メディアグランプリ

色が黒いから、いっそのことインド人になってしまおうと思った話

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村山葵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「土人、アフリカ人、インド人!」「プールに入ったら白くなるかもしれないね」
生粋の日本人なのに、他の子どもに比べてかなり浅黒い肌を持って生まれた私は、幼稚園でも小学校でも、毎日のようにそんな言葉を投げつけられた。
この肌の色を何度呪ったかわからない。
色黒だけど、負けず嫌いで、なんでも一番になりたい子どもだった。あるいはコンプレックスがばねになっていたのかもしれない。
ピアノに、バレエに、公文式。家は特別裕福というわけではなく、父親は一介のサラリーマンに過ぎなかったが、7人兄弟の末っ子であった父、6人兄弟の末っ子であった母は、「この子には自分たちのような思いをさせたくない」と、私の英才教育に躍起になった。
 
中学、高校になると、私の肌の色についてあからさまに言ってくる人は少なくなった。
「インド」という国が気になり出したのは、そのぐらいの頃だったと思う。
淡い色のかわいらしい服がしっくりこなくて、お人形のような美少女にはなれないことを知った高校生の私は、自分は日本や西洋のファッションよりも、逆にインド的なエキゾチックな雰囲気にしてみたら魅力的に見えるかもしれない、と夢を抱いた。
 
インド美人に憧れて、普通のお店には売っていないような、インドやアフリカ製のカラフルで個性的な服飾雑貨がぎっしり並んでいるエスニック雑貨店に毎週のように通うようになった。
見ているだけでも楽しかったし、高校生のおこづかいで買えるようなものもたくさんあったので、時々は買い物もした。
インドから来たものは、布でも紙でもなんでも、お香とスパイスとほこりが混じったような、日本にはない独特の香りがするのが不思議で、その香りがまた一層、まだ見ぬ異国への憧れを刺激した。
 
大学時代についに、インド渡航の機会を得た。友人と女二人で、北インドのデリーやヴァラナシを巡った。
念願のインドだったが、過酷な暑さや、インド名物の「詐欺師」や「物乞い」に取り巻かれ、旅がスムーズにいかず、友人と険悪になってしまった。
「もうインドなんか行くまい。インド人なんか大嫌いだ」
ずっと憧れていた人の嫌な面を見て幻滅するように、この旅をきっかけに、インドから気持ちが遠のいてしまった。
 
それから15年後。私は35歳になっていた。
運命はまたも、意外なところからやってきた。きっかけとなったのは「インド古典音楽」だった。
「シタール」や「タブラ」の音色を耳にしたことのある人は多いだろう。インド料理店やヨガ教室などでかかっている、いかにもインドらしい、神秘的かつ優雅なあの音色だ。
その音楽をやっている知り合いから、「今日、演奏会があるのだけど、伴奏をする人がいないので、弾いてくれないか?」と誘われたのだった。
「私でいいんですか?もちろん喜んでやります!」
幼少期から音楽のレッスンにいそしんできたことが、こんな時に役に立つなんて。
こうして私は、インドと再会をはたしたのだった。
 
それからほどなくして、私は再び、インドの大地を踏む機会に恵まれた。
ほこりと、スパイスの入り混じった、あの懐かしい香り。
けれども、かつて私と友人が物乞いの集団に取り囲まれたガンジス川の河原は、あっけないぐらいにきれいにコンクリート舗装され、まばゆいネオンサインに照らし出されていた。物乞いや詐欺師はほとんどいなくなっていた。
ホテルまでの道がわからなくなっても、グーグルマップで一発。ボロボロになった「地球の歩き方」を片手に、迷路のような路地をさまよっていたのが嘘のようだ。
国際SIMで、どこにいてもLINEやTwitterで日本の友達とやりとりできる。道ゆくインド人たちも皆、一様にスマートフォンを手にしている。あちらでもこちらでも、日本で聞くのと同じ着信音が鳴り響く。出会うインド人の顔も、心なしか日本人と同じように見えてくる。
なんだか冗談みたいで、ついニヤリとしてしまった。
地理的な距離の隔たりが、かぎりなく小さくなっている。遠い遠い神秘の国は、この20年の間で、ずいぶんと近くなった。
 
そんな矢先に起きた、コロナウイルスの世界的流行。
たくさんのインド人たちが命を落とした。私がインドでお世話になった音楽の先生も亡くなった。
私たちに何か少しでもできることはないか。
インドの音楽をたしなむ友人たちは、チャリティーイベントを企画し、たくさんの支援金を集め、インドに送金した。ありがたいことに、私にも「出演しないか」と声がかかり、先日、華やかな舞台でインドの古典音楽を少し、演奏させていただいた。
 
「インド」を合言葉に、みんなの気持ちが高まり、一つのムーブメントが起きている。
実際に行けないからこそ、募る想い。インターネットを通して、インドの人々のことを案じ続ける。
コロナは、私たちの生活や、思考や、常識感覚に大きな変化をもたらした。ストレスフルな自粛が続く中で、以前よりもっと、他者のことを気にかけ、尊重することをコロナは教えてくれたように思う。
 
日本人はその昔も「天竺」に憧れ、その文化や哲学を学ぼうとしてきたけれど、その頃からのDNAが続いているのだろうか。私を含め、一部の日本人にとって、インドは不思議な誘引力があるようだ。なぜだか気になって、求めずにはいられない。スパイスのきいたインドカレーをつい食べたくなるように。
 
またインドの大地のあの香りが嗅ぎたい。色とりどりの建物が乱立した、それでいて美しい街を見たい。そして、雑踏のざわめきや小鳥のさえずりに囲まれながら、インド音楽の勉強をもっとしたい。その気持ちを大切にあたためておこう。
再び会える、その日まで。
 
 
 
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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