記念日サプライズに憧れて 〜ある男の失敗談〜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:武田 健人(ライティング・ライブ東京会場)
「どこへ行くかはお楽しみ」というデートを企画したことがあるだろうか?
私はある。
彼女との1周年記念、2周年記念に。
しかし、2回とも華々しく散った。
世の中の紳士の皆さんが、同じ過ちを起こさないように、
私の失敗談を捧げたいと思う。
何を失敗したのか、想像しながら読み進めてほしい。
いつのことだったか「ミステリーツアーデート」というものを知った。
何かの映画で見たのかもしれない。
主人公は、行き先を告げずに彼女をデートに連れて行く。彼女は終始ドキドキしているが、男はスマートに彼女をエスコートする。そして目的地につくと、彼女がひどく感動して目をキラキラ輝かせる。「こんな素敵なサプライズをありがとう!」男は笑みを浮かべる。
かっこええ。
いつか彼女ができた日に挑戦しようと、心に決めた。
そして時は流れ、彼女ができ、目標を実現するチャンスが訪れた。
2020年9月7日。
彼女と付き合った1周年記念である。
この特別な日に、ふさわしい場所はどこだろうか?
彼女は普段はラフな格好を好むし、ブランド志向ではない。
でも時々オシャレをして、ラクジュアリーな空間にも出掛けたいタイプだった。
そんな彼女が喜ぶのは何だろう?
そうだ……特別な日だし、クルーズディナーはどうだろうか? googleで検索すると、東京湾で何社かのプランがヒットしたので、航路や食事のコースの内容を吟味した。
レインボーブリッジの下を通るなんて素敵だな。値段は張るけど窓際の席は確保しよう。記念日だから、特別に花束も用意してもらおうか。明るい彼女に合うのは、オレンジと黄色の花束だな。
さっそく彼女に、記念日のミステリーツアーデートについて伝えた。
「どこに行くのか内緒なの!? 何それ、楽しいね!」
予想通りの反応にホクホクした。
こうなると、完璧に成功させたい。
よし、事前調査に行こう。
当日アタフタするわけにはいかない。
スマートにエスコートするのが紳士なのだ。
僕は、記念日の1週間前の土日に、現地の視察に向かった。メトロの出口や、クルーズの受付までの道を実際に歩く。入り口が分かりづらくて、事前に来て良かったと心から思った。
帰り道で薬局に寄り、酔い止めも買った。僕は乗り物酔いをほとんど経験したことがない。一方、彼女は乗り物が得意じゃないと言っていたから、用心するにこしたことはない。
そうして当日。オシャレをして出掛けた。彼女は目的地を当てようとしてくる。僕は正解が出ないように祈りながら歩く。その時間が楽しかった。
そして現地に到着。「えっ、クルーズ!? 私、初めて! ありがとう」 彼女は喜んでくれた。僕は笑みを返しながら「念のためにね」と言って酔い止めも手渡した。確約した窓際の席に着く。フレンチ用の綺麗な食器が並んでいる。
完璧だった。ここまでは。
出港した。レインボーブリッジが見え始めたところで、前菜が運ばれてくる。
そこで異変に気づいた。なんだか……揺れが激しくないか?
体が浮いたり、沈んだりするのを感じた。
嫌な予感がして、おそるおそる彼女の方を見た。
彼女の顔がみるみる青くなっていく。
「……気持ち悪い」
Oh my god.
クルーズがこんなに揺れるとは思わなかった。
事前に調べたが「思ったより揺れなかった」という記事ばかりだったのに。
酔い止めも虚しく、効果は薄かったようだ。
揺れの少ないエリアもあって、そこでは甲板に出て2人で写真を撮って楽しめた。帰り道、彼女は酔ったことを悪そうにしながらも、楽しかったことを強調してくれた。何ていい彼女だろう。その姿を見て、次こそは成功させてみせると誓った。
そして、時はめぐり、
2021年9月、再チャレンジの機会の時が訪れた。
2周年記念である。
今回はコロナ禍が悪化したので、さらに難易度が高い。
感染対策がバッチリで、混んでいない場所で、ラクジュアリーな空間。
夜ご飯だけじゃつまらないし、何か体験もプラスしたいな……探し続けた結果、1つのプランが見つかった。高級ホテルの、スパトリートメントとアフタヌーンティーが体験できるプランである。よいではないか。
ジャグジーで身体を温めた後、高層階の絶景が見られるVIPルームで、2人でマッサージを受ける。その後にアフタヌーンティーを楽しむというプランだった。これぞ、非日常。
今回もミステリーツアーであることを彼女に告げた。昨年の話をしながら「次は乗り物じゃないよ」と笑い合った。彼女が服装を気にしていたので、Instagramでその場所を訪れている女性の写真を見せながら、雰囲気のイメージも伝えた。
今回こそ、ぬかりなし。
当日、彼女は素敵な秋色のワンピースを着ていた。化粧もいつもと少し違って、より華やかな印象だった。さあ行こうか。今度こそスマートに彼女をエスコートするのだ。
高級ホテルに着くと、彼女の顔がパッと明るくなった。「ここでご飯食べるの?」僕は心の中で「ご飯だけじゃないよ」と思いながら、「着くまでお楽しみ」と答えた。
そう、ここまでは良かったのだ。
スパに着いて、そこで今日のプランが彼女にも明かされた。「まずはバス・サウナで身体を温めていただき、その後トリートメントへ。そして、アフタヌーンティーにお連れします」
どう、このプラン? ニンマリしながら彼女の顔を見る。
「え、化粧直し持っていない、私……」
嬉しそうな顔と、困った顔が合体した、複雑な顔で彼女がこちらを見ていた。
ん? ケショウナオシ?
ああ、化粧直しね。
そうか。
んー、なるほど。
Oh my god.
彼女は、ハッとしたように、何かを隠そうとしながら笑顔を向けてくれている。何ということか……俺は2度目のミスを犯してしまったらしい。
その後の僕は、優雅にジャグジーで横たわりながらリラックス……というわけにはいかず、泡風呂につかりながら、サウナで目をつむりながら、1人で黙々と反省会を行った。
その後、彼女と合流してトリートメントを受けた。眠ってしまうほど気持ちよかったけど、記憶がなくなる訳ではない。アフターヌーンティーで化粧直しの件をひたすら謝った。
彼女は1年前の船酔いの時もそうだったように、爆笑しながら「でも、ありがとう。本当嬉しいよ」と言ってくれた。彼女のこの対応に、僕は今回も救われた。
2度の失敗を犯した僕は
気になって彼女に聞いてみた。
「サプライズと、行く場所が事前に分かっているの、どっちがいい?」
「うーん、サプライズじゃなくてもいいかな」
な、なんと。
彼女いわく、当日だけでなく、服装やメイクを考えたりするのも楽しいとのこと。
なるほど……俺は彼女のことを、思いやれていなかったことに気づいた。
自分の理想を押し付けたいだけのダメ男だったのだ。
ガクッと膝を落とす。
「じゃあ、次からは行く場所は伝えるね」
「えー、それも、つまらないな」
どっちやねん。
何か良い手はないのだろうか……、あっ
「行く場所は知らせておいて、当日サプライズは別にやるっていうのはどう?」
「それ、いいね! すごくいい!」
こうして、来年のプランは決まった。
次こそ、完璧である。僕は、ほっと胸を撫で下ろした。
でも同時に気付いた。
それって、サプライズじゃなくない?
***
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