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メディアグランプリ

みかんが体を張って教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:若林麻由(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
言葉や文字の影響力がどれくらいあるのか、実際には目に見えない。
それをどうにか可視化する方法はないだろうか。
ある実験を試みることにした。
 
気持ちが高ぶると口が悪くなりがちな小3の娘とともに、夏休みの自由研究だ。
1年ほど前から、次の夏休みはこれをやろう、と人知れず温めてきた企画だ!
娘と、いざ! スーパーへ出陣!
 
今回、果物でやってみることは決めていた。
数ある果物の中、選手に抜擢したのは、みかん。
なるべく見た目も色味も同じ、大きさも同じものを選んだ。
それぞれのみかんを入れておく透明のケースも買った。
なぜみかんを選んだのかというと、単純に、結果が出るのが早そうだな、と思ったからだ。
 
家に帰ってから、娘が油性マジックで、ひとつに“ありがとう”と書き、もうひとつに“ばかやろう”と書いた。
毎日ケースを開けて、それぞれのみかんたちに、書いた言葉を話しかけ続けたあかつきにはどうなるか。
娘も私も、一日一回話しかけることをルールとした。
 
みかんたちよ、頼む!
私の望む結果を、忠実に出してくれ。
 
 
1週間目。
どこにでもある一般的なみかん。
ただ言うだけ。
そこには何の感情もない。
 
2週間目。
みかんたちは、買った時と何の変化もない。
毎日話しかけることをひたすら、続けた。
 
3週間目。
見た目の変化はまだ何もない。
ただ、ひとつ変わってきたことがある。
私自身の気持ち、だ。
無意識に、ちゃん付けしていることに気がついた。
 
「ありがとうちゃん〜今日の調子はどうかしら?」
「ばかやろうちゃんも元気にしてるね! えらいえらい」
……しまった。
愛情がわいてしまっている。
ばかやろうと思っていないのに言うのはけっこうツライ。
かといって、これは実験だ。何の罪もない君、許しておくれ。
 
4週間目。
どうしよう。
ばかやろうちゃんに、心からのばかやろうが言えない。
イラついてもいないのに罵声を、なんて、なんて難易度の高い課題なんだ。
思ってもないことを口にすることは、一度や二度なら容易なのかもしれないが、言い続けるのはなかなかハードルが高いことを知った。
イラついた心を込めるのは難しい。むしろ同情の気持ちが膨れ上がる。
渾身の秘策として、私史上最高に、音程の低い、ガラの悪い声で、言うようにした。
娘にも私の真似をして言うようにアドバイスした。
始めた当初は、4週間も経てば、結果が出るだろうと思っていたが、何の変化もない。
娘も淡々と続けてはいるが、とうとう、「これ、失敗じゃない? 何にも変わらなくない?」と言い出した。
「まさかこんなに時間がかかるとは思わなかったねー」
実験失敗、の4文字が頭をよぎった。
 
5週間目。
ここにきて初めて、ほんの少し変化が出てきた。
ばかやろうちゃんに少し元気がなくなってきた感じがする。
でも写真に写るほどの変化でもない。
もう、夏休みの自由研究にするのは諦めた。
それでも全然いい。
本当の目的はみかんたちからのメッセージを娘に受け取ってもらうことだから。
夏休みが終わろうとしている。
 
6週間目。
2学期が始まった。
明らかに、目に見えて分かる変化が出てきた。
ありがとうちゃんは、その美貌をキープし続けている。みずみずしくプリッとしていて、透明感も健在だ。人間の年齢に例えると推定25歳。
かたや、ばかやろうちゃんは、推定55歳。全体的にくすみ、表面が乾燥しているのがわかる。シワっぽく、そしてサイズもひとまわり小さくなった。
いきなりのこの変化に、キタ! この変化を待っていた! と嬉々とするところなはずなのだが、ばかやろうちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
勝手にレッテルを貼られた君が、もし感情を持ち合わせているとしたら、きっと私は目を合わせることができないだろう。
 
7週間目。
もうどこからどう見ても、孫とおばあちゃんのような差の開きが出た。
ばかやろうちゃん、推定75歳。深いシワとくすみ、さらにもうひとまわり小さくなった。
ばかやろうちゃんの年齢だけが駆け足で加速していく。
 
8週間目。
ばかやろうちゃんが、推定90歳になった。
人間に例えるなら、もうお肌の問題だけではない。腰がかなり曲がっている。
ありがとうちゃんは相変わらず、推定25歳のまま。
 
娘に、この変化についてどう思うか、聞いた。
 
「ヤバい」
 
だよね。
ヤバいわ、コレは。
たまたまだと思うのか、はたまた、言い続けた言葉の影響なのか。
 
私の個人的見解だが、
完全に、言葉の影響によるもの、だと思う。
そもそも、この実験をしようと思ったのも、そう信じてたからに他ならない。
そして、4週間目までなかなか結果が出なかったのは、毎日毎日意識を向けていたため、気にしているというプラスの波動が伝わったのではないか。
今日はどうしてるかな? どうなったかな? という意識の波動が、みかんたちに伝わったのではないか?
それでも蓄積された、“ばかやろう”という言葉の刃が、5週間目にして、表面に溢れて、目に見える形で現れてきたのではないか。
本気の罵声を浴び続けたならもっと早く、ばかやろうちゃんに変化があったのではないか。
 
もし、この仮説が実証されたら、と思うと、それこそ、ヤバイ。
でも、まだ、目の前の1例しかない。
娘が小学生のうちは、夏休みのたびに、この実験をやろうかな。
違う果物や野菜でも試してみたい。
 
みかんたちが全力で証明してくれたこの結果を胸に、言葉を大切に、使う言葉に責任を持って生きていきたい。
 
娘はというと、夏休み前と比べると、なんだか優しくなった。人の話をよく聞けるようになった。
この実験のことを担任の先生に報告してみるのはどうか、と提案してみたけれど、
「えーわざわざ言わんでいい」
と、そっけなさは健在だ。
それでも響いているものがあるんだな、と母として確信している。
 
選手のみかんたちは、実は、まだ家にいる。
これだけ尽力してくれたのに、燃えるゴミに出してしまうのは、なんだか罪悪感で、できない。
実験を終えて1ヶ月経った10月現在、実は、未だに30代ほどの美貌はキープしているありがとうちゃんだが、かと言って、食べるのも勇気がいる。
 
今度の休みの日に娘と、ありがとうちゃんとばかやろうちゃんを一緒に庭に埋めようかな。
そうだ! ばかやろうちゃんには、油性マジックでばかやろうを二重線で消して、ありがとうを書き足そう!
 
体を張って結果を出してくれた、ありがとうちゃん、ばかやろうちゃん、
言葉の大切さを教えてくれて、本当にありがとう!
 
 
 
 
***
 
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2021-10-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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