fbpx
メディアグランプリ

父は偉かった 想像力は貯蓄額に比例する

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:橋本潔(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「懐かしいな」
私は家族で昔住んでいた家の前にいた。
そこにいると当時の記憶が蘇ってくる。
ワクワクしながら玄関の鍵を差し込んだ。
 
その家は、父が若い頃に購入したもので、父の死後、私が相続した。
引っ越すまで家族で住んでいた。
庭には柿の木があった。
登って降りられなくなり父に助けられたこと。
今でも記憶している。
 
引っ越し後、父は家を売らなかった。
その理由は今もわからない。
父はその家を知人に貸した。
子供の私が何故貸したのか質問したことがあった。
 
父は、いつも、質問に対してすぐに答えを言わない。
「考えてごらん」
そういって、私に考えさせる。
私に考えさせ、想像させようとする。
私が答えられないところを見計らって、初めて父がその理由をいう。
それがいつもの父とのやりとりだった。
でも、子供の私はそのやりとりが嫌いだった。
小さい頃から考えるのが苦手で、せっかちだったからだ。
 
相続してしばらくの間、母から電話を受けた。
「たまには家を覗いておいたほうがいいんじゃない」
聞けば、借主は父がなくなる半年前に賃貸契約を解除していた。
相続してから半年が経っていたので、まる1年誰も住んでいないことになる。
「いつかはそこに住むのだから、ちょっと確認しとかないと」
私はそう思って、相続した家に向かった。
 
解錠し、玄関を開けた。
ボロボロになった床。
抜け落ちた天井。
歩くたびに舞う埃。
バサバサと天井を飛ぶ野鳥。
庭には、粗大ゴミ。
まるでゴミ屋敷だ。
懐かしい記憶が、一気に吹き飛んだ。
 
「これでは、住むのは無理だ」
私は工務店に連絡をとり、見積もりをとった。
 
「一千万円」
工務店が提示した金額に驚いた。
とてもすぐに用意できる金額ではなかった。
でも、このまま放置すれば、さらに老朽化し、費用がかさむのは明白。
貯金通帳には900万。
残り100万円足りない。
解体費用に相当する額だった。
「足りない分はなんとかしよう」
私は自分で家の解体をすることを決めた。
 
「リフォームが始まるまでに終わらせないと」
仕事が終わると、急いで家に駆けつけ、作業着に着替えた。
バールとハンマーで天井を剥がし、壁を壊し、解体する。
床をめくった時だった。
大きな水たまりがあった。
1平方メートル、深さが50センチぐらい。
「なんで、こんなところに水たまりが」
その原因を深くも考えず、解体を続けた。
これが後、大きな事件に結びつくとは、想像すらしなかった。
 
工務店のリフォームが終わり、新しくなった家に引っ越した。
住み始めて1ヶ月が経過した頃だった。
その年は台風の当たり年で、過去最高の降雨量を記録した年だった。
 
「バジャ、バジャ」
深夜の2時、その音で目が覚めた。
雨が屋根を叩きつける音かと思った。
「いや違う、何か音がおかしい」
メガネをかけて、起き上がり、音のする方に向かった。
音がするのは庭の方だった。
窓のカーテンを開けた。
急いで雨合羽を着込んで、庭に出た。
 
あまりの降雨で庭に水が溜まっていたのだ。
音は溜まった雨水が波打つ音だった。
溜まった雨水はもう少しで、床下の通風孔に侵入しようとしていた。
「もしかして、解体した時に見た床下の水溜りは、雨水だったのか」
そう想像するが、すぐ現実に戻った。
今は雨水を外に排出しないといけない。
雨水を桶で汲み、バケツに放り込む。
バケツが一杯になったら、道路の側溝に放り込んだ。
轟々と雨が降る。
雨水は一向に減らない。
今やめたら、床下浸水になり、家屋が損傷する。
雨が止むまで、作業を続けた。
 
後日、工務店に連絡し、雨水の排水処理工事を依頼した。
「見積額130万円」
もう、あんな体験はしたくなかったので、その金額で依頼した。
節約した100万円が消えた瞬間だった。
 
工事が始まり、柿の木がチェーンソウで伐採される。
遊んでいた柿の木が伐採された。
その木を見て、父とのやりとりを思い出し、考えた。
「父は『考えてごらん』ということで、想像力を育もうとしていたのかな」
 
「あの水溜りがなんで床下にあったのか、もっと想像力を働かせておけば。想像力を働かしていれば、100万円はまだ手元に残っていたかも」
 
100万円は手元から消えたが、父が残してくれたもの。
想像することの大切さ。
父へ。
この歳になって実感できたことに感謝しています。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事