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お父さんとの約束

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記事:筒井佳代(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
父との約束は、とてもシンプルなものだった。最期だからと言って飾る言葉もなく、いや、最期だから飾る余裕がなかったのかもしれない。けれど、私の中ではそのシンプルすぎる父との約束が、とても大切であり、尚且つ、重い。
父は生前、とてもまじめな人だったと思う。私が知っているのは私が23歳までの父。父は私が23歳の時に他界した。ゆっくりと父と話をする時間などない、家にいる時間がほぼないほど落ち着きのない娘だった。
大人になった今、私は堂々と、『お父さんのことが大好きでファザコンと言われたらその通りだと思います』と、言い放つ。父が大好きだったことは間違いない。幼いころから父の休みの日には父が寝ている寝室に行き、父の布団に潜り込んで一緒に寝た。父が起きたら私も起きて、父と話をした。友達と約束の無い休日は、父の部屋で父との時間を楽しんだ。例えば、父の部屋には昔ながらのレコードプレーヤーがあり、父は良く自分の好きなクラシックやジャズを部屋で聴いていた。そこに乱入して私は、中森明菜を無理やり一緒に聴かせたり。運動不足を感じているときは父に運動したいアピールをして、父が声をかけてくれるのを待ち、そして父と二人で小学校の運動場でバスケをしたりもした。父に対する私なりのかまってアピールだったのだろう。そして、父のことが大好きだという非言語アピールでもあると今振り返って恥ずかしくなるが、そう思う。非言語アピールの極めつけは父が吸っていた煙草を眺めて、体に悪そうと言って父の目の前でそのたばこをぽきぽき折ったりもした。
父は商社の人で、平日はだいたい帰りが遅い。お酒に酔って帰ってくることが多く、私が寝た後に返ってくることがほとんどだった。 ある日そんな父が心配になり、心配がなぜか思わぬ方向に発展し、いたずらに走った。 玄関にろうそくを塗り、父が酔っ払って帰ってきたら、靴を抜いて玄関に足を踏み込んだとたんに滑ってこけることを想定して、酔っ払い防止の策を講じた。 見事に父は酔っ払って帰った日、私の策に引っかかり、こけかけた。よかった。本当にこけていたら、大事になっていたかもしれない。
そんな父との幼少期だったが、私は父のことを心の底から尊敬していた。前述の通り、父はまじめな人だった。象徴するのは、父が書く字。まるでハンコの様な字だった。お酒も、麻雀も、ゴルフも、全て仕事の為だったのだろうと、今は推測する。勿論楽しみ0ではないだろうけれど、仕事のために、時間を犠牲にして付き合いに応じていたのだと思う。そして、そこが心から尊敬するところの一部でもある。ただ、実直だったのだ。
そんな父がある日突然余命3か月の末期がんが発覚し、私たち家族に大きな衝撃が走ったことは言うまでもない。家族と相談し、あまりの出来事で父が現実を受け入れることが出来ると思えず、いや、私たち家族が現実を受け入れることが出来なかったのかもしれない。私たちは、父に病名を明かさないことにした。そして父は最期まで、自分の病気と闘った。父は自分の病状を疑い、自分の生命力を信じていた。仕事に復帰することを前提に前向きな姿勢で部下の方と接していた父の姿は忘れられない。実際、闘病の中、退院はもう無理と当初言われていたが病状が良くなったときに一時退院をして仕事に復帰した。そして父は、最期まで私たち家族のことを考え、自分の無力さを感じる度に涙するようになった。そんな父を見て、私は何度も涙をのみ父に鼓舞した。父は余命3か月と言われたが、9か月、頑張ってくれた。入院して3か月後には退院して家に帰ってきてくれた。
一時退院して1か月経過したころ、やはり父の体調は悪化し、再入院することになった。いよいよ、父が天国に旅立つ日が近づいたころ、誰にも何も言われず、父は家族全員に、握手をしながら一言ずつ父からの言葉を伝えてくれた。
私への父からの最後の言葉は、『しっかり頑張りなさい』だった。これが、私と父のさいごの約束だ。
父からの最後の言葉を胸に、何度自分の無力さと闘ったか。まだまだ未熟で、闘ったなど畏れ多くて言える言葉ではないのかもしれない。いつまでも続くこの無力さをどうにかしたいともがく瞬間も多々あるけれど、最後は父のこの言葉に落ち着く。しっかり頑張る。とは、しっかりと生きぬく。生き切る。ということなのではないだろうか。
一生の宿題、明確な課題を言わずに壮大な宿題を残してくれた父に、心から感謝。
人生を生き抜くために、毎日生まれなおして清々しくあろうと、最近ようやくこころに決めたのでした。
 
 
 
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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