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すべてが灰色に見えた世界の中で〜国試受験生が適応障害になった話〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木亮介(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
2020年、僕は灰色の世界に入り込んでいた。
見るものも感じるものも、すべてが色彩を失っていた。
僕は何もできない身体と何も感じられない心を、ただ眺めることしかできなかった……
 
2020年の始まりは、心に虹がかかっていた。
僕は1月から1ヶ月間イギリスに留学していた。
一緒に留学した友だちと各地を観光して、初めて見るヨーロッパに心が踊った。
さらに留学先では、生涯かけてやりたいと思えるものも見つけた。
たくさんの思い出と、そして将来の夢も得られて、僕の心は七色に輝いていた。
 
2月に帰国すると、すぐにコロナ禍に巻き込まれた。
感染者が都内を中心に出始めていた頃だった。
ちょうど医学部5年生から6年生に上がるタイミングで、そろそろ6年生の2月に実施される医師国家試験に向けて勉強を本格的に始めなければならなかった。
真面目に勉強してこなかったツケもあって、勉強を始めてみると僕は暗記量の多さに辟易した。
 
4月に入ると、コロナの情勢はさらに悪化した。
海外では急激に感染者が増え、日本では緊急事態宣言が出され、社会全体が緊迫したムードになった。
各地の病院でクラスターが発生し、大学のキャンパスは閉鎖され、飲食店も営業自粛した。
社会全体も、自分の生活空間も、閉塞感が覆っていた。
それまで外出するのが好きで、勉強も娯楽も家の外で完結していた僕にとっては、1日のほとんどを家の中で過ごすのは苦痛で仕方なかった。
何より、キャンパスやサークルで友だちと気軽に会えないのは辛かった。
外出できず家にずっといる日々は、ただただ孤独だった。
勉強のやる気はかろうじて保っていたが、汲み出せない汚泥のような、ドロドロしたものが日に日に心の底に溜まっていった。
 
そんな生活を2ヶ月ほど続けたが、6月に入ると徐々に違和感を感じ始めた。
机に向かっても、勉強のやる気が全く起きなくなった。
教材を開いても、頭にまるで入ってこなくなった。
疲れてやる気が出ない、という感覚ではない。
やる気がある状態を、身体感覚として、全く思い出せなくなった。
今まで、こんな感覚は初めてだった。
心にぽっかりとした穴が空いたような、そんな虚しさがあった。
その感覚は全身に広がって、あっという間に僕を飲み込んだ。
 
しだいに精神だけでなく、身体にも変化が現れた。
朝に起きられなくなり、机に向かうことすらできない日が続いた。
頭も身体も泥のように重く、ベッドから抜け出せない日もあった。
楽しいとか、やる気とか、そんなキラキラした感情がどこか遠くに消えてしまった。
食べるか、寝るか、興味もない動画を漁る日々。
天井を見上げて虚しく1日が過ぎるのを待った。
この頃には国試はどうでもよくなり、この世のすべてに興味を失っていた。
 
気づいたときには1ヶ月半経っていた。
 
医師国家試験の受験生が1ヶ月半も全く勉強してないのは、ふつうに考えてかなりヤバイ。
明らかにおかしいことが起きていることは頭では分かっていた。
ただ不気味なほど焦りは感じていなかった。
そもそも何も感じられていないのだから。
目に映る景色も、何ら色彩を帯びていなかった。
霞がかかったように薄暗かった。
 
身も心も灰色の世界が覆っていた……
 
「適応障害です」
1週間分のやる気を振り絞って、7月末に精神科を受診したときに医師にそう言われた。
「ストレスによる気分の落ち込みがみられる病気です。鈴木さんの場合は、国試勉強のストレスに、コロナによる環境の変化が加わって、生じたものと思われます」
なるほどなあ、たしかに適応障害が起きやすい状況ではある。
「国試が終わるまでは抗うつ薬を試しましょうか?」
抗うつ薬を飲むのに若干の抵抗はあったが、なりふりかまっていられなかった。
 
数日後、医学部の信頼できる親友にだけ打ち明けた。
ここ1ヶ月全く勉強できていないこと…
精神科で適応障害と診断されたこと…
そしていま、辛いんだ、ということ……
相手も受験生なのに、ほんとによく話を聞いてくれた。
話を聞いてもらえるだけで、心は楽になった。
 
その頃はZoom勉強会なるものが流行っていた。
受験生の間で何人かのグループをつくって、Zoomで画面を見せ合いながら勉強するのである。
僕は親友やイギリス留学のメンバー、部活の同期と、Zoom勉強会を定期的にやるようになった。
僕の現状を打ち明けなかった人のほうが多かったけれど、それでも休憩中に話す他愛もない話が楽しく、気分が楽になった。
友だちと話せる時間だけは、心に潤いが戻る気がした。
そのときだけはモノクロの世界に、少しだけ色が灯っていた。
 
その後、抗うつ薬とZoom勉強会のおかげで、徐々に勉強できる時間も増えていった。
相変わらず心は低空飛行で、気分の落ち込みも数日に1回ガクンとやってきた。
けれど誰かを身近に感じられて、会話を交わすだけで、僕の心は助けられた。
人とのつながりが心のセーフティネットになり、僕をどん底に落ちないようにしてくれた。
 
最終的に国試にはなんとか合格し、晴れて医師になることができた。
国試が終わって1ヶ月後には抗うつ薬なしで意欲が保てる状態になり、精神科の医師から「もう通院しなくてもいいですよ」と言われた。
 
その後Zoom勉強会のメンバーには打ち明けた。
「実は6月頃から適応障害を患っていて、勉強会ではみんなの存在に救われていた。心の支えになっていた。ほんとにありがとう。」
言葉を震わせながらそう話す僕のことを、みんな温かく受け入れてくれた。
灰色だった世界には、すっかり色が戻っていた。
 
2020年。
新しく挑戦できたことは少なかった。
得られた経験も知識も少なかった。
ただ今まで培った人とのつながりを、心から大切に思えるようになった。
それだけで僕の2020年には意味があったと、今なら思う。
 
今年4月から社会人になり、職場では新たな人間関係も築き始めている。
総じて同期や上司にも恵まれており、幸いにも適応障害の症状は出ていない。
職場の同期と苦労話を語り合ったり、上司に仕事の奥深さを教えてもらったり、そんな新たな人とのつながりを感じる今もほんとに貴重だなあと思える。
 
色が戻った世界には、新たな色が描かれつつある……
 
 
 
 
***
 
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2021-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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