メディアグランプリ

子どもが掘った落とし穴には落ちてください


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記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「よし、落とし穴をつくろう!」
 
息子がまだ小さかった頃。
公園で友だちと遊ぶたびに、目を輝かせて砂場に穴を堀っていました。
水道から水をくみ、砂を濡らして崩れにくくし、小さな手で掘り進めます。
ときおり、友だちと楽しそうに言葉を交わし、ケラケラと笑いながら。
 
そして完成すると、砂場のそばで見守る私にむけて
 
「ねえ、落ちて」
 
という熱い目線を送ってくるのです。
 
穴を掘っているすぐそばで見ている私が、どうして落とし穴の「罠」にだまされると思うのか、おかしくて仕方がありませんでした。
 
そのかわいさに、わざと引っ掛かったふりをして落ちてあげようかと思ってしまいます。
 
でも、かわいさだけで落とし穴に引っ掛かるほど、世の中は甘くはありません。
子どもは無邪気だなあ、などと思いながら笑顔で見守るだけで、私は一度も穴に落ちたことはありませんでした。
 
あれから7、8年が経ちました。
息子は中学生になり、私と目線の高さがほとんど変わらないほどに大きく育ちました。
親バカですが、とてもいい男に成長しました。
 
そんな今、私はとても後悔しています。
あの時、取り返しのつかない失敗をしてしまっていたのですから。
 
失敗に気づいたきっかけ。
それはつい先日、仕事場の書類棚を整理していたときのこと。
長い間放置していたファイルボックスの中に一冊の雑誌を見つけました。
 
岩波書店の『科学』2007年1月号。
 
冊子をめくると、今年4月に亡くなられたジャーナリストで評論家、「知の巨人」として著名な立花隆さんの対談記事が掲載されていました。
その記事で立花さんは、「わかる」といえる瞬間についてこう述べられていました。
 
「〈わかる〉がおこる瞬間というのは、突然違う次元の世界に自分が入ったときに、〈わかる〉」
 
ああ、たしかに!
 
私は思わず大きくうなずきました。
この一文を読んだ私は、まさに突然、違う次元の世界へと滑り落ちていったのでした。
 
その感覚は、不意に目の前にあらわれた落とし穴に落ちていくようなものでした。
思わず「ひゃぁー!」と声をあげてしまいそうなスリリングで、でも気持ち良い感覚。
 
たしかにこれが「わかる」瞬間の感覚だ!
不意におとずれた「わかる」瞬間の感覚をわかった瞬間でした。
 
そして、「わかる」というつかみどころのない感覚を「突然違う次元の世界に自分が入ったとき」という短いフレーズで、読者に伝えられる立花さんの文才に改めて感銘を受けました。
 
と同時に、悔やむ気持ちが湧き出てきたのです。
知の巨人がこの世を去られたことより、私にとってはもっと悔やまれること。
 
なぜあの時、息子が掘った落とし穴に落ちてあげなかったのか!
 
あの時、かわいい眼差しで「落ちて」と訴えてきたのは、私をだましたかったからではないのです。
いくら子どもだって、目の前で掘っている落とし穴に落ちるわけがないことぐらい、理解していたはずです。
 
それでも「ねえ、落ちて」と目線を送ってきた。
それはただ、私に何かをわかって欲しかったのかもしれないのです。
 
例えば、落とし穴の楽しさを。
掘る楽しさ。
友だちと話をする楽しさ。
そして、落ちる楽しさ。
そんな落とし穴の楽しさを、お父さんにもわかってほしい!
 
もしかしたら、私のためだったかもしれません。
子どもは、私たち大人よりもはるかに心豊かで、観察力に優れています。
ですから、無意識かもしれませんが、私の本質的な感覚を見抜いていたかもしれません。
 
『科学』の対談記事で、立花隆さんはこうも述べられています。
「すべての人が、自分の生活の中でそういう思いがけなくやってくる〈わかる〉瞬間を目指して生きている。それで、人間社会はここまできたのではないかな」
それはつまり、大人も子どもも、「落とし穴」に落ちたがっているということ。
 
「お父さんも落とし穴に落ちたいんだね!」
そう思いながら、父親のために小さな手で砂を掘っていたのかもしれません。
そして、落とし穴が完成すると、「さあ、できたよ! 落ちて!」とキラキラした眼差しを私にむけてきていたのかもしれないのです。
 
でも私は、落とし穴に落ちなかった。
 
だから、もう、わからないのです。
あの時、息子が私に何をわかって欲しいと思っていたのか。
いろいろ推察はできるかもしれません。
けれどもそれは、あの時の息子の気持ちを「わかった」ことにならないのです。
 
私はなんてもったいないことをしてしまったのでしょうか。
ただ、落とし穴に落ちるだけで良かったのに……
 
幼いお子さん、お孫さんがおられるみなさん。
もし、落とし穴をつくった子どもが「ねえ、落ちて」と期待の目をむけてきたら、どうか穴に落ちてください!
 
その瞬間、子どもたちの気持ちが「わかる」はずです。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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