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テクマクマヤコン、テクマクマヤコン


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:miwa(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
『あの中に入ってみたい……』
 
いつからそう思い始めたのかは定かではないが、上京して知る珍種なバイトの存在。
 
ITもまだ普及していなかったので、数百円の求人誌を買って、隅々までへぇーと感嘆しながら探すのが好きだった。
 
恥ずかしがり屋な性分だけど、奇抜なおしゃれで自分を表現してみたり、田舎に居ては躊躇する行動も、人目の気にならない大都会では、いい塩梅に薄めてくれる。
 
その力を借りて、募集には書かれていないある求人を探して、イベント会社に片っ端から電話をかけてみた。
 
「すみません……着ぐるみバイトを探しているのですが、扱っておられますか?」
 
ハタチそこそこなので、おられますかなんて、綺麗な敬語さえ使えていなかったと思う。
恐れ入ります、なんて、思いつきもしなかった。
ただ、やってみたら絶対面白いだろうという謎の確信と、興味が溢れて止まらない様子
で熱弁をふるうので、不思議がる採用担当者にもその空気が伝播し、その人も面白がって採用してくれた。
 
スーパーで着ることになったのは、有名どころでも何でもなく、産み出したご本人と会社さましか馴染みのなさそうな(失礼極まりない)、今でいうご当地のお米のキャラクター。
関東地方でも、ほぼ見たことのないキャラクターで(さらに失礼)、見た目のゆるさとつけているマントから、男の子だと判明。
 
けど、そんなのどうだっていいのだ。
私が興味あるのは、中から見る外の世界、だったから。
 
当日渡された、真っ白な全身タイツ。
あの、コントでよく見る頭まであるやつ。
 
ほぉ~! 中はこんな具合になっていたのか! と、きっと、男性でも一生のうちに着る機会のない珍体験に、「女性には……」と心配していた男性採用者の声がよぎる。
 
誰もいない広い更衣室で、そのタイツを頭まで被り、胴体にあたる首までのモコモコ部分を上からストンッとはめ、ブルマ型の同じくモコモコした下半身を履く。
 
「えっ……ブルマって……」と思ったそこのあなた、心配はご無用。
履いた瞬間、あまりの非現実体験に、人は仕事スイッチに切り替わるのです。
 
8割がた着こなせた? 時点で、これまたモコモコのブーツとブカブカの手袋をはめて、頭を乗せたら一丁あがり!
 
自分の目のあたりにキャラクターの口元がきて、あいている穴から外をうかがっても、外からは見えづらい構造になっているが、なんせ鏡がないため、着こなせた姿は確認できぬまま、サポート係の年配女性に手を引かれて売り場へ。
 
1日の任務は、商品の前で赤ちゃんや子どもに風船を渡し、握手をして、バイバイする。
怖くて遠くから泣き出す子もいれば、ダッシュで抱きついてくる子、口元を不思議そうに凝視している子もいて、その反応は千差万別。
 
隣には、15分に1回ぐらいのペースで休憩を囁いてくれる、先ほどの女性がスタンバイ。
自慢のお米など……は、置いてはいなかった。
 
身にまとったキャラクターは、ニッコリを崩すことなく微笑み、外からは中の性別さえもわからず、そこに誰一人として興味がないのも笑えてくる。
そんな状況を俯瞰しながら、中から見えた外の世界は……
なんとも不思議で、それでいて超絶快感だった。
 
恥ずかしがり屋の身でも、中に居ると、見られているけど見られていない愉快な錯覚で、大胆になれた。
売り場の大きな鏡の前で、ちょっとおちゃらけてみたりして。
自分でも驚くほど別人になれた。
 
『これって、ブームが来たハロウィンの仮装や、コスプレイヤーになりたい動機と一緒なのかも!』
 
と、全身タイツを脱いで20年以上経って気がついた。
みんな、変身願望があるんだなぁ。うんうんわかるよ、今なら。
 
休憩など取らずに、ずっと入っていたい本音を隠しながら、子どもに見つからないよう屋上で頭を外して、いい景観だなぁ~と息をつく。
 
屋内のイベントなので、ありがたいことに暑くはないが、少し苦しくて胸元をはだけさせたりしながら、ボーッと周りを見渡して、ふと遠~くに焦点を合わせた時、風船を持って一部始終を見ていた4つの目が、マンションのベランダで固まっていた。
 
そう、彼らにとって、中に人は入っていない生き物だから……。
ごめん、兄妹よ……。
 
頭を持ってそぉ~っとその場を離れ、やるせない気持ちで売り場へ戻ると、今度は、無邪気に握手した手袋がスポッと取れて、子どももサポート役の女性も固まっていた。
 
あれから、そのキャラクターは見かけなくなり、ネットで検索しても出てこない。
 
着て別人になれるのは楽しくて仕方なかったが、そのイベント会社では出番が少なかったのか、私とのスケジュールが合わなかったのかはわからない。
結局、人生で経験した着ぐるみは、その子が最初で最後になった。
 
たったの2、3回の経験だったのに、産み出したご本人よりも愛着が湧きすぎて、それは今、私のメルアドになっている。
 
 
 
 
***
 
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