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子宮がない ~摘出手術体験記~


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記事:山口ななかまど(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
私には子宮がない。手術でまるごと取り去ってしまった。
子宮筋腫の巨大化がわかったとき、「悪性ではないが、より重篤な病気が筋腫の陰にでき、見つけられなくなるかもしれない。全部摘出したほうがいい」と医師に進言された。それが手術3か月前のこと。
 
これまで自分の身体に対し、何の悩みも無かったわけではない。しかし、「これで“健康ガチャ大当たり”と言わずして何と言える」と恵まれた身体に感謝していた。あとは家人に録音されるほどうるさいイビキが治まれば、人生上々ではないだろうか。
 
子宮への未練はなかった。もう二度と月経による出血が起こらないのは、ちょっと便利だなと思った。女性だけが持つ臓器・子宮を失った時、はたして私は生物学的にはメスのままなのだろうか。それとも……?
術前はのんきにもそんなことを考えていたが、状況が一変したのはその後だった。
 
腹腔鏡での手術を目指すことになった。既に1児を帝王切開で産んでいたので、「これ以上、切り傷を負わなくてすむのなら」と思っていたが、手術のためには注射と投薬で女性ホルモンを抑え、子宮筋腫を小さくする必要があるという。
もし思うように小さくならなければ、開腹手術で再びのハラキリ。それも止む無し、と納得していたが、まだこの時、私は女性ホルモンを抑えることの意味を理解していなかった。
 
女性ホルモンを低下させると何が起こるかというと、人工的に更年期障害の症状が発生する。ホットフラッシュ、吐き気、めまい。コロナ禍により在宅勤務をしていたので、昼休憩は毎日ソファで横たわっていた。緊張感のある業務が続くとぐったりしてしまう。手術の前段階でこんなに苦痛を味わうなんて思いもしなかった。まるでナメクジになってしまったようだと思った。更年期障害に効く漢方薬が手放せなくなっていた。
 
苦しんだ甲斐あってか、筋腫は順調にその姿を縮め、あっという間に入院日となった。前日にまったく仕事が終わらず、ほぼ貫徹の有様だったが、どうせ入院すればたくさん眠れるだろうと期待した。その午前中は子どもの運動会だったので、嵐のように入院荷物をトランクに押し込み、ふらふらの状態で保育園へ駆けつけた。
 
我が子は、練習を重ねた「はなかっぱ」の曲で高速ダンスを踊っていた。私はそれを眺めながら「子どもって一切を疑うことなく“今”を生きているんだなぁ」とぼんやり思い、少し泣いた。今は安心して踊っていてほしいし、子どもの明日と未来は、願わくは確かなものであってほしい。そのためにも私は無事に帰ってこないといけないな、と改めて思った。
うっかり泣き顔を保育士さんに見られたので、「お母さん、いってらっしゃい! 手術頑張ってね‼」と力強く鼓舞してもらい、また涙腺が弱まってしまった。
 
あまりにも入院準備がおざなりになった結果、最も重要な書類「手術同意書」を自宅に忘れる大ポカをかました。「明日9時の手術までに、絶対に絶対に、ぜーったいに、ご家族にお持ちいただいてくださいね! 絶対ですよ!」と病院から念押しされる。さらには、もう一切病院の敷地外に出られないとのことで、あらゆる嗜好品を摂取するタイミングを失った。このように、残念な感じで10日間の入院生活が始まった。
 
翌朝、手術当日。下剤地獄のさなか、家人が同意書とともに病院へ到着した。これで手術を受けることができる。ホッ。
 
いよいよ手術室へ。女性医師2名による執刀だった。
「あたしもねー、子宮全摘出してるのよ! こんなに元気! 大丈夫‼」
朝イチとは思えないハイテンションでメインの執刀医に話しかけられる。きっとそれなりに気遣ってくれていたのだろう。
「もうこの年になるとね、スーパーのビニール袋が開かないのよう! やんなっちゃう!」となぜか盛大に話題が変わり、私も「本当ですよねー!」とつられて声が大きくなった。このテンションの高さはどういうことだろうか。
 
「そういえば山口さん! 手術のBGMどうします? 麻酔が効くまでしか聴けないですけど、好きな曲をかけますよ‼」と、医師から尋ねられる。事前に説明があったような気もするが、完全に忘れていた。
「……先生のお任せでお願いします」
「えっ私の選曲? どうしよー、あーでも時間がなーい。あれよ、あれ! いつものあれでお願い!」
メインの執刀医が別室のスタッフに指示を出した。
 
麻酔が打たれ、記憶が薄れるまでの時間、手術室いっぱいに甘い男性の声で、英語の歌が流れた。ドリカムの「WINTER SONG」だ。でも一体なぜこの選曲……? なんかもっと、オルゴール系とかヒーリング系とか、普通は無難にそういう曲なのでは……?
最後まで、頭の中で疑問がぐるぐるしながらも、私は気を失った。
 
切なげな男性の熱唱(たぶん)に包まれながら、手術は無事に終わった。その後の丸1日間は断続的に襲われる痛みにもだえていたが、以降の回復を目にし、「臓器を切ったり取ったり繋げたり、まるで工事なのに、元の生活ができるようになるなんて、医療ってすごいなぁ。人体ってすごいなぁ」とじんわり感じていた。「健康に生き続けられること」は決して当たり前のことではない。奇跡だ。
 
退院後、たった一度だけ、既に赤ちゃんとはいえないほど成長した我が子を眺めながら、「もう1人ほしかったなぁ……」と、もう決して宿すことのない新しい命を想像した。胸がチリッとした。
その瞬間、「だから、あの時の手術の執刀医はあんなに明るく振舞ってくれたのか!」と、雷に打たれたように思った。どうして気が付かなかったのだろう。
優しい人たちだったな、と思い出して、すぐに私は元気を取り戻した。赤ちゃんの誕生も、やはり奇跡だ。たくさんの奇跡を生きる人たちに囲まれ、今日も私はいとおしい日常生活を送っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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