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ちゃのま保育園の給食が美味しい理由 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
数年前、スカイツリーが見下ろす街で小さな保育園を開園した。
 
きっかけは当時2歳と1歳の自分の子ども達が保育園に入れなかったことだった。子どもを預けて働きたい。そんな簡単な願いも叶わぬ程、当時の待機児童問題は深刻な社会問題となっていた。
 
「保育園落ちた日本死ね!!!」
 
子育て世代の悲痛な叫びを代弁したかのような匿名ブログの題目が話題になった頃だった。
 
「自分の子ども達が保育園に入れないのは行政が悪い」
 
私も行政の文句ばかり言っていた。
 
しかし、ウジウジと行政の文句ばかり言っている自分に嫌気が差し、自分が安心して子どもを預けられる保育園をつくったのだ。
 
0歳児3名、1歳児6名、2歳児10名。定員19名の小さな保育園。
 
保護者だけでなく、地域に愛される保育園にしたい。実家にあった「茶の間」みたいな保育園をつくりたいという思いから、その小さな保育園を『ちゃのま保育園』と名付けた。
 
行政などかの補助のない無認可保育園からスタートし、開園時の園児数は自分の子ども達2人を含め園児5名だった。
 
当然、順風満帆ではない。
 
保育士との葛藤に始まり、赤字が毎月累積していく毎日に疲弊するばかりだった。暗中模索・五里霧中とは正に今、この現状の事を言うのだと思ったことを覚えている。
 
保育士資格も無く、保育の「ホ」の字も知らない保育の素人の私が園長だったのだ。当然といえば、当然の結果である。
 
そんな開園当初、近くの無認可保育園に赤ちゃんを預けていた0歳児のお子さんを持つ働くお母さんが見学に訪れた。
 
開園にあたり、私は他園との差別化を図るため様々な保育内容を考えていた。
育脳あそびやオリジナルリトミック、保護者の負担をできるだけ軽減するための手ぶらで登園システムetc.……。
 
また、デザイン性も高く、白を基調とした明るくカラフルな園内も自信満々に案内した。
 
きっと、そのお母さんはウチの保育園を気に入ってくれるに違いない。私は、そう思った。
 
しかし、そのお母さんが重要視したポイントは全く違うポイントだった。
 
「手作りごはんなんですね」
 
家庭のキッチン程しかない狭い調理室を案内している途中で、そのお母さんはそう言って泣き出してしまった。
 
園内のキッチンで手作りする給食が嬉しいと。
 
よくよく話を聞くと、今通っている無認可保育園では中華料理屋さんから配送されるお弁当が給食代わりだという。離乳食の対応もなく、初めの頃は頑張って出勤前につくった離乳食を持たしていた。しかし、今では忙しさに負けて市販の離乳食を持たせている自分を「ダメな母親だ」と、責めてしまっていたというのだ。
 
私達の保育園では開園当初から専門の宅食業者と提携し献立付き食材セットを毎日届けてもらい、調理師さんが園内のキッチンで手作りしていた。お昼前になると野菜を切る音や煮物を煮る音が狭い園内に聞こえだし、鰹節と昆布で取るお出汁の良い匂いが園内に漂う。
 
それが良いと言って、そのお母さんは泣いたのだ。
 
そう、そのお母さんが保育園に求めていたのは私が一生懸命考えた保育プログラムでも園内デザインでも無かった。そのお母さんが保育園に求めていたもの、それは手作りごはんだったのだ。
 
認可保育園では当たり前のように提供される手作りごはん。
それがこんなに喜ばれるなんて……。自分の当たり前は他人の当たり前ではない。頭では解っていたつもりだった……。
 
私はこの出来事をキッカケに保育園では何があっても手作りごはんを提供しよう。美味しい給食が食べられる保育園にしようと決めた。
 
それから2年後……。
 
チームビルディングの研修も定期的に行い、自分たちで考え実践する文化が保育園にだんだんと根付いていった頃。
 
栄養士の資格を持つ保育士さんを筆頭に保育士さん達の怒りが、契約している宅食業者に対して線香花火のようにスパークした。
 
人参が干からびているので取り替えてください。
鶏ミンチが冷凍焼けしているので取り替えてください。
 
初めはチリチリと燃えるだけの細やかな不満だった。しかし、一向に改善される気配のない宅食業者の対応に火花が飛び散りだした。
 
配達される食材の質がどんどん悪くなってきている。
メニューも毎回同じで子どもが飽きてしまう。
同じ食材をつかっても、もっと子どもが喜ぶメニューが作れるはずだ。
 
開園当初は手作りごはんを出すことで満足していた保育士さん達が、より良い給食を求め出したのだ。
 
保育士は本当に子どもが大好きだ。
 
極端な話、保育園の給食が美味しくなっても保育士さん達の給与が上がるわけではない。それでも、子ども達には美味しい給食を食べて欲しい。美味しいって言って欲しい! そう思うのだ。
 
開園当初、私は保育士という職業に対するリスペクトが足りなかった。子育てしているし、保育ぐらい私もできるでしょ。そう思っていたのだ。まぁ、結果は言わずもがなである。
 
自分の給料が上がるわけでもないことに怒る。子ども達のために、本気で怒る。それが、保育士さんなのである。
 
特に、栄養士資格を持つ保育士の怒りは大きかった。
 
「こんなに小さい萎びた人参が入っていたんですよ!」
 
彼女は私の目の前に、親指と中指で3cmほどの隙間をつくった指を突き出した。
 
「信じられません!」
 
彼女はプリプリ怒っていた。しかしながら、私の肩程にしか届かない小柄な彼女が怒る様は小学生の女の子ようでどこか憎めなかった。
 
「そうだね。それはダメだね。業者さんに連絡して交換してもらおうね」
 
どうみても私より5つ程年下にしか見えないが、実年齢は私の5つ年上の彼女に私は応えた。
 
保育士さんは本当に若い。
 
「今回は園長が近くの八百屋さんに買いに走ってくれましたが、こんな人参を届けるなんて許せません」
 
彼女の怒りはまだまだ収まらなかった。
 
「メニューも毎回、同じ内容のものばかりです! 同じ食材でもレシピや切り方を変えるだけで子どもの食べが全然違うのに!」
 
止まらい彼女の話を聞きながら、ふと、思った。
 
あれ? 先月の会議でも同じような話を聞いたような気がするな……。
 
会議で宅配業者のやる気のない対応が議題に挙がる度。私は、その度に、解決策を思案し対応を指示していた。例えば、他の宅食業者の選定や宅食業者の本社への問い合わせを指示し解決の糸口を探っていた。
 
あれ? もしかして……。
 
「もしかして、宅食業者辞めたい?」
「はい。辞めたいです」
「えっ、でも辞めたら現場はもっと大変になるで」
「私、がんばります」
「いや、頑張るっていうか……。オリジナル給食作るってこと? めっちゃ大変やで? 保育やって、献立つくって、買い物を自分たちで行くって」
「でも、やってみたいです」
 
私はやっと気付いた。宅食業者を辞めたかったのだ。
そして、オリジナル給食作りたかったのだ。
 
もっとハッキリ言ってくれないと、私、気付かないよ……。
ハッキリ言ってくれたら解りやすいのに……。
私は心の中でモヤモヤする気持ちを呪文のように唱えた。
 
今までは食材は宅食業者が前の日に届けてくれていたため、保育園の人員を割いて買い物に行く必要がなかった。また、献立も毎月、宅食業者に所属する管理栄養士が作成し調理レシピと共に届くので調理師はレシピに沿って作成するだけで良かった。
 
それを全部、自分たちでやる。今まで以上に現場が大変になることは明らかだった。
 
まぁ、でも、やりたいと言うなら私は頑張らねばならない。
 
もう、その頃には「代表は自分たちのやりたいことに対して絶対にNOとは言わない」という文化が根付いていたので期待を裏切るわけにはいかなかったのだ。
 
私は、まず小さな保育園の給食についてコンサルをお願いできる管理栄養士を探した。
 
“家庭の味”を再現出来て、“食”を大切にしている管理栄養士。
狭いキッチンでも無理なく調理出来る献立や離乳食と連動させた献立を考えられる管理栄養士。
子どもの発育に精通し、保育士さんたちと協力してオリジナル給食を作成出来るチーム力がある管理栄養士。
栄養素としてのバランスはもちろん、美味しさ、食べることの喜び、豊かな時間など、給食をとおして子どもたちに「食べる」ことの楽しさを教えてくれる管理栄養士。
 
私は様々なツテを頼りに、そんな管理栄養士を見つけ出した。
 
その管理栄養士さんと栄養士資格を持つ保育士、調理師さんを中心に給食会議を繰り返し、1年かけてオリジナル給食が出来上がった。コンサル料は150万円。当時はお金がなく、開発スタートを1年間遅らせ、四苦八苦しながら1年かけてお金を貯めた。
 
しかし、その甲斐あって、出来上がったオリジナル給食は素晴らしいものだった。
 
和食を中心とした、一汁三菜果物付きの献立。もちろん、お出汁は鰹と昆布から園内でひくし、カレーはルーから手作りだ。お米は蛍が飛び交う綺麗な水と豊かな土で育った奈良の神武米を取り寄せているし、小麦粉も岐の自然豊かな風土の中で採れた香ばしく、味わいの良い小麦粉を取り寄せている。
 
果物は時期による価格変動が激しく、毎日の給食に付けるにはコストがかかるのだが、保育士さん達たっての希望で果物を必ず給食に付けている。
 
「子どもって、嫌いな食材が出ても果物を目標に頑張って1口でも食べてみよう! って思ったりするのよ」
 
最年長の保育士さんが給食会議で力説した成果だ。
 
そして、献立は1ヶ月に2回、同じメニューがでる2週サイクルメニューを採用した。
 
小さな子は食べたことのないものや、一度、食べて嫌だった食材を嫌がる子が多い。しかし、同じメニューを1ヶ月に2回繰り返すことで、1回目では食べることができなかったメニューが、2回目では一口食べることができたりする。食べられた! という達成感や、食べてみたら意外と美味しい! という喜びを1回でも多く感じて欲しいと保育士さん達は言う。
 
もちろん、離乳食は個々の発育状況や月齢に合わせての個別対応だ。1人1人のペースに合わせて、離乳食を手作りする。
 
味覚や嗅覚だけでなく、視覚にも訴えかけ「食べたい!」という意欲を引き出す工夫も献立には散りばめられている。盛り方を工夫したり、色彩を鮮やかにすることにも余念がない。
 
おやつも当然手作りだ。
 
保育園という性質上、仕事の関係でお迎えが遅くなってしまう保護者もいる。また、仕事をして子どもを迎えて帰宅して夕飯の準備をしているとどうしても夕飯の時間が遅くなってしまう家庭もある。
 
だから、ちゃのま保育園では基本的にお腹に貯まる「おにぎり」がおやつにでることが多い。だから、少しばかりお迎えや夕飯が遅くなっても大丈夫。
 
また、おやつといえば、甘さ控えめのふわふわ蒸しパンはお替りコールが鳴り止まない大人気おやつである。
 
作り手も自信があるようで、初めて調理師さんから蒸しパンを保護者会で保護者の皆さんにも食べてもらいたいと給食会議で意見が挙がった。
 
「こんなに美味しいもの食べてるんですね」
 
保護者の評判は頗るよく、保護者会での蒸しパンの試食は定例になった。
 
「いっぱい食べてくれると嬉しいです」
 
調理師さんは言う。小さな保育園では調理師さんと子どもの距離も近い。自分がつくったものを目の前で美味しそうに食べる子ども達をみると嬉しくて仕方がないようだ。
 
味覚、嗅覚だけでなく、挑戦力や咀嚼力も身につけて欲しいと給食には様々な工夫を凝らしている。そして、その工夫には終わりがない。
 
1年間のコンサルティング契約終了後も、月に2回給食会議は保育士さんと調理師さん達で行われ給食は日々進化している。
 
残食が多い献立を変更したり、食べが悪い献立の切り方や味付けを変えたりして日々試行錯誤の毎日だ。
 
宅食業者に憤慨していた彼女も、忙しい忙しいと言いながら月に2回の給食会議には必ず出席し、調理師さん達と給食の試作を繰り返している。
 
先日は、牛乳アレルギーの子どもがいるので牛乳以外からカルシウムが取れるようにとオリジナルふりかけを開発していた。
 
「やっぱり、パセリをいれると大人は良いですけど子どもは嫌がりますね」
「まぁ、どっちも美味しいよ」
「代表(私)、ちゃんと味見してください」
 
私は気の利いた返事が出来ず、相変わらず彼女に怒られてばかりいる。
 
 
 
「食べることが好きな子になって欲しい」
 
保育士さんと調理師さんは声を揃えていう。私はその様子を見て、食べることは心を育てることだと思う。
 
マグロの解体ショーや大きな農園はないけれど、私達の保育園には日々の子ども達のごはんを真剣に考える保育士さんと調理師さん達がいる。
 
子どもが大好きで仕方がない保育士さんと調理師さん達。
 
そんな保育士さんと調理師さん達がいる保育園の給食が美味しくないだろうか?
 
 
 
 
***
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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