私と就活と、消しゴムのカス
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ねこぱすた(ライティング・ライブ東京会場)
半年以上かけた私の就職活動で最も印象に残っているのが、最終面接で言われたこの言葉だった。
「これは合否とは関係ありませんが…会社説明会で、消しゴムのカスをちゃんと拾って帰っていた姿を見て、ぜひあなたと働きたいと思いましたよ。」
対面でしか伝わらない“その人らしさ”って、やっぱりあると思う。
2020年4月、21卒の就活が解禁されるのとほぼ同時に、緊急事態宣言が発令された。
緊急事態宣言の結果、就活で何が大きく変わったかというと、ほとんどの会社が「zoom」で選考を行うようになった。
zoomで就活ができるようになって、確かにとても便利になった。わざわざ遠くの企業まで足を運ばなくても良くなったので、1日に何件か同時に面接の予定を入れることができた。
先輩いわく、zoomでの選考がなかったときには、午前10時から大手町の会社で面接を受けた後、午後2時から新宿のオフィスでグループディスカッションの選考を受けることもあったらしい。ギリギリ間に合わないこともないが、お昼ご飯を食べる時間はなく、ヘトヘトの状態で2社目の選考に挑んでいたようだ。
ところがzoomでの選考なら、10時から面接を受けたあと、ゆっくり面接の振り返りできる。その後、お昼の情報番組を見ながらご飯を食べても、2時からの選考までは余裕があるのだ。
自宅で就活できるなんて、本当に便利な時代だと思った。ところが、私はzoomでの就活がとても苦手だった。
グループワークではしゃべり始めてもいいタイミングが分からないし、面接ではzoom特有の空気に圧倒されてしまい、うまく話すことができなかった。
そして何より、家から一歩も出ないので、テンションが上がらない。もともと就活とは、その企業に足を踏み入れて、緊張しつつも「ここで働けたらいいな」なんて想いながら受けるから、面接での受け答えにも想いがこもるはずなのに、ちっとも「御社」に憧れることができない。
7月。周りの友達はみんな、すでに内定をもらっている。私だけがこの猛暑の中、リクルートスーツを身に纏っていた。早く、早くこの暑苦しいジャケットを脱いで、就活からも解放されたい。
8月。小さい会社ではあるが、対面での選考を再開してくれた企業があった。教育系の事業を進めている会社で、説明会の時から社長は就活生ひとりひとりに会社でやっている事業の意義を語ってくれた、風通しがよくて暖かい印象の会社だった。
就活はよく恋愛に例えられる。こちらが好意を持っていても相手から好意を持たれなければ内定には至らない。しかし、この企業はまさに私にとって「相性のいい会社」で、1次面接、2次面接と、とんとん拍子に選考が進み、気がつけば社長との最終面接になっていた。
この半年で一番の緊張。昨日まで何百回と見返した面接シート。
大丈夫、私こそが、この会社にふさわしいはず。
緊張しながら面接室に入り、椅子に腰掛けると社長の方から口を開いた。
「〇〇さん」
「はい」
「わざわざ今日はオフィスまで足を運んでくれてありがとう。面接の前に、これは合否とは関係ありませんが一つだけ伝えさせてください。最初の会社説明会で、消しゴムのカスをちゃんと拾って帰っていた姿を見て、ぜひあなたと働きたいと思いましたよ。うちに入社してもしなくても、その姿勢は忘れずに、ぜひ素敵な社会人になってくださいね」
その後、その社長から一体どんな質問をされたのかはあまり覚えていない。消しゴムのカスを拾って帰る、たったそれだけの行為を、ちゃんと見てもらえていたのが嬉しかった。
他の企業の人事からすれば、消しゴムのカスを拾って帰るなんて、合否に一切関係のない小さなことかもしれない。けれど、たったそれだけのことを、ちゃんと評価してくれた会社を、私はきっと忘れない。
2021年4月、私は社会人になった。
数年前はリクルートスーツを着ていた私も、「人事担当」として学生をみる立場になった。
頭のいい学校に通っている学生、留学経験のある学生、学生時代にインターンで売り上げを立てたことのある学生、「優秀」な学生は本当にたくさんいる。どの学生も魅力的だが、消しゴムのカスをちゃんと捨てて帰る学生や、元気な挨拶をしてくれる学生、椅子を整えて帰る学生など、誰にでもできる小さいことをちゃんとやっている学生以上に、魅力的な学生はいないと、私は思う。
マスクもつけず、対面で採用を行えるのは、いつになるだろうか。
zoomで簡単に済ませる就活ももちろん便利だが、対面で、学生の些細な言動を評価してあげられる就活が、私は恋しい。
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