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「痛みを感じるワーク」はもう使わない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「コーチ」と名乗る仕事をするようになって間もない頃のことだ。中国語の発音練習に取り組んでいたお客様の中に、目標は明確なのに、なかなか自分の思うようには進んでいないお客様がいた。進まない原因は色々あった。例えば、練習する時間をとることができなかったり、落ち着いて取り組むための環境が整っていなかったりしたためだ。私はその状況を何とかしたいと思っていた。次のセッションでは、あるワークをしようと考え、私にしては珍しく言いにくいことを言う決意をしていた。でも今から思うと、もっと違う声のかけ方があったのではないかと、時々後悔に似た気持ちになることがある。
 
あるワークとは、「痛みを感じるワーク」だ。人が何か行動を起こす時、それらの行動は「快楽」または「痛み」によって引き起こされるという。例えば、ダイエットに取り組む時、「自分の理想とする体型を手に入れて、憧れのあのスーツを着れるようになりたい!」と思って始める場合もあれば、「将来病気になってしまわないように」と思って始める場合もある。
 
自分の設定した目標を達成した後の、充実感あふれる未来を想像してモチベーションを高めることもあるし、「このまま変わらずにいたら、将来どうなっているか?」を想像し、変わりたいと思って始めたのに変われなかった時の自分のふがいなさや、それによって起きるかも知れないリスクを想像することで、奮起を促すこともある。この変われなかった未来を感じるのが「痛みを感じるワーク」だ。
 
セッションの日、私は少し停滞気味のお客様に対して、今抱えている悩みや課題を紙に書き出してもらってから、書いた内容を聞いていった。
 
「どんな課題が出てきましたか?」
「まとまった時間がないと、なかなか発音の練習ができないってことですね」
「まとまった時間がとれないんですね。まとまった時間ってどれくらいの長さですか?」
「30分から1時間位かな。それ位は必要なのかなと思うんですが、なかなか……」
「お仕事で時間がとりにくいとかですか?」
「いえ、仕事というわけではないです。家だと落ち着いて発音練習ができないんです。周りに家族がいると、練習している姿を見られるのが恥ずかしくて」
「あぁ、そうなんですね」
 
そんなやりとりをひとしきり続けた後、私はいよいよ「痛みを感じるワーク」にとりかかった。
 
「今の状態を続けていった時に、2ヶ月後どうなっていると思います? その時どんな気持ちがしますか?」
 
お客様の表情が一瞬曇る。
「うーん、やっぱり辛いかな」
 
そこで私は意を決してこう言った。
「辛いですよね。でも今、練習している姿を見られるのが恥ずかしくて十分練習できないというのを乗り越えないと、このために費やしたお金も時間も無駄になってしまいますよ」
 
意を決して……と言ったが、本当は最初からそう言うつもりで臨んだセッションだった。なんだったら、自分としては「耳の痛いことを言ってあげた」位の気持ちでいた。
 
お客様は「わかりました」と言って、翌日から時間を決めて家でちゃんと練習してくれるようになった。その様子を見て、「ズバッと切り込んで良かった」と私は思っていた。
 
でも、今振り返ってみると、何となくいたたまれない思いがするのだ。あの時、お客様は沢山のお困りごとを話してくれたのに、私はあまりその部分に注意を払わなかった。「家族のいる場所で中国語の発音練習をする恥ずかしさを何とか克服してほしい」としか考えていなかった。「もし今だったらもっと違う対応をしただろうに」と思うのだ。
 
なぜかというと、同じようなことを私自身も言われたからだ。
「このままでいいですか?」と自分が言われる立場に立ってみると、それはひどく辛い問いだった。
 
その辛さは「分かっているのにできていない自分のふがいなさに対する辛さ」というよりは、「私のことを信じてもらえていないのかもしれない」という、何か突き放されたような、何となく安心できない関係性を感じたことへの辛さだった。「このままでいいですか?」という問いには、「このままだったら達成できないですよ」という意味が含まれる。つまり、そこには「そう言わないとこの人はできない」という前提があるように感じたのだ。
 
「コーチは相手以上に相手のことを信じろ」と学んできた。相手を信じているから厳しい言葉をかけることができるとも言えるのだが、私は自分が言われてみて初めて、その「このままだったらできない」という前提がどうしても心に引っかかって仕方がなかった。
 
「このままでいい」なんて思っているわけがない。敢えて聞かなくても、それは本人が一番よく知っているのだ。それでも、「分かっているけどできない」時もあるし、「分かっているけど、今は他に優先することがあってやらない選択をしている」ということもある。さらには、本人も気づいていないけれど、実は「その目標は達成したくない」という心理が働いている時もある。
 
だから、「できない自分」であれ、「やらない自分」であれ、「やりたくない自分」であっても、そんな自分をそのまま受け止めてもらえたら、どんなにか安心したことだろう。そのうえで、本当はどうしたいのかを再確認していたら、「これならできるかも」というものが出てきたかもしれない。でも、結果がなかなか出ないことに対して、「このままでいいですか?」と言われて以来、何となくモチベーションが落ち、奮起できない自分がいた。
 
ひるがえって、あの時「痛みを感じるワーク」をした私は、100%相手を受け止め、信じる気持ちがあっただろうか? コーチングの手法だけにとらわれて、目の前のお客様が本当に解決したいことを見逃していたのではないかと思った。
 
それで、当時のセッションの録画をもう一度見てみた。お客様は色々な悩みを私に教えてくれていた。もし、ひとつひとつの悩みに丁寧に向き合っていたら、解決のための選択肢は色々出てきたに違いない。でも当時の私は、その悩みの背景にあるものを探し出しにいこうとはしていなかった。
 
「どうしたらやってくれるだろうか」
それしか頭になかったように思う。自分の思う形に相手を変えようと思っていた。
 
だからお客様は解決のヒントになるような悩みを沢山話してくれているのに、私はただ表面上の言葉をとらえ、時折「こうすればいいですよ」とアドバイスするだけだった。そして満を持したかのように「痛みを感じるワーク」を始め、「恐れ」をモチベーションのカンフル剤にして、やるかやらないかの選択を迫ったのだ。幸いお客様は「やる選択」をしてくれたけれど、私が「やらせた」と言えなくもない。
 
録画を見ながら、「もっと質問をすればよかった」と思った。「このままでいった2ヶ月後と今の課題を乗り越えていった先の2ヶ月後とどっちがいいですか?」なんて、愚問というか脅迫だ。
 
そうではなくて、例えば「練習している姿を見られるのが恥ずかしい」と言われたのなら、その気持ちを理解したうえで、「どうして恥ずかしいと思うのか?」とか、「恥ずかしいって、もう少し具体的に言うと?」等というように、聞いてみることだってできたはずだ。そのうえで、「できることがあるとすれば何があるか?」を考えてみたら、何か答えが出たかもしれない。
 
「音がよく似ている単語があるじゃないですか。それの聞き分けが難しいです」
「あと、何度やっても注意される発音があるんですが、たまに、今の発音いいですって言われます。でも、自分で何かを変えた意識がないので、いいって言われても分からないんです」等と、ものすごく具体的な課題を話してくれたのだから、そこから更に実際の状況を一緒に確認していったなら、お客様本人が「進歩するためには、やっぱり発音練習をして、フィードバックを受けることが必要だな」と気づくきっかけがあったかもしれない。
 
それが「モチベーション」になり、そういう積み重ねが「信頼」に繋がっていくのだろう。
 
だから、そんな積み重ねがない状況での「痛みを感じるワーク」は劇薬みたいなものだと私は思うのだ。それよりは、今できていないことの奥底にある理由を洗い出して、別の見方ができないか? とか、今よりほんの少し前に進むために何ができるか? というところに注力したい。
 
例えば、私は今目標体重を決めてダイエットに取り組んでいるが、なかなか思うようには体重が減らない。理由は色々あるけれども、その内のひとつに週末の外食がある。これをやめれば効果が出そうなことは分かっている。でも、やめられないのだ。なぜなら、時間が欲しいからだ。やらなければならないことや、やりたいことが沢山あって、せめて週末くらいは夕飯づくりから解放されたいと思っている。
 
そんな私に、自分だったらどう向き合うだろう?
 
そう思いながら、私は自分の現状と、なぜその選択をしているのかを書き出しながら自問自答してみた。以前の私だったら、すぐさま「何とか外食は週1回に減らせないかな?」といきなり提案したり、それこそ「このままだったら体重も体型も今のままだぞ! おまけに成人病のリスクが高まるよ。それでもいいの?」と自分を責めて、奮い立たそうとしたかもしれない。
 
でも、週末に料理をしたくないと思う理由をさらに深掘りしてみた。そして、「時間が欲しい」という理由についても、本当に外食で時間が節約できているのかどうか、検証してみた。すると、「今日はどこに何を食べに行こうか?」と迷っている時間、外食先と家との往復時間、料理が出てくるまでの時間等々を足していくと、かかる時間だけみれば、家で食事を作るのと大して変わらないのが分かった。むしろ、家にいた方が「ながら作業」ができて効率いいかもしれないということも発見してしまった。すると後は気分的なものなので、「仕事が入っている週末は外食。そうでなければ家で食べる」というようなマイルールを作れば、今よりは一歩進めそうではないか。
 
そんな些細なことでも、自分で気づいて、自分で選択し、自分で決めれば行動できる。歩みは遅いかもしれない。でも「自分で気づいて、自分で決める」というのが大事なのだ。だから私は、ただ手法だからというだけで「痛みを感じるワーク」を使うことは二度としないと決めた。そうではなく、気づきのきっかけを作り、あとは100%信頼して応援に徹する、そんな存在でありたいと思う。
 
 
 
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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