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Sound Horizonで考える音楽鑑賞のやり方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村人F(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
現代ほど、音楽を聴く環境に恵まれている時代はないかもしれない。
Spotifyなどのサブスクサービスを用いれば、月1000円足らずで数千万曲を聴き放題である。
それどころか多くのアーティストが無料で曲を公開している。
1曲聴くために1000円以上のCDを買っていた昔を思い出すと凄い状況になったなあと感じる。
 
その一方で、失ってしまったと感じることもある。
1曲にかける思い入れだ。
なんせ選択肢が大量にあるから、どれか1つに絞って聴き込むということは、よほど気に入らないとできない。
そのうえ通勤途中やゲーム中など、ながらで聴く場面が多いから、曲に対する意識も希薄になっているように感じる。
時々、こういう自分の姿勢が悲しくなることがある。
 
しかし、私は幸運かもしれない。
Sound Horizon。
かれこれ10年くらい追っかけをしているアーティスト。
彼らの曲を聴くことに、音楽鑑賞の醍醐味が詰まっている。
その確信を持っているからだ。
 
 
 
Sound Horizon(以下サンホラと示す)は、あの人気アニメ「進撃の巨人」のOP「紅蓮の弓矢」を歌ったRevoさんがリーダーを務めるグループだ。
彼らの音楽の特徴を一言で表すと、複雑だと表現できる。
ミュージカルのように語りが入ってくる上に、曲調もアルバムごとにギリシャ風やら日本の雅楽と全く別物になっている。
そのためファンも、どんな音楽かを説明するときに困惑してしまうのが悩みのタネだ。
 
歌詞が読めないのも、大きな特徴だ。
中二病が好む難読漢字は当たり前であり、どんな発想で思いついたのかわからない当て字もしてくるし、時には絵で表現することもある。
自身を「幻想楽団」と称するだけあって、他に類を見ない独特な楽曲を提供しているグループとなっている。
 
そして、彼らの音楽にハマる私たちの聴き方も、それに見合う熱量となっている。
10分くらいの曲だろうが、歌詞の暗記は大前提。
その上で元ネタになったグリム童話やら日本神話といった知識を仕入れ、歌詞の中に込められた様々な企みを解読し、考察していくことが嗜みになっている。
SNSではいつも解釈の仕方で大激論が起こっている。
ここまで1曲で熱く語れるアーティストは存在しないのではないだろうか。
 
しかし、この聴き方を考えてみて思うのだ。
正しい音楽鑑賞とは、曲の全てを解読するつもりで聴くことなのでは無いかと。
楽曲の中に作者が込めた、様々な思いを必死に読み取る姿勢こそが重要なのではないかと。
 
なぜなら、この状態で聴くときの満足度は他の比にならないからだ。
なんせ集中力がぜんぜん違うのである。
曲の中にあるどんな小ネタも逃さないよう、極限まで耳に意識を向けて聴くことになる。
そして歌詞が示している謎を解き明かすため、辞書や歴史書などで多くの背景知識を調べていくのだ。
そうした努力の末に、1つの解釈を導く。
この快感にこそ、音楽鑑賞を心から楽しんだ満足感があるのではないかと思うのだ。
 
きっとSNSで議論が白熱するのも、こうした思いによるのだろう。
あまりにも複雑だからこそ、どれだけ考察を行っても導き出す結論は人によって異なってくる。
だから、それぞれの導き出した答えを見るだけでも楽しめるのだ。
こういう音楽談義ができることも、曲を聴いた満足感を高めてくれる要因である。
 
そして、こういう過程を踏むことでこそ、音楽鑑賞を心から楽しむことができるのではないかと思うのだ。
 
しかし私はサンホラ以外の楽曲に対して、このような聴き方をすることはほとんどない。
多くの場合はウォークマンのシャッフル再生で、通勤時間や作業中のBGMとして聞き流す程度である。
正直、かなり雑に音楽を聴いているように思う。
そのときの曲に対する意識は、半分もないかもしれない。
 
だが、私がおざなりに聴いている楽曲も、街で流れる意識を向けていない音楽も、全てプロの技が込められているのである。
コード進行や歌詞の1つ1つにも、多くの企みが盛り込まれているのだ。
作者の人生で感じた様々な思いが込められているのだ。
そうしたものを凝縮して作られた楽曲には、私たちの想像を遥かに超える要素が込められているのである。
 
それなのに、私の聴き方はなんと失礼なのだろうか。
ながらで聴くことが多いということは、単独で聞けるほどの価値がないと考えている証拠である。
それどころか、コンビニ弁当よりも安い300円程度のお金を出すことすら渋っている。
もはや無料でないと聴く気が無くなってしまう状況に陥っている。
 
そしてこの状況は、アーティストに対する尊敬心にも大きな影響を与えている。
無料だから聴いているような作品に対して、どれほど深いリスペクトを込めることができるのだろうか。
そんなものは雀の涙ほどしかないだろう。
 
そしてこの感情の絶対値の少なさが、感受性の乏しさを生んでいるように思う。
人生の中で感動する場面がほとんどなく、日々が無味乾燥に感じる。
こういった不幸な状況は、雑すぎる音楽との向き合い方に原因があるのではないだろうか。
 
だからこそ、私はサンホラの音楽を求めるのかもしれない。
彼らの曲に向き合うとき、心から真剣勝負を挑んでいるからだ。
姿勢は正座であり、使用するヘッドホンもプロが使っている高級品。
そのうえ鑑賞を阻害するあらゆる要素を除外して、フルスロットルで聴き込むことができる環境で再生ボタンを押す。
極限まで意識を引き締めた状況で作品と対峙してきたからこそ、私はサンホラの音楽を10年以上聴き続けているのかもしれない。
 
そしてこの姿勢は、他のアーティストの曲に対しても応用可能なのだ。
米津玄師の「Lemon」の匂いは、どんな深い悲しみを帯びているのだろうか。
Official髭男dismが叫ぶ「グッバイ」の裏には、どれほどの愛と未練を込めているのだろうか。
そういったことを真剣に考察する意識があれば、曲から得られる情報量は無限大だ。
 
そしてこれらは、アーティストに対するリスペクトを育てることにも繋がっている。
乃木坂やジャニーズなどの曲も、大人数で踊って映えるように振付師、作曲家が神経をすり減らして作っているのだと思いを巡らすことができる。
アニソンに対しても、原作への愛をどれだけ込めているのか、みんなが口ずさみたくなるようにどれだけ言葉を工夫しているのか。
そういったプロの企みを読み解く中で、彼らの凄まじさを実感することができるだろう。
これに気づけたのは、真剣にサンホラと向き合ったからだ。
 
そして、この過程を経ることで得られる恩恵はとても大きい。
歌詞の表現に意識を向ければ、普段の言葉遣いも同じくらい研ぎ澄ますことができるようになる。
また、作品に込められた企みを解読することは、自身の読解力を鍛える教材にもなる。
ここで身についた能力は、ビジネスなど多くの場面で応用力を持つだろう。
 
なにより、1曲に対して深い思い入れを持つことができるのだ。
きっとこの意識で聴いたものこそが、人生で最も影響を与えた1曲に挙げたくなる作品ではないかと思う。
そしてそういった経験をすることこそが、音楽鑑賞を行う意味ではないかと考えるのである。
 
 
 
このような運命的な曲との出会いをするには、どうすればいいのだろうか。
これを考えると、普段の曲の聴き方の意識を変えることがやはり重要だと思うのだ。
部屋の中で目をつむって聴いてみるなど、1曲に対して全集中を向けるという癖をつけることが、その第一歩となるのだろう。
 
そして、お金を支払うということも結構な恩恵をもたらしてくれる。
多くの場合、作品に対する愛情と払った金額は比例関係にある。
100円のコーラと、1本1000円のぶどうジュースを比べれば、ぶどうジュースの方を真剣に味わおうとするのは当然のことだ。
そのため、無料で聴いていたような楽曲に対してでも、300円程度払うだけで結構な集中力を得ることができる。
 
この威力を1番感じることができるのはライブである。
なんせ、そのアーティストの生の曲を聴くためだけに数千円も払うのだ。
しかも周りには自分と同じように愛する人々がたくさんいる。
そのときにするインプットほど、感動的なものはない。
 
こういった体験を積み重ねていくことが、作品を鑑賞する心を育てるのに繋がるのである。
一度でもこの経験ができれば、楽曲への愛し方を2ランクは向上させることができるだろう。
この状況で向き合う人生は、まさに旅と言っていい輝かしさを持つはずだ。
 
その旅路の中に、サンホラを加えていただけないだろうか。
彼らの楽曲はサブスクリプションサービスでも聴くことができる。
しかし、その内容はこれまで聴いたことがない新鮮な響きをもたらしてくれるはずなのだ。
 
私を沼に引きずり込んだ、女の狂おしい愛を歌った「StarDust」
日本の雅楽とロックバンドがセッションを繰り広げる斬新すぎる構成の「狼欒(ろうらん)神社」
大塚明夫や若本規夫など豪華声優陣のナレーションが堪能できる「Roman」
 
彼らが奏でる組曲は、音楽に込めたプロの思いをこれ以上無いほどに教えてくれるであろう。
その物語は、音楽を鑑賞する醍醐味を凝縮したものである。
この地平線の先に見える世界は、今より確実にカラフルなものとなるはずだ。
 
そしてこうした楽曲と触れ合い、育てた心こそが人生を楽しくしてくれる相棒になる。
1度でもその華やかさを知れば、読み解く姿勢ができる。
そうすれば、難解な作品でも必死に解読してやろうというモチベーションが生まれるのだ。
この過程で育てた感受性は、あらゆる場面でプラスに働くのである。
 
そのような音楽鑑賞を、一緒にしていきたい。
真剣に向き合い、製作者を尊敬し、そして同じ曲を愛する人々と語り合う。
この経験は、人生を唯一無二の物語にしてくれるはずだから。
 
 
 
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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