ダサかった僕が数学の力でオシャレを手に入れた話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:那須信寬(ライティング・ゼミ日曜コース)
「こちらはカットソーなどを合わせていただくのが良いですね」
いやいや、カットソーってなんだよ!
「こちらのシャツはインナーとしてもアウターとしても使えますよ」
ちょっと何言ってるかわかんない。
「こちらのパンツには、白のスニーカーを合わせるとヌケ感がでますね」
ヌケ感ってなんだよ! オシャレな奴らみんなで「感」とか使いやがって、意味わかんねーよ! ていうか、ズボンて言え〜!
服を買いに行くたびに、ファッションにまるで興味がなかった僕は、心の中でこのように叫んでいた。あくまで心の中だけである。実際にはただ、オシャレな店員さんの前でおどおどしているだけのダサい男である。
ところが最近
「あれ? かっこよくなった?」
「そのシャツ良いですね!」
「めっちゃおしゃれですね!」
こういう声をかけられるようになった。そういう声を聞くたびに、嬉しいという喜びよりも、辛かった経験とそれを克服するための努力が走馬灯のように蘇り、感慨深い気持ちになる。僕がそうなるまでには中学時代からの、辛くて苦しい壮大な20年の物語がある。
以前の僕は本当にダサかった。中学時代まで母親に服を買ってもらっていた。そして運の悪いことに我が母校には制服がなかった。
1年生まではまだ良かった。服に一切興味が無かった僕でも普通に生きていけた。
2年生になると様子が変わってきた。「これ、この前原宿で買ってきた服なんだよね〜」こんな会話が増えてきた。そして僕は残酷な中学生達に言われ始めた「その服、お母さんに買ってもらったの?」
なぜバレた! タグでも付いてるのか? パッと見でわかるの? 超能力?
少しずつ僕は服がダサいキャラとして定着していく。
3年生になると、周りがどんどんオシャレになっていった。僕は自分から「服とか興味ないし」という発言を繰り返して、自分を守ろうと必死だった。
3年の進路選択ではなぜか私服の高校を選んでしまったが、高校3年間は進学校だったこともあり、周りもわりと服に興味のない人たちが多かった。
大学生になったら周りはちゃんとおしゃれになっていた。
一応、オシャレな人たちに説明をしておくが、ダサい人間も他人を見てオシャレかそうじゃないかはわかる。「絵を見て、きれいかどうかはわかる。でも描けない」そんな感じだ。
周りからもちゃんとダサい扱いをされ、少しずつ傷ついていく。それでもちゃんと友達もできたし、楽しい大学生活を送っていた。女の子とも仲良くなり、好きな子ができた。デートに誘ったらオッケーしてくれて、遊びに行ったり飲みに行ったりした。
何回目かのデートのとき
「付き合ってください!」「ごめんなさい!」という大学生らしい失恋をして、友達を誘って朝までカラオケで騒ぎまくった。
そこまでなら、大学生らしい青春の1ページだった。
振られた子の友達とたまたま帰りが一緒になり僕の失恋話になった。「おしかったね〜 もうちょっとオシャレだったら付き合っても良かったって言ってたよ」
僕は、恥ずかしさと悔しさと怒りといろんな感情が入り混じり体が震えた。
これかよ。またオシャレかよ。なんで服ごときに人生翻弄されなきゃいけねーんだよ!
体が熱くなった。血が逆流しているように感じた。
こうなったら意地でもオシャレになってやる!
俺をバカにしてきた奴らをアッと言わせてやる。
そうして僕の
「オシャレへの挑戦! エピソード1」
が始まる。
今まで買ったことの無かったファッション雑誌を買いまくり、天下の「原宿」の服屋さんで服を買い漁った。バイトで貯めたお金はすっからかんだった。
次の日そうやって集めた洋服を身に纏い、颯爽と教室に入っていった。
「何その赤いジャンパー!めっちゃ目立つんだけど(笑)」
「赤いジャンパーに緑のスウェットとかクリスマスじゃん(笑)」
「ていうか何その変なパンツ? ポケット多くない? どこで売ってるの? 原宿? 原宿にこんなパンツ売ってるんだ(笑)」
それ以降、オシャレになろうと思えば思うほど、これまで以上にダサいと笑われる負のスパイラルが作り上げられていった。僕はファッション雑誌をビニールひもでしばり、原宿で買った服たちをゴミ袋に詰め込んだ。
僕みたいなセンスのない人間にはオシャレなんてできないんだ。オシャレになろうとするのはもうやめよう。僕はそう決めたんだ。
それから10年。僕はオシャレになることをやめ、なんとなく適当に服を買っていた。ただ、服を買うたびに「この服がダサいと言われませんように」と祈っていた。気づくと30歳を過ぎていた。
そんな生活を一生送るんだろうな〜とぼんやり思っていたとき、とあるネットの記事が目に入った。
「オシャレには方程式がある」
方程式? 数学の? 本当に?
オシャレからは逃げ続けていた僕だが、職業は数学教師。方程式とは20年間戦い続けてきた。方程式なら誰にも負けない!
ここから僕の
「オシャレへの挑戦! エピソード2」
が始まる。
まずは、オシャレの方程式的なことが書かれたネットの記事やブログなどを徹底的に読み漁った。それに関連した本も買い漁った。動画も見まくった。
そこから学んだことを一つ一つ丁寧に整理していった。そして僕は一つの方程式を見つけ出す。
きれいめ+カジュアル=オシャレ
これこそが、僕が見つけ出した、最強のファッション方程式である。ただし、式を見つけるだけでは意味がない。必要なのは証明だ。
僕は勇気を振り絞って、洋服を買いに行った。あまりの服の多さに一瞬たじろいだ。自分に言い聞かせる。「大丈夫、僕には方程式がある!」
ドキドキしながら、何度も試着した。方程式を信じて、自信を持って、上から下まで買い揃えた。
次の日、職場のみんなでBBQをした。そのときいろんな人から人生で初めて
「オシャレですね」
と言ってもらえた。
1番仲の良い友達からは「BBQにそんなオシャレしてくんなよ!」と言われ、水鉄砲で打たれまくった。
「やめろ! ふざけんな!」と叫びながら、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。びしょ濡れにしてくれて良かった。涙を隠してくれた。
それから服を買うのが楽しくなった。買った服を着て出かけるとウキウキした。
「こちらはカットソーなどを合わせていただくのが良いですね」
「そうですね。チェックシャツを合わせてもイケそうですね」
「こちらのシャツはインナーとしてもアウターとしても使えますよ」
「使いやすい生地ですね。サイズは迷うな〜」
「こちらのパンツには、白のスニーカーを合わせるとヌケ感がでますね」
「サンダルだとちょっと外しすぎですかね?」
ファッションが大好きになった僕は服を買いに行くたびに、店員さんとの会話を楽しめる男になった。
僕は「オシャレの方程式」という言葉に惹きつけられて、オシャレの勉強をした。勉強していく中で、重要だったのが一つの一つの学びをきちんと積み上げていく論理的思考力だ。これは僕が数学を学んでいくなかで身につけた力だ。ダサかった僕を救ってくれたのは数学で身につけた論理的思考力だった。
「数学なんて将来役に立たない」
とよく言われる。僕も正直、そう思っていた。今は堂々と言える。
「数学は役に立つ。特にセンスの無い人間にとっては最強の武器になる」
ファッションも数学も最高だ。
***
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