メディアグランプリ

目線問題まだ解決せず


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:竹本美沙子(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
コロナ禍の中、出張が自粛になり、会議や研修にオンラインが使わるようになった企業は多いのではないでしょうか?
私の働く会社も例外ではなく、絶賛オンライン活用中。
毎日、あちらこちらで、オンライン会議や研修が行われていた。
そんな中、ボスがポツリとつぶやいた。
 
「目線が気になる」
 
ボスは自分が話す時に、原稿を読んでいるのが、まるわかりなのを気にしていた。
読み原稿を覚えれば? という勇気あるツッコミをするスタッフはいない。
ついでに言えば、ボスが話す時は、ほぼ資料を共有しているので、どれぐらいの人が目線を気にしているかは分からない。
私は気にしたことがないが、そんなことは口には出さない。
 
私たちはボスの要望を解消するべく、パソコンの台を上げたり、下げたり、椅子の位置も含め色々試した。
けれど1週間経っても、ボスの目線問題が、残念ながら解消されることはなかった。
 
ランチを済ませて戻ったら、ボロボロの段ボールで入口がふさがっていた。
事務所の扉を、通り抜けることができなかったようだ。
 
やってきたものは、分かっている。
プロンプターだ。
 
説明しよう!
プロンプターとは、パソコンの原稿を液晶モニタなどに映し出して使用するもので、原稿を読むときにいわゆる「カメラ目線」を保てる
テレビのュースキャスターや首相がスピーチの際に使っている、画期的な機器である。
 
「ボスの要望を叶えるのに、これ以上のものはない」
加藤さんは、鼻息荒く、申請書を書いていた。
 
価格は10万円。
相場的に高いのか安いのかさえ、さっぱりわからない。
 
とにかく、届いたものをそのまま入口に放置しておくわけにもいかない。
私と加藤さん、吉川さんの3人がかりで、段ボールを開ける。
 
シルバーのジュラルミンケースが入っていた。
人がひとりは入れそうなぐらい大きい。
「マジックができそう」とのんきに考える。
 
ケースを開けた吉川さん、加藤さんが目線をかわす。
入っているのは分解された、まだ完成していない真っ黒なプロンプター。
吉川さんは、ケースの中をガシャガシャと探していたが、困った顔を上げた。
 
「説明書、入ってない」
「マジか!」
 
吉川さんの言葉に、恐る恐る聞いてみる。
 
「組み立てられそう?」
「やってみるしかない」
ボスは別の会議に出ている。
組み立てるなら、今しかない。
 
入っていた8本のネジをなくさないように、机の上に置き、念のためにセロテープで貼り付けた。
 
1つ1つのパーツが重い。
 
「はい、こっち持って」
「ここ、ネジ止めて」
 
3人いればなんとかの知恵。
私たちは、着実にプロンプターを組み立てていった。
 
「これは、組み立て直すのが大変だから、出しっぱなしの方がいいね」
小一時間の格闘の末、プロンプターはできあがった。
 
プロンプターは大きかった。
組み立てると80センチくらいあり、パソコンを置く台もちゃんとある。
 
「1回試してみようか?」
 
実際にプロンプターを使ったことがないので、どうやって映るのか見てみたかった。
これぐらいのご褒美は許されるだろう。
 
「そうやな、ボスにも使い方を伝えないと」
言い訳のように、私たちはプロンプターを使う理由を作り、パソコンを設置した。
組み立てを、遠巻きに見ていた他のスタッフも、興味深そうにしている。
新しいもの好きなのだ。
 
「ここからカメラを入れて、こっちに映る仕掛けなんやね」
「とりあえず、付けてみよう?」
「じゃあ、電源入れるね」
コンセントにプラグを差し込む。
 
プスンッ
 
小さな音がしたかと思ったら、プロンプターからモワンと煙が噴き出した。
 
「わっ!」
「ヤバイッ」
 
慌ててプラグを引き抜く。
臭い。
昔、理科の実験で匂った硫黄のような、なんとも言えない匂いが事務所に広がる。
 
「臭いぞ」
慌てて他のスタッフも、ワタワタと窓とドアを開ける。
 
「これが、プロンプター」
 
組み立てばかりのプロンプターが、一瞬にして、ただの置物に変わる。
使えないのは誰が見ても明らかだった。
 
仕入先に連絡を入れ、プロンプターは引き取って貰えることになった。
私たちは無言で分解しながら、動かなくなった残骸をジュラルミンケースに詰めた。
 
煙が出たのは、海外製品のため、電圧が違っていたことが原因だった。
「燃えなくてよかったね」
「プロンプターは、もう一回、別の探すわ」
「頑張って」
 
プロンプターの電源を入れたら、煙が出た。
こんなコントのような体験をするなんて、全く予想をしていなかった。
加藤さんは、まだプロンプターを探している。
ボスの目線問題を解決する日は、まだ少し先のようだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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