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メディアグランプリ

兄妹喧嘩

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田智彦(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
私にはひとつ下の妹がいる。小さい頃から、いつもケンカばかりしていた。そして、お互い無視するようになり、いつの間にか無視している意識もないぐらい無関心になっていた。
 
毎年、お正月になると必ず両親からは、今年こそ兄妹仲良くしてや、と言われてからお年玉をもらっていた。私は、絶対無理や、こいつは世界で一番憎い、と両親に答えていた。よくもまあ、こんな酷いことを言えたものだ。
 
でも、当時は本当に妹が、憎くて、憎くて仕方がなかった。中学生ぐらいから、妹とは全く話すことはなくなった。外ですれ違っても、知らいない人のような感覚でスルーしていた。
 
ひとつだけ、忘れられないケンカの思い出がある。このことだけは、今も鮮明に覚えている。
まだ音楽をカセットテープで聴いていた時の話だ。私は、当時流行っている歌をカセットテープに録音して聴いていた。そのカセットテープを妹が貸してほしいと言ってきた。
 
妹が嫌いな私は、当然拒否した。「絶対おまえには貸さない」と。そして私は「私がいないときを見計らって、カセットテープを持ち出し、ダビングをするのではないか」と妹を疑った。想像しただけで腹が立ち、何とか阻止しなければ、と思った。
 
私は家にあった工具箱の中身を取り出し、代わりにカセットテープを入れた。そして押入れの奥の方に隠した。工具箱をチェーンでぐるぐる巻きにし、ダイヤル式の南京鍵をかけて。
 
それから数日経ち、事件は起きた。私はカセットテープが無事かどうか、押入れを開けて確認した。すると、何となくだがチェーンの巻き方と南京錠の位置が違っていた。次の瞬間、私は妹の部屋に駆け込んだ。そして妹に、感情的に大きな声で、おまえ勝手に俺のカセットテープ使ったな? と、大きな声で問い質した。妹は素直に認めた。
 
私は、ふざけんな、ボケ! なに勝手に人のもん使ってんねん、と言って、妹の二の腕を殴った。それだけでは気が治まらない。妹がダビングしたであろうカセットテープを見つけ出し、カセットからテープを思いっきり引き出し、千切った。妹は泣き崩れた。その姿を見て、私は気が済み、妹の部屋から出て行った。
 
 
こんなひどいことを、当時は平気でしていたので、相当嫌いで、憎んでいたことは間違いない。そして、私はこの仲の悪い関係を変えたいと思ったこともなかった。
 
しかし、私が大学を卒業し、社会人になってからふたりの関係に変化がおきた。私が神戸の実家を離れ、東京で一人暮らしすることになったのだ。実家に帰るのは年に1回になり、完全に妹の存在を感じることがなくなった。
 
そして、数年経つと不思議なことに、妹に対してマイナスの感情はなくなり、フラットな気持ちになっていた。なぜそうなったのかは自分でもわからない。たまに、妹から両親のことで電話が来るのだが、普通に話している自分がいる。実家にいた頃は、まともに話をしたことがないのに。離れて暮らすだけで、こんなに変わるものなのだろうか。
 
そして昨年、私たち兄弟にとって奇跡的なことが起きた。普通の兄妹なら、なんてことない話だが、私にとってはあり得ない出来事だった。その機会を作ってくれたのは、母だった。
妹から、お母さんが大腿骨を骨折して入院した、と連絡があり、私は見舞いに神戸に戻ることになった。
 
せっかく、行くのだから合わせて父の墓参りをしようと思った。父が亡くなって、何年も経つのにお墓に行ったのは1回しかなかったからだ。そのことを妹に伝えると、一緒にいく、と言ってきた。
 
私は、少し動揺した。父の墓は兵庫県丹波市にあり、神戸の実家からは車で片道2時間はかかる。墓参りをし、昼食を取るなどすると、最低でも6時間は2人だけで過ごすことになる。これまで、妹と顔を合わせてゆっくり話をしたことがないのだ。私は、一体何を話せばいいのか、見当がつかなかった。
 
そして当日、私の運転で妹と一緒に墓参りに向かった。どうなるのか不安だった。でも、運転し始めてすぐ、その不安は消え去った。私と妹は、今までの仲の悪さを取り戻すかのように、お互い話をしまくった。お互いの子供や仕事のこと、親せき、共通の知人の近況など、話は尽きなかった。
 
墓参りの後、昼食を取った。ふたりだけで外食をするのも初めてだった。食事をしながら、私は妹に、なんで昔はあんなに仲が悪かったんやろうね、と聞いた。すると妹はこう答えてた。「だってお兄ちゃん、心が狭かったもん。今でも忘れられないことがある。お兄ちゃんのカセットテープを……」なんと、妹もあのカセットテープ事件を鮮明に覚えていたのだ。話をしながら、ふたりで大笑いした。
 
帰りに、母の病院へ行き、父の墓と一緒にふたりで撮った写真を母に見せた。
母は嬉しそうに、写真を眺めていた。「今年こそは、兄妹仲良くしてな」そんな両親の願いをやっと叶えることができたように思えた。父もきっと喜んでいることだろう。
 
私には、息子と娘がいる。実はこの兄妹の仲が悪い。お兄ちゃんが妹をとても嫌っている。妹にひどいことを言ったり、無視をしたりしているのだ。ここ数年、家で2人が話をしているのを見たことがない。
 
ある時、娘がお兄ちゃんから、うざい、あっちに行け、と言われ落ち込んでいた。そんな娘に、この話をした。そして、大人になったらお父さん達と同じように仲良くなるからと大丈夫だよ、と言った。
 
すると娘からは、今、仲良くしたいんよ、遺伝のせいやん、と怒られた。確かに今だよね。娘よ、ごめん。でも、兄妹の仲の悪さは遺伝するのか?
 
 
 
 
***
 
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2021-10-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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