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大学受験にゴジラが現れた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ねむりじぞう(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
今から約30年前、私は国立大学の2次試験、後期日程の試験会場に向かっていた。
試験会場の最寄り駅で電車を降り、会場の大学キャンパス前の赤色に光る信号を眺めていた。ふと見上げると、桜の樹でたくさんの小鳥がさえずっており、私を応援してくれているようだった。
キャンパスは受験当日とは思えないほど閑散としていた。
(後期日程はそんなものか……)
後期日程の試験は、前期の結果発表後の3月中旬に行われていたのだ。
私は、受験票を手に受験会場の案内板を探した。
ところが、会場案内の看板が見当たらない。試験会場のスタッフも見当たらない。
仕方がないので、前を歩く受験生と思しき人のあとについて、一つの建物に入っていった。
建物に入ると、階段の横に受験番号と部屋番号の一覧が書かれた掲示が張り出されていた。少しほっとした。
しかも私の試験場所はこの建物の二階の教室だった。
(この建物じゃないか! 今日はついてるな)
 
階段をのぼり二階にある試験会場となる教室に入って私の受験番号の書かれた席についた。
なぜか隣の席の受験生が驚きの表情を浮かべて私の顔を覗き込んだ。
(試験前にライバルを挑発してるんだろうか……)
私は気にせず試験に集中する事にした。
 
ほどなくして、試験官がやってきて注意事項を説明した後、試験問題を配り始めた。
私は配られた問題用紙の表紙に目をやった。
 
『後期日程 2日目 小論文』
(2日目……)
(!!!!!)
 
その後すぐに試験は始まったと思うのだが、しばらくの間の記憶は無い。おぼろげながらも必死に試験に取り組んだような気はする。しかし定かではない……。
 
 
午前の試験が終わり昼休みになった。
高校の親友Sがたまたま私を見つけて話しかけに来てくれた。
「あれ、昨日いたっけ?」
「……いや、今日初めて来た」
「……お前何やってんだよーーー!」
(やはりそうだったか……)
私は試験日程を勘違いしており、1日目をすっぽかして2日目に突然会場に現れたのだった。隣の受験生のまるでゴジラを見るような驚愕の顔がふたたび私の頭に浮かんだ。
 
 
試験が終わった後、このまま帰宅したくないと思いながら歩いていると、私の気持ちに気づいたのかSは、
「学校によって行かない?」
と誘ってくれた。
「付き合ってもらえると助かるよ。ありがとう」
 
こうして私たちは、電車を乗り継いで学校へ向かい、担任の先生を訪ねて報告した。
「試験受けるまで気づかなかったのか! まあ、きっといい思い出になるよ。次頑張ろう」
私の大失態を聞いた先生は、半分あきれ顔でこう励ましてくれた。
 
 
親友と担任の先生に慰めてもらい少しだけ気を取り直した私は、一人帰宅した。母はあきれて言葉を失いその場に座り込んだのを今でも忘れはしない。
 
そしてその夜、父が帰宅した時すぐに報告した。
「バカヤロー!!!」
「なに無駄なことやってんだ!!」
普段はわりと無口でやさしい父。しかし、団地中に響くような父の怒鳴り声が家中に響いた……。
 
正直な話、その日の夜は布団の中で落ち込んで一睡もできなかった。
(何で誰も気づいてくれなかったんだろう。家族も友達も冷たい……)
などと無責任なことを考え続けながら。
 
 
何故だろう?
30年も前のことなのに、今でもはっきりとその日のことは覚えている。
ここまではっきりと記憶に残っていることと言えば、9.11同時多発テロや3.11東日本大震災のことくらいだ。
私にとってはこういった大事件、大災害と同程度以上の衝撃的な出来事だった。
そしてそれは私だけではないだろう。父も同じような衝撃と心に深い傷を受けたのだと思う。
今にして思えば、父はとっても期待していたのだろう。「試験手ごたえ良かったよ~」とか言ってくれることを。最悪の場合でも慰めてやろうと考えていたと思う。
それがまさか、
「試験日程を勘違いしていて、1日目と思ってたら今日は2日目でした」
なんて、きっと耳で聞こえていても頭では理解できなかったに違いない。
 
試験会場で出会った親友S、担任の先生など、当時私が世話になっていたみんなが同じようにショックを受けてしまったのかと考えると、改めて大変なことをしてしまったと心が痛む。実際、親友Sは後期日程に失敗し、私立大学へ進学した。私のことは言うまでもない。
 
たった一つだけ、良かったかもしれないと思えることは、「全力で試験日を間違えた事実に向き合って取り組んだ」という事実。
実際には試験が始まっており、どうすることもできなかったわけだが、そこは大目に見てほしい。
他の人から見たら「試験日間違えるなんてありえね~」って思うかもしれない。しかし、30年以上の時を経たいま振り返っても、大失態に気づいたあとで全力で試験に臨んだ姿勢は間違っていなかったと思う。
これは試験に限った事ではない。一度目標を立ててそれに向かって進み始め、努力してきたのだから、どんな事が起こっても最後までやり抜くのは、それだけでも価値があることだと思う。
 
一方で強く後悔していることは、どんなに忙しくてつらい時でも、一人で悩まず、率直に話し合える親友や家族とのコミュニケーションを続けていれば、このようなミスは避けられたのではないか? ということ。
親友Sが同じ大学を受験することを知っていれば、試験日程の勘違いに気づいていた可能性が極めて高いと思う。そう考えると、私のコミュニケーション不足が今回の大失態の原因なのかもしれない。
これは受験に限らないだろう。仕事でも習い事でも遊びやデートでも、どんな時でも人間は信じられないようなミスや勘違いをしてしまうものなのではないだろうか。読者の皆さんには、このような勘違いをしても気づくことができるように、コミュニケーションを大事にしていただきたいと思います。
最後に、受験生の皆さんには縁起でもない話だったかもしれません。でも全力で取り組んだことは、絶対にその後の人生に役立ちますから悔いが残らないよう頑張ってください!
 
 
 
 
***
 
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2021-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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