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意図せぬ人との出会い

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大東亜 綾乃(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
コロナ下になって意図せぬ人との出会いがめっきり無くなった。
会社でも、プライベートでも、必要な人と必要な会話だけをして、気の知れた人との時間だけを過ごす。
この状態がどれだけ私にとって窮屈なのか、今まで考えたこともなかった。
 
「余白が足りない」
私の友人はそう言って、北海道でのワ―ケーションへ旅立った。
(ワ―ケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組合わせて作られた造語だそうだ)
私の友人と同じような違和感を持った人たちが1週間のときを北海道の自然の中で共に過ごし、自分の感覚(驚きや感動、同情や喜びなど)を取り戻そうというプログラムだったらしい。
1週間後に返ってきた彼女は、屈託のない笑顔で、身体からは新しことを始めたいというエネルギーが湧き出ていた。
 
東京の街に出ると多くの人が行きかうにも拘らず、誰も知らないし、誰も目を合わせようとしない。ちょっとした会話を楽しむ余裕が無くなったように感じる。
話しかけてくる人といえば、客引きや、ナンパ、街頭の署名活動くらいではないだろうか。
確かに自分の身の安全や幸せが一番大切だとも感じるし、コロナ下では人との接触に敏感にならざるを得ない。
それでも他人に対する配慮や興味は、人生で身の安全と同じくらい大切にしたいものだと思う。
 
こんなモヤモヤを感じているときに一冊の本と出合った。
上海フリータクシー 野望と幻想を乗せて走る「新中国」の旅
タクシーの中で会話をしてくれれば運賃無料という突飛な考えのタクシーで、中国の都市と地方を行き来し、時代の重要な転換点にある中国を見つめたドキュメンタリーのような書籍だった。
 
タクシーの中やその行先で展開されるランダムな出会いと、会話の流れ、場の雰囲気、社会情勢などの様々な要素が織成すその時限りのエピソードから得られる考察は、作られたシナリオにはない面白さがあった。
加えて、中国という身近で、互いに関心があるにも拘らず、なかなか分かり合えない国の内情に迫れるという部分にもページをめくる楽しさがあった。
全ての登場人物が、筆者(タクシーの運転手)又は偶々同乗した初対面の人の社会的背景を意識しながら、自分が持つ前知識と、相手の動作や発言の内容で自分にとって安全なのか、危険なのかを判断しつつも、自分の存在を表現するために会話を続ける。
 
社内で繰り広げられる会話は何かを得るための会話ではない。
利害関係は殆どないし、ビジネスの勧誘や交渉が始まるわけでもない。
ただ自分の国や自分の生い立ちと将来について感じていることを思いのままに話す場となっている。
この何も拘束されない場がどれだけ大事かと改めて感じた。
自分を着飾ることも、相手を煽てることもしなくていい。
議題も無ければ、発言しなければならないというルールもない。
ただその時に思ったことを話したい範囲で、自分のペースで話せばいいのだ。
この空間を私は心から羨ましいと感じた。
同時に、同じ中国を見ているはずの国民が、真逆の意見や夢を語る姿には驚きを感じ、中国の激しい変化を再確認した。
 
オンラインで会議をするようになって、目的が端的に伝えられるようになり、通常であれば移動時間となる会議と会議の間の15分ほどでもオンラインミーティングをサクッとこなせるようになった。
一対一でオンラインミーティングをすれば、相手の顔を画面越しに見ながら、資料も同時に共有して話を進められる為、以前より濃い時間を過ごすことができている。
それでも私は、上海タクシーの中で繰り広げられる意図せぬ人との出会いと会話が恋しい。
 
あなたは最近、家族や友人、同僚や隣人、社会の中で意図せぬ会話を楽しんでいますか。
そんな暇はないと一蹴されるかもしれないが、息苦しくなった時、最善の治療薬は意図せぬ会話をすることかもしれない。
何も生み出さなくてもいい。
相手に臆したり、相手と比較したり、自分にとって何かメリットはあるかと考えたり、訝ったりしなくていい。
そんな空間が今の私たちには必要だと感じる。
 
上海タクシーに乗ってくる顧客の中には、最初は運転手の筆者に対して懐疑的な方も多い。
共産党の監視がどこまで及んでいるか分からない、
腐敗が蔓延る中で、いつどこで騙されるか分からない、
誰が見方か敵か見当もつかない不確実な状況下では、人は用心深くなって当然だが、その場限りの利害関係の無い会話は、乗客を自由にし、雄弁に変身させてしまう。
誰しも自分の話を聴いてもらいたいと思っているし、自分に注目してほしいと思っている。
 
巷には如何に効率的に作業を行うか、生産性を上げるかの書籍や記事が溢れている。
一方で私たちの心や身体が本当に欲しているのは、余白であり、何もしない時間であり、意図せぬ人との出会いだと思う。
街に出て外の空気を吸うときは、少し顔を上げて周りを見渡してみてほしい。
道行く人とのその場限りの出会いに感謝し、ほっと一息付くだけで、気持ちが明るくなるかもしれない。
そして自分の中に余白を持つきっかけに「上海フリータクシー」を手に取ってみるのもありかもしれない。
 
参考文献
上海フリータクシー(2020)フランク・ラングフィット 白水社 上海フリータクシー – 白水社 (hakusuisha.co.jp)
 
 
 
 
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2021-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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