3189(サイヤク)に効くおまじない
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記事:高瀬 雄一郎(スピード・ライティング特講)
※この記事は実体験をもとにしたフィクションです。
電話番号、郵便番号、住所の番地にパスワード。私たちが日々生活する中には、覚えなければいけない数字の羅列がたくさんある。
私には、そういった数字の羅列を音で覚えるクセがある。いわゆる語呂合わせだ。
一般的な語呂合わせは、「1192(イイクニ)つくろう鎌倉幕府」や「電話は4126(ヨイフロ)」のように、その音に意味を持たせることが多い。でも私の場合は、とにかく音に変換できれば覚えられるので、そこに意味はないことがほとんどだ。昔住んでいた住所の郵便番号は「437-9201(シミナクツオイ)」だったし、携帯番号の下4ケタは「9373(クミナミ)」だ。
数年前、今住んでいる賃貸アパートに引っ越しをした。築30年以上と建物は少し古かったが、南向きで日あたりがよく、キッチンはピカピカの新品。スーパーとコンビニも近かったので、とても気に入って住むことを決めた。
ただ、1つだけ気になったことがある。そのアパートの番地が、3-1-89だったのだ。
不動産屋で契約をするときにはじめて住所を見ると、その番地を語呂で覚えようとする脳内回路が瞬時に作動した。
「3-1-89、サイヤク、災厄……」
普段は全く意味のない音を当てはめることがほとんどなのに、よりによって新居の契約という人生の節目に、このうえなく縁起の悪い言葉がスポッとはまってしまった。
すぐに私は、別の音をあてはめようと脳内で奮闘した。「ミイバク」「ミツイパーク」など色々試したが、ファーストインパクトが強すぎる「災厄」は、そのポジションを頑として譲ってくれなかった。
かといって、そんな理由で契約をやめるというのはバカげている。私は一抹の気持ち悪さを感じながらも、その部屋の契約書に印鑑を押した。
実際に住みはじめてみると、その部屋は当初の期待通り、快適に過ごすことができた。しかし、建物が古いこともあって、ちょこちょこ気になることもあった。
「内見のときには気づかなかったけど、リビングと寝室の間だけ梁がちょっと低いのか。いつか頭ぶつけそうだな」
3189……。
「なんかやたらと蚊が入ってくる家だな」
サイヤク……。
「エアコンの室外機、冬になるとめちゃくちゃうるさいじゃん」
災厄……。
どんな家でも、暮らしていれば不具合はつきものだ。なのでそれ自体はかまわない。しかしこの家の場合、その都度思い出してしまうのだ。契約のときに振り切ることができなかった語呂「3189(サイヤク)」を。
事あるごとにそれを思い出しているうちに、いつしか私は「3189の呪い」にかかってしまい、「この部屋選んだの失敗だったんじゃないかな」とまで考えるようになってしまった。
しばらくしたある日、我が家を新たな災厄が襲った。今度は、誰も入っていないのにトイレのドアの鍵がかかってしまったのだ。何度もドアノブをガチャガチャ動かしたが鍵は開くことなく、私はトイレに入れなくなってしまった。
そのとき私は、ちょうどトイレに行きたかった。これは、コンビニに行ってトイレを借りるしかないのだろうか。そしてこのままドアが開かなければ、しばらくはトイレに行きたくなる度にコンビニに行くのだろうか。そんなことのためにコンビニが近い物件を選んだ訳じゃないんだけどな……。きっとコンビニの店員さんの間では、「また来たあのトイレ野郎」と陰であだ名をつけられるだろう。
あぁ、3189……サイヤク……災厄……。
そのとき私は、このアパートの管理会社の電話番号が外の看板に書いてあったことを初めて思い出した。急いでそれを見にいき電話をすると、管理会社の方は「すぐに伺います」と言ってくれた後、本当に10分ぐらいで来てくれて、ドライバーでドアノブをいじり、鍵を開けてくれた。
今まで住んできたアパートでも、困ったときは管理会社に連絡するということはもちろんあったが、基本的に対応してくれるのは数日後で、こんなにすぐに来てくれるというのは初めてだった。トイレに行きたかった私にとってはまさに救世主だ。
ふと、もしこれで管理会社の電話番号の下4桁が「3751(ミンナコイ)」とか「4194(ヨイクラシ)」とかだったら奇跡的だなと思い、携帯電話の履歴を確認した。下4桁は「7917(ナクイナ)」。さすがにそんなよくできた話にはなっておらず、私は「何だそりゃ」と笑った。
しかしこの「ナクイナ」は、その後私にとって、3189の呪いから解き放ってくれるおまじないとなった。家で何か災厄があり、それが管理会社に電話するほどのことでない場合も、3189の呪いに飲みこまれそうになったら、頭のなかで「ナクイナ」と唱えながら対処するようになったのだ。
先日、我が家のドアの前には、生きているか死んでいるか分からないセミが3匹転がっていた。また災厄だ。しかし、今の私にはおまじないがある。「ナクイナ、ナクイナ」と唱えながら、セミたちをつまんで遠くに放り投げた。まだ生きていて暴れださないかビクビクしながら。
***
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