チーム天狼院

夏の焦燥を、迎えにいく。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:鳥井春菜(チーム天狼院)

 

 もう何年も夏を過ごしているのに、その季節はいつも私が思うより「夏」で、毎年その本気の暑さに内心ちょっと驚いてしまう。暑くてジリジリ、汗が吹き出す。そんな夏は、振り返ればいつも、焦燥の季節だった。陽射しの中、セミがせきたてるように鳴き出すと、私の焦りもじわじわと湧き上がってくるのだ。

 

 初めて、その感情に出会ったのは高校二年生の頃だったと思う。青く晴れ渡った夏空を眺めて、不意に「自分は、これからどんな人生を歩んでいくんだろうか?」と思った。進学校に通っていたこともあるかもしれない。もうすぐ三年生で、受験期になるんだよな、それから大学では……将来は……そんな未来のことを考え出すと、漠然とした不安が胸に湧いた。時間が経つにつれてそれはだんだん腹の底の焦りに繋がって、翌年、受験生の夏はもっと強い焦燥が心を覆っていた。もう夏が来た。また一年が経った。時間は待ってはくれない。

 

 それから晴れて大学生になると、「人生のモラトリアム」と言われるだけあって、夏の焦燥はわずかに影を潜めた。それでもなくなることはなく、「それでいいのか?」とこちらの様子を伺っているようだった。そんな風に幾度か夏が巡って、社会人になった。上司に怒られ、覚悟が足りないと突きつけられては、そうなんだろうかと自問自答する日々。懸命に過ごしていたけれど、だからこそ、毎日があっけなく終わって、気がつくといつも目の前にやってきている夏は、やっぱり焦燥を呼んだ。高校の夏に感じたのは、まだどこか期待混じりの不安だったけれど、社会に出てからのそれは、背筋がスッと冷たくなったり、肩にぐっと力がこもってしまうような、恐怖混じりの不安だった。

「本当に自分はこのままでいいのだろうか?」

問いかけも深刻さを帯びて、何度も自分の価値を計り直した。これじゃダメだ、何にもできていない。夏が来るたびに、不安が募った。

 

 空が気持ちよく晴れ、立派な入道雲が立ち上り、ひまわりが咲き、人は海へ行く。冬の静けさと春の揺らぎを超えて、世界が一気に動き出すのだ。そんな華やかな世界では、どうしたって焦燥が募る。また、夏が来てしまった。みんなは動き出しているのに、自分はどうだ。そんな風に、夏のエネルギーは遠く眩しくて、またそれ故に、時間の流れを際立たせてしまうのだと思う。

 

 そして今年も、転職をして最初の夏がやってきた。早かった。今年に入ってもう半年以上 経ったのか。この夏も私は、やっぱり焦っている。自分で選んだ道で、本当にやりたいことができているだろうか。日々に流されながら、半年が過ぎてしまったのではないだろうか。もっともっと自分の人生をコントロールしなければいけないのではないか……

 

 このまままたあっという間に半年が過ぎて2021年が終わってしまうことを思うと、心がヒヤッとする。このままじゃダメだ。まだこの一年を終わりにできない。でもやっぱり現実は上手くいかないこともあって、あぁ、でも嫌なんだと、熱気に駆り立てられてばかりいる。

 

 でも、それでもやっぱり、私はこの夏がないと生きられないと思う。春と秋と冬だけじゃ、生きている気がしないんじゃないだろうか。心がヒリヒリ焼き付いたり、ぐるぐる同じことを考えて悶々としたり、とりあえず叫びたい気持ちになるようなの胸の痛みを感じたりして、実際息苦しいのだけど、この夏を嫌いになることはできない。

 

 新緑、快晴、汗と熱気。活気付く世界への高揚感と、それと自分を比較した時の不安。夏が来るたびに、私は年々、この焦燥感を確かめるようになっている。最初は心に“湧き上がって”いたこの感情を、今では、まだそこにいてくれるのかを自ら確かめようと青空と入道雲を見上げる。胸の中を探り、むしろ迎えに行って、再会する。あぁ、よかった、私、まだ夏が怖い。満足しきれる状態にはなれていないのは残念だけれど、諦めてもいないし、自分が納得して生きたいということを忘れてもいない。まだ、追いかけている。何にもなし得られないままに、この夏を呑気に過ごせるようになることが、私は本当は一番怖いのだ。

 

 もっと何年か、何十年か経ったら、この気持ちを懐かしく思い出すことができるのだろうか。あの頃は若かったなぁ、なんて、こんなにもやもやジリジリした感情を慈しむこともあるだろうか。

 

 それともやっぱり、ずっと、夏には焦らされてばかりだろうか。

 

***

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