私は、選ばれない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:なべぞう(ライティング・ゼミ平日コース)
「どうして私じゃないの!?」
選ばれないのは、私の人生においてよくあることだが、今回ばかりは気が狂いそうになる。私の同期2人が、社内の若手個人賞を受賞したのだ。このとき、社内全体で私の同期は2人しかいなかったから、同期入社の3人中、私だけが選ばれなかったことになる。
人物評価になると、いつもこうなのだ。私以外の誰かが選ばれる。クラスで学級委員を選ぶとき、演劇部のオーディションで配役を決めるとき、就活の面接で採用者を選ぶとき……。学校の勉強と違って、点数が明確にわからないから、選ばれなかった私はモヤモヤした気持ちになってしまう。あの人は選ばれて、私は選ばれなかった。何がどう違うのか。この差は何なのか。私が人物的に劣っているということなのか。
私にとって些細なことならば、選ばれなくても、諦めはつく。今までも、悔しいけれど、諦めてきた。
だが、今回は違った。
私にとって仕事は、執着の対象であり、魂を込める対象である。システム開発の仕事は、私のやりたい仕事ではなかったが、そこに就職せざるを得なかった。だからなおさら、「だったら、この業界で成功したい」という気持ちが強かった。残業が増えて自分の時間が減ることも厭わなかった。お客様に貢献できれば、自分の時間が犠牲になっても、それでいい。常にお客様の立場に立って、システム開発を続けてきた。だから、あの賞が、本当に、本当に欲しかったのに。
なぜ、私だけが選ばれないのか。
会社に訊ねても、明確な答えは返ってこなかった。
悔しい、悔しい、悔しい。
気が狂いそうになって、精神安定剤を飲んだ。そのせいで足元がふらついて、足の小指を骨折した。骨折した瞬間はものすごく痛かったけれど、それでも悔しさは消えない。身体の一部に痛いところがあると、一瞬気がまぎれるけれど、欲しかったものが手に入らなかった悔しさは簡単には消えない。布団の上で、思いっきり泣いた。足の痛さなんてどうでもよかった。どうして私じゃないの!?
選ばれないなら、自分で自分を殴ってやりたくなる。握り拳を自分の身体に思い切り振りおろす。あざができるほど、全身を自分の拳で殴りつづける。湧き上がってくるこの強い感情は、選んでくれない他者への憎しみなのか、選ばれるように自分をよく見せられない自分へのいら立ちなのか。
選ばれないなら、会社辞めてやろうか。どこかここじゃないところへ、私は選ばれる世界へ。でも、ちょっと待って。私、どこにいても選ばれなかったじゃないか。学生時代も同じだった。私ではない誰かが選ばれる。ここから逃げて変わるのだろうか。
「お役に立てればそれでよし」
悩んでいるとき、私は本屋に立ち寄る癖がある。そこで見つけたある本に、こんなことが書いてあった。欲しかったものが手に入らなかったとき、あなたの役割はそれではなかったのであり、あなたにはきっと何か他の役割があるはずである。自分の思い描く役割ではなくても、他の何かで、世の中の、お役に立てればそれでよし、と思うようにしなさい。
そうか。悲しいけれど、そういうことなのか。まだモヤモヤしてしまうけれど、とりあえず、今の会社は続けてみようか。人から目立つような、人から称賛されるようなポジションは、私の役割ではなかったということなのだ。私は、長くこの会社を続けて、目立たなくても貢献していこう。
悔しさを胸の中にしまい込んで、どうにか日々の仕事をこなしていく。選ばれるのは、どうせ他の人だから、私は、人からの評価は気にせず仕事に没頭しよう。私の仕事はアプリケーション開発の仕事であり、計算処理のプログラムを組む仕事。それなりに難しい仕事だから、没頭しようと思えば、いくらでも没頭できる。お客様のために、自分がこの仕事でどう貢献できるか。どうやって今回の仕事をモノにして、次回以降の仕事につなげられる技術を習得できるか。計算処理を組む仕事は本当に地味で、なかなか気が付いてもらえないが、会社にとって意義のある仕事であり、きっとこれが私の役割なのだ。同期の中で私だけが選ばれなかったことを忘れられるくらいに、仕事そのものに熱中していった。
すると、奇跡が起こった。同期2人が受賞して悔しい思いをした翌年、同じ賞の受賞者として、今度は私が選ばれたのだ。難易度の高いシステム開発に取り組んだ姿勢が評価されての受賞だった。人生で初めての「私が選ばれる」という体験だ。それも、私がこの世で一番欲しかった賞。選ばれることに慣れていなくて、嬉しさよりも、「変な感じ」という感覚が先立った。
人から選ばれるのを諦めて、私は私の役割を、ひたすら担っていこうと決めた矢先である。諦めた瞬間、欲しかったものは手に入ったのだ。
この先の人生、これからも選ばれないことがあるかもしれない。それでも、自分の役割を探しながら、その場所に居続けたい。その中で、何らかの形で奇跡的に選んでもらえることがあるかもしれないし、選んでもらえなくても、その役割を自分が担うことに、きっと何らかの意味があるはずだから。
***
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