メディアグランプリ

言霊の呪縛


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記事:もちだみお(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「あなたの取り柄は、素直なことだけ」
だけ、って、おい……。
今ならそう突っ込めるけど、幼少の頃には、それこそ素直に
「ああ、私って素直なだけが取り柄なんだ」と思っていた。
だって、その頃の世界の全てだった、母から言われた言葉だから。
 
だから私は、素直に母の言うことを聞いていたと思う。
兄は勉強が良くできて成績も良く、県内で一番優秀な公立高校から、いわゆる旧帝国大学の一つに入った。
それに引き換え、私は成績も悪く、私立大学の附属高校からそのままその私立大学に入った。
 
「お兄ちゃんは優秀だったのに、どうしてあんたは……」
「近所のキョウコちゃんは夜遅くまで勉強しているのに、なぜあんたは……」
「親戚のヒサコちゃんはピアノコンクールで入賞したらしいのに、なんであんたは……」
そうやって、優秀な周りの人たちと散々比べられて、私はどんどん自己肯定感を失っていった。
 
そして、よりどころとなったのが
「あなたの取り柄は素直なことだけ」の言葉である。
 
「うんうん。そうだね。私が悪いよね。みんなが正しいよね。お母さんが正義だよね。」
そう思っている限り、それ以上の攻撃はなかった。だから、私は、素直に従っていた。
 
そうしたら、恐ろしいことに、本当に人の言葉を素直に聞くようになった。
素直に聞く、というと、言葉がきれいすぎる。
人の言葉に疑いを持つ、という、自己防衛のための作業をしなくなってしまったのだ。そして、「ああ、そうなんだ」と、言葉通りに受け取り、言霊の呪いにかかるようになった。
 
中学生のころ、体重が増えてきた。この頃に体重が増えていくのは当たり前の成長過程だ。だが、心ない母の
「本当にデブだなぁ」という一言に、
「ああ、私はデブなんだ。痩せることはできないんだ」と思い、ずっとデブだと思い込んでいた。大人になるまで、ずっと。
今にして思えば、155cm50kgは、全然デブではない。でも、私がデブでないわけがない、痩せなきゃ! と思っていた。高校生の頃である。痩せなきゃ! と思うが、私が痩せられるわけがない、デブだもん、と、諦めてもいた。拗らせている。
 
母以外の呪いもあった。
「あなたはキャリアウーマンとして頑張ってください。私は可愛いお嫁さんになります」
と、これは高校卒業時の「サイン帳」に書かれた、同級生の一言である。
たくさんあった同級生たちからの一言のうち、なぜだか、この言葉に呪われてしまったのだ。
「そうか、私はキャリアウーマンにならないといけないんだ……」
そして私は、大学を卒業したあと、男女雇用機会均等法ができた初年度の総合職として、企業に入社したのである。親にレールを引かれる、とは良く聞くが、私は高校時代のさして仲が良かったわけでもない(だって、それを書いた人の名前を覚えていない)同級生にレールを引かれてしまったようだ。
 
入社して3年目に結婚したのだが、夫は私の勤務地から3つほど離れた県に住んでいた。私もそちらに引っ越すのだが、キャリアウーマンとしてキャリアを積まなくてはならないので、仕事を辞める、という選択肢は全くなかった。会社にお願いをして転勤をさせてもらい、仕事の内容が変わったものの、そのまま働き続けることができた。
 
そのうち、子どもが産まれた。そこでも辞めるという選択肢は全くなかったので、保育園を探すことになった。そこで出会った保育園が「子どもの自己肯定感を育む」ことをモットーにした保育園だったのだ。
 
「私なんて」と自己肯定感などほぼ無く、「素直な良い子」だった私は、自分の娘にも「素直な良い子」であることを望んでいた。だって、それ以外の子育てを知らないから。ここでいう「素直な良い子」は、もちろん母親である私にとって、である。
だが、そこの保育園はそんな子どもの成長を望んでいなかったのだ。
 
幼児にして、自分の嫌なことはきちんと「嫌」という。欲しいものはきちんと「欲しい」という。
驚いたのは、雨の日の外に散歩に行く時、足が濡れないようにビニール袋を靴下のようにして靴を履くのだが、その際子どもが先生に
「ビニール袋、貸してください」と言うと、
「きれいなまま返してくれるの? 返せないんだったら「貸して」ではなく「頂戴」と言うんだよ」と、言葉の使い方を訂正していたことだ。
なるほど、確かにな。それでこそ、自分の意思がちゃんと相手に伝わるんだ。
 
私はその保育園で、「あなたはあなたのままで最高」という娘の自己肯定感を育んでもらい、ついでに自分自身の自己肯定感も育み直してもらった。30歳にして、やっとだ。
 
30歳にしてやっと自己肯定感を持った私は、「私の取り柄は素直なことだけ」ではなく、キャリアウーマン以外の生き方をしてもいいことを知った。
 
そうなのだ。自己肯定感って、年齢を重ねてからでもきっかけさえあれば育むことができるのだ。自分はどういう人間なのか、本当は何が好きなのか、何をしたいと思っているのか、そのためには何をすれば良いのか、自分をきちんと見つめてみる。自分の棚卸しができれば、自分を俯瞰することができて、ダメではない自分が見つかる。そして、自分で自分のレールを引くことができるようになるのだ。自分を生きることができるようになるのだ。
 
そして、私は「母に対して素直な娘」ではなく、「自分に素直な娘」を育てることができ、そんな娘から「ママのような生き方がしたい」と言ってもらえるようになった。そう、言霊の呪縛から解放されたのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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