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神様仏様は日本人の心の道標


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記事:辻恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「神様すいません、神聖な場所に犬を連れてきてしまいました」
朱色の鳥居が幾重にも連なるトンネルを抜けた。ガランガランとなる鈴の音と、間を置いた柏手が聞こえる。
自宅から歩いて数分にある伏見稲荷大社。コロナ以前は、全国からの参拝客に加え外国人の姿も多く、かなりの賑わいを見せていた。しかしこの所は参拝客はまばらで、地元民としてはゆったりと散歩ができてありがたい。
軽く頭を下げて二礼、そして犬のリードを持ったまま柏手して心の中で呟いた。
「いつもお見守り頂きありがとうございます」
 
神社の駐車場には、京都から遠く離れた地方ナンバーの車があった。
伏見稲荷大社といえば商売の神様。コロナ禍で、飲食店や自営業の店主は大変なのだろう。まさに神頼み。すがる思いで京都に来られたのかもしれない。
 
日本人は不思議なもので、お正月の初詣に神社を参拝する。結婚式は教会で、お葬式は仏式。ほとんどの日本人がこれといった宗教を持たず、さまざまな神様仏様に対して祈りを捧げる。
一神教であるキリスト教やイスラム教を信仰する海外の人から見れば、かなり不思議な感覚だろう。
 
母が亡くなった年の8月、私は京都の六道珍皇寺を訪れた。昔から、ここが現世と冥界の境目「六道の辻」と考えられ、亡くなった方が蘇ってくる場所と言われている。なんだかおどろおどろしい伝承に思うが、毎年お盆の時期には多くの人が訪れ、亡くなった人を偲び祈りを捧げている。
寺には亡くなった人を迎える「迎え鐘」があり、鐘をつく行列ができていた。私も列に並び少し遠慮気味に鐘をついてみた。寺中に響き渡る鐘の音は、重く静かにさえわたり、確かにあの世に届いているのではないかと感じられた。
「お母さん、久しぶりやね。私たちはこっちで何とか元気にしてるで」心の中で呟き、手を合わせ、高野槙を供えた。
 
お盆には「六道の辻」から帰ってきた霊を迎えるため自宅でも準備する。家の中をきれいにして、仏壇には「お精霊さんのお膳」というのを供える。仏壇用の小さな食器セットに、精進料理をきれいに盛り付け、仏壇側に向けて供えた。娘たちは「飯事みたいで楽しい」と一緒に手伝ってくれる。昔から習慣として行っていることで、違和感なく生活に溶け込んでいる我が家の行事である。
特にどこかの宗教を信心しているというわけではない。ただ、自宅には仏壇があり、お坊様にお経をあげて頂き、私達も数珠を手に一緒に手を合わせる。長いお経の「フレーズ」はもちろん覚えられず、なんとなく「南無阿弥陀仏」だけわかったので、一緒に唱えてみた。
 
私の趣味の一つが、寺社めぐりである。特に最近は、「西国三十三箇所巡り」にはまっている。関西にある三十三ヶ所の観音信仰の霊場を巡り、御朱印を専用の帳面に頂く。
 
御朱印というのは、もともと写経を行い寺に納めた証明として頂いていたものらしい。しかし、昨今は、趣向を凝らしたかわいい御朱印帳もあり、寺を訪れた記念として若い女性も集めている。言わば「スタンプラリー」のような感覚で、巡礼というよりは、観光に近い楽しみになっているようだ。私の寺社巡りも例にもれず、趣味の域を超えない楽しみの一つだ。
 
三十三箇所の寺は、京都を中心に近畿地方に点在しており、中には公共交通機関では行きにくい山の中にある。ドライブがてら出かけるのも楽しいが、ちょっとした山歩きに行くのも健康のため、一石二鳥。帰りにその地方の美味しいものを食べて帰るのもいい。また「この季節は長谷寺の牡丹を見にこう。6月には三室戸の紫陽花を見に行こう」と季節の花が咲き誇る時期に合わせて訪れるのも楽しい。
寺の方も、そうした私達の思いを知ってか、季節に応じた花を植え、趣向を凝らした景色で迎えてくれる。
 
もしかしたら、昔からそうだったのではないだろうか。「巡礼の旅」とはいうものの、人々の楽しみであり癒しであったのでは。普段の日常とは違う経験をし、美しい花を目で、地方の美味しいものを食べるスタンプラリーの旅。そして、寺にいる仏様に癒され、また元の日常生活に戻るのである。
 
一年を通して日本人は神社参りにお寺参りを欠かさない。季節の行事ごととして、神様仏様を短に感じている。それはある意味信仰心というよりは、生活の中に溶け込んだ習慣や楽しみであるように思う。大袈裟な言い方をすれば、日本文化の一つであり日本特有の考え方なのではないか。
 
日本は多神教の国家と言われている。全てのものに魂が宿り、神様仏様をすぐそばに感じながら生活している。そのおおらかな考え方で、キリスト教の宗教行事であるクリスマスやハロウィンでさえ受け入れ、日本風にアレンジしての文化として成り立たせているのだ。
 
「お米一粒にも神様が宿るから、残さずきれいに食べなさい」子どもの頃母から言われた。
悪いことはできない。神様が見てるから。
そして死んだ後、「六道の辻」では閻魔様が待っている。「嘘をついたら舌を抜かれる!」
 
神様仏様は、私たち日本人の心の道標となって一緒に暮らしているのだ。
 
 
 
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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