻んでも終わらない量の玉ねぎに何度泣かされたことだろう。あまりの量に、家に帰っても玉ねぎの匂いが自分に沁みついているような気がした。材料を刻むときには、よく「猫の手」の形がいいなどと言われているが、そんなことさえ知らない私は、危なっかしい手つきで周りをハラハラさせていたようだ。実際に、うっかり手を切ってしまいそうになったことも、一度や二度ではなかった。
 
実は、このアルバイトを始めて間もない頃、やっぱり辞めようかと思ったことがある。学校が休みの日に朝から晩までシフトに入っていたときは、コンクリートの地面に立ちっぱなしの足が棒のようになって辛かったし、接客と厨房の両立で忙しさにパニックになりそうだった。正社員でもないのに、どうしてアルバイトに仕事のレベルをここまで求められるのかと内心思ってしまった。どこかに、「所詮学生のアルバイトだから、私の仕事はここまで」と思っていた部分があった。
 
そんな気持ちを捨てきれないまま、私の後に入ってきたアルバイトの学生に仕事を教える立場になった時、私はあることに気がついた。教えるということは、自分がやってきた仕事を棚卸することでもある。分かっていなければ、教えられないのだ。後輩に仕事のやり方を教えていくうちに、どうしてその仕事をやらなければならないのか、どうしてその順序でやったほうがいいのかということが、私の中で腑に落ちていった。忙しい中での効率的な動線や、仕事の優先順位の付け方が、霧が晴れたように見え始めたのだ。きっとこのとき、私はようやく「B段階」へと進んだのだと思う。
 
メキシコ料理の店ということもあって、その辺りでは珍しく外国人のお客さんも多かった。つたない英語でのやり取りも初めは怯んでいたけれど、やっているうちに変な度胸がついてきた。席を待っているお客さんのために、いかに早くテーブルを片付けるか効率を考えるようになった。辛い料理が多いため、お客さんから声が掛かる前に、お冷のサービスを心がけるようにした。
気持ちよくお店を利用してもらえるように、トイレも隅々までピカピカにした。料理のことを尋ねられても、ちゃんと内容を説明できるようになりたくて、厨房でチーフが作っている様子を観察したり香辛料のことを調べたりした。また来たいと思ってもらうためにはどうしたらいいか、自分ができることをやっていこうと思うようになった。
 
学生時代のアルバイトというのは、散らかった部屋の大掃除のようなものではないだろうか。
どちらも、初めは大変だと感じる。そして、どう仕事をしたらいいのか手探りの状態は、とっちらかった部屋の中で、どこから片付けていいのか右往左往するのと同じだ。仕事を効率よくできるように考えることは、どう部屋を片付ければスッキリ見えるようになるのか工夫することと似ている。それから、どうすればお客さんの満足度を上げられるかを考えるのは、どうすれば心地良い部屋をキープできるのかのアイディアを凝らすようなものだ。億劫に感じていたものが、やっているうちに、加速度をつけて車輪が回るようになる。AからCへと段階を上げていくにつれて、視界が広がっていく感じだ。初めは自分の半径1メートルほどだったものが、2メートル、4メートルと徐々に世界が開けていく。
 
そうやっていくうちに、気づけば3年経っていた。大学時代のアルバイトは、このメキシコ料理店が一番長続きした。もちろん居心地の良さもあった。オーナーもチーフも仕事には厳しかったけれど、しっかりと頑張りを認めてくれる人たちだった。初めの頃の私の不器用さにはビックリしたと言いながら、怒られてもめげない根性と努力を買ってくれた様だった。また、温かくも率直なオーナーとチーフが指摘してくれたおかげで、私は自分が人にどう見られがちなのかを、ここで改めて気づくことができた。信頼関係が育っていたこともあって、本音でグサグサと言われても、私のために言ってくれていることは十分感じられた。ここでの経験は、それからの私にとっての貴重な財産になった。
 
学生のアルバイトは、学校の卒業と共に辞めていく。そのスパンは、おばちゃんパートよりも短い。そのことは分かっているけれど、せっかく縁あって一緒に働くのであれば、何かを得てもらいたいと個人的に思っている。いずれ就活で大変になるのだろうが、学生のアルバイトは社会に出る前の練習と思って、働くことの意義や楽しさを見つけてくれたら嬉しいと思うのだ。
 
 
 
冒頭の彼女にお願いしたことは、しばらく経ってもそのままだった。「わかりました」と返事をくれたのに何度も言うのは気が引けて、結局はこちらで済ましてしまった。上手く伝わってなかったのか、一つのことに夢中になって忘れているのかは定かでない。まだ「A段階」の彼女は、目の前のことに必死なようで、度々このようなことが起こる。いつまでもこのままでは困るけれど、「私たち世代の時のように厳しく言われたら、きっと辞めちゃうよね」なんてお母さんたちで話している。ジェネレーションギャップを上手く操縦しないと、きっと彼女たちには届かないだろう。
 
そろそろ、彼女たちがここで働くようになって3か月が経つ。「B段階」に進んでもらうには、どうしたらいいだろう? それを考えるのも、先輩であるお母さんたちの役目だ。彼女たちに響くように、自発的に動いてもらえるようにと思って、先日お客さん目線でのロールプレイをやってみた。こんな場合、お客さんとしてどう思うかを想像してみたり、こうなっていたらお客さんは嬉しいのではないかということを一緒に考えてみたりした。どう思ったかは分からない。けれど、何かしらの気づきがあればいいと思う。こちらも試行錯誤の真っ最中だ。
 
「若い時の苦労は買ってでもせよ」と言う言葉がある。そんなことを言うと、またおばちゃんがしゃしゃり出ているように思われるかもしれない。でも社会に出たら、学生の時とは違う理不尽なことが山ほどあり、数々の荒波に揉まれることだろう。いきなり大人社会の洗礼を浴びるより、学生時代にはアルバイトをしておくことを心から勧めたいと思う。自分たちとは違う世代の人や、様々なバックグラウンドを持つ人たちと交わることだけでも勉強になる。世の中には、自分が知らないことが山ほどあることに気づかされる。仕事に対する心構えや、互いに協力し補い合うことの大切さを学ぶことができる。
余計なお世話と言われるかもしれないが、老婆心ながら、おばちゃんはそんなことを伝えられたならと思っている。
 
 
 
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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